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どちらを選ぶ ・・ 介護付か? 住宅型か? ②


重度要介護・認知症になると住宅型やサ高住の「区分支給限度額方式」だけでは、対応することはできない。その結果、「囲い込み」などのケアマネジメントの不正、介護報酬の不正請求が増えている。『訪問介護付きだから、重度要介護・認知症になっても安心』は介護保険の基本を知らない素人事業者

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 010


「介護付ではありませんが、同一法人の訪問介護併設なので安心」
「ホームヘルパー24時間常駐で重度要介護対応可」
と説明されると、高齢者住宅への入居を探し始めた高齢者・家族は、どちらも同じような、介護看護サービスを受けられると考えてしまいます。

しかし、実際は全く違うものです。
どっちを選ぶ・・介護付か? 住宅型か? ① 🔗 で述べたように、サービス管理や生活相談サービスは介護付有料老人ホームの介護報酬には含まれていますが、住宅型やサ高住に適用される区分支給限度額には含まれていません。また、介護付有料老人ホームは、提供されるすべての介助項目が報酬算定対象になるのに対して、住宅型やサ高住に適用される訪問介護では、「間接介助」「緊急対応」「すき間のケア」など対象とならない介助が大半です。
それは、介護報酬の算定方法が基本的に違うからです。


「介護付」「訪問介護」の介護報酬算定方法の違い

特定施設入居者生活介護は、要介護度別に一日当たりの報酬単価が設定されており、その介護付有料老人ホームに入居していた日数で介護報酬が計算される「日額算定方式」です。
「1時から1時半はAさんの介助時間」「1時半から2時はBさんの時間」と決まっているわけではないため、一人の介護スタッフが臨機応変に介助を行うことができます。「お腹の調子が悪く、何度もオムツを変えてもらった」としても介護報酬・介護サービスの費用は変わりません。「今日はお風呂の日だけど、ちょっとだけ熱があるので翌日に変更しよう」ということも可能です。

これに対して、区分支給限度額方式は、要介護度別に設定された一ヶ月単位の区分支給限度額を上限としてそれぞれの入居者毎に「サービス内容・利用回数」で、使った分だけが算定される「出来高算定方式」です。また一ヶ月単位の「事前予約方式」が原則であり、ケアプランで定めた「介助時間、介助内容、対象者」に基づいて提供されなければなりません。

そのため、見守り、声掛けなど「どの入居者に対するサービスなのか」が明確でないサービスや、ごく短時間の隙間のケアは対象外です。また、それぞれの入居者の限度額(チケットのようなイメージ)を使って介護サービスを提供しているのですから、「20分の排泄介助」であれば、そのホームヘルパーは、決められた20分は必ずその場で介助や関連行為(トイレを掃除する、オムツを整理するなど)を行わなければなりません。10分で介助が終わったから、他の人に呼ばれたからと言って、その場を離れることはできません。通常のサービスでも、「月曜日10時半から一時間のマッサージを予約して、その費用を支払ったのに『今日は忙しいから』『他の人に呼ばれたから』と30分で終了」となると『どういうこと?』となるでしょう。
特に、介護サービスは自己負担は一割でも、残りの九割は税金や介護保険料で運営されています。「本人がOKと言ったから…」「そのうち、埋め合わせをするから…」で済む話ではありません。

また、事前予約方式ですから、「デイサービスの日だけど休んで訪問介護を受ける」「お腹の調子が悪いのでオムツをかえてほしい」といったサービス変更や臨時のケアに対しても「事前のケアプランの変更」が必要です。変更できなければ、介護保険対象外サービスとしてその介護費用は全額自費負担となります。区分支給限度額方式は、一ヶ月単位の事前予約制のサービス提供ですから、介護付(特定施設入居者生活介護)と違い、臨機応変に対応することはできないのです。


「訪問介護併設だから要介護になっても安心」は素人事業者

このようにきちんと整理すると、「訪問介護が併設」「ホームヘルパーが常駐」であっても、区分支給限度額方式だけでは重度要介護高齢者や認知症高齢者には対応できないということがわかるでしょう。

要支援~軽度要介護高齢者の場合、移動や排泄など基本的なことは自分でできますので、「入浴時の介助」「食事の準備」「通院の付き添い」など、一人でできないことだけ介助してもらうという「定期介助」が中心となります。事前予約制の介護サービスだけでもある程度対応が可能です。

しかし、重度要介護になると移動や移乗、排泄など、ほとんどすべての日常生活に介助が必要になり、「お腹の調子が悪いので何度も便がでる」「汗をかいたので着替えたい」など、臨時のケアが増加します。 要介護4、5となると、スタッフに体調変化を伝えることもできない人が多くなり、状態把握や見守り、巡回などを頻繁に行い、より積極的な介助が必要です。

また、認知症高齢者になると、排泄介助や食事介助は自立していても、「おしぼりを口にいれる」「急いでガツガツと食べて誤嚥・窒息」「他人の部屋に入る」などの他、想定できない行動が多くなるため、見守り、声掛けといった間接介助が中心になります。


このように、「軽度要介護と重度要介護」の違いは、介護サービス量の違いだけではないのです。
住宅型やサ高住でも、「手の空いているヘルパーが対応します」というところがありますが、言いかえれば、それは「手が空いていなければできない」ということです。忙しい時には「便がでて気持ち悪いけれど、オムツ交換の時間まで、そのまま4時間待っていなければならない」ということになります。
また、「常時、手が空いているホームヘルパーを確保する」という場合、その人件費をどうするのか‥という問題もでてきます。

重度要介護高齢者や認知症高齢者には、訪問介護の「事前予約」による「定期介助」だけでは対応できず、特養ホームや介護付有料老人ホームのように「すき間のケア、見守り」など24時間365日の臨機応変に対応できる「包括的、継続的な介護システム」が不可欠なのです。


問題となっている「囲い込み」とは何か

このような話をすると、

「なぜ、特定施設入居者生活介護の指定をとって介護付にしないのか…」
「サ高住や住宅型でも、重度要介護になっても安心と言っているじゃないか」
「実際に、住宅型やサ高住にも重度要介護高齢者が生活しているじゃないか…」

という疑問がわくでしょう。実際、介護付有料老人ホームよりも住宅型有料老人ホームの方が、たくさんの重度要介護高齢者が生活しているというデータもあります。
その理由は簡単です。現行制度においては、特定施設入居者生活介護よりも、同一法人で訪問介護を併設し、区分支給限度額方式をうまく使った方が、事業者は介護報酬が高くとれるからです。

特定施設入居者生活介護の介護報酬には、サービス管理費、ケアマネジメント、生活相談などのサービス費用・人件費が含まれています。これに対して、区分支給限度額には、これらのサービス管理・生活相談サービスは含まれていませんし、ケアマネジメントの費用は、別途算定されます。また、上記のように介護付有料老人ホームはすべての介助を包括的行わなければならないのに対して、区分支給限度額方式の介護サービスの内容は限定的です。
このように介護保険法上、要求されるサービス内容・介助項目は住宅型より介護付の方が多いのですが、一か月当たりの介護報酬は後者の方が高いのです。その差額は、重度要介護状態になるほど、大きくなり、要介護3だと一ヶ月あたり8万円以上、要介護5だと13.5万円にもなります。


誰が考えても、変だと思うでしょう。
ただ、それは、もともと区分支給限度額方式は、一般の自宅に適用される介護報酬だからです。一件、一件離れた家を廻るには時間がかかりますし、手待ち時間もありますから、一人のホームヘルパー(8時間勤務)が介助できるのは一日7人程度です。また、すべての入居者が区分支給限度額一杯まで使うわけではなく、一般の住宅の場合、限度額の50%~60%程度です。訪問介護だけでなく、デイサービスやショートステイなど、複数の介護サービスを分散して利用します。
これに対して、介護付有料老人ホームでは、要介護高齢者が集まって生活しているのですから、一人の介護スタッフが効率的・効果的にサービス提供できます。そのため単価が抑えられているのです。


もう、お気づきだと思いますが、問題はこの一般の自宅と同じ介護報酬や限度額を、住宅型有料老人ホームやサ高住など高齢者住宅にに適用するのが適正なのかということです。現在、低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームの多くは、この制度の違いを活用し、低価格の家賃で要介護高齢者を集め、併設の介護サービスの利用促進で儲けるという手法をとっています。
これが「囲い込み」と呼ばれる手法です。

【参照】  高齢者住宅の「囲い込み」とは何か 🔗 

その結果、多くの住宅型やサ高住の入居者の区分支給限度額の利用割合は90%を超えており、同一法人の併設サービスを、ほぼ強制的に全額使わされるというところもあります。「併設サービスを使ってはいけない」「限度額全額利用してはいけない」というものではありませんが、事業者がそれを強制、誘導するというのは明らかに不適切です。入居者にも説明している、家族も納得しているからいいじゃないかという人もいますが、その9割は社会保険料や税金です。
つまり、「本来、自己負担とすべき家賃や食費を、介護保険に付け替えている」という不正なビジネスモデルなのです。

この「囲い込み」は、介護保険財政の悪化要因として知られるようになっており、日経新聞などの一面などでも大きく報じられるようになっています。

高齢者住宅「サ高住」の異変🔗 ~安いほど増える要介護者~

ただ、それは財政的な問題だけではありません。
「自分たちが行っているサービスが不正かどうか…」ということは、働いているケアマネジャーやホームヘルパーが一番よく知っています。不正に要介護認定を重くしたり、必要にサービスを提供したように見せかけたりと、実際に行っている介護サービスと介護報酬の請求をしている内容はまったく違います。データの改竄や隠蔽が横行しており、それは不正請求というよりも詐欺に近いものです。 不正だとわかっていながら、事業者の言いなりになって働いているホームヘルパーやケアマネジャーに、質の高い介護サービスを求めることはできません。
つまり、「訪問介護併設だから重度要介護になっても安心…」「同じようなものですよ…」と安易にセールスしているところは、悪徳事業者か、もしくは全くの素人事業者だというです。

【関連】 サ高住が本当に危ない理由 ~10年で半分は潰れる~ 🔗
【関連】 低価格のサ高住が直面する三重苦 🔗


当然、社会保障費がひっ迫する中で、このような介護報酬を搾取するような不正は長続きしませんから、囲い込み型のサ高住や住宅型は、この10年内に確実に経営はできなくなります。介護付と訪問介護付の違いも説明せず、「介護が必要になっても安心・快適」「訪問介護併設で安心・快適」と安易にセールスしているような住宅型有料老人ホーム、サ高住は絶対に選んではいけないのです。


「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 

  ⇒ どちらを選ぶ? 老人福祉施設か? 高齢者住宅か? 🔗
  ⇒ どちらを選ぶ? 有料老人ホームか? サ高住か? 🔗
  ⇒ どちらを選ぶ? 介護付か? 住宅型か? ① 🔗
  ⇒ どちらを選ぶ? 介護付か? 住宅型か? ② 🔗
  ⇒ どちらを選ぶ? 要介護になってから? 早めの住み替え? 🔗
  ⇒ どちらを選ぶ? サービス分離型? サービス一体型? 🔗
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  ⇒ どちらを選ぶ? 入居一時金方式? 月額払い方式? ② 🔗
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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
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