SOCIAL

介護離職をしても、誰も幸せになれない

 「ある日、一人暮らしをしてい母親が脳梗塞で倒れたと連絡」
 「夏休みで久しぶりに帰省すると、父親は認知症でごみ屋敷」

 それは複数同時にやってきます。
 「都内で認知症の母親を介護中に、九州にいる夫の父親が脳梗塞で倒れる」
 「東北で寝たきりの父親を介護していた母親が、介護疲れから心筋梗塞で入院」

 誰かに相談しようとしても、ひとりっ子か二人兄弟が中心。その兄弟姉妹もそれぞれに介護問題を抱えています。老人ホームもいっぱいですぐには入所できない、自宅で生活を続けられない、自分しか介護をする人がいないと、八方ふさがりになります。
 更に、自己負担の増加によって、親の介護費用、医療費用は高額となり、自身にもIT、AI、ロボットによる産業構造転換の大リストラ時代が降りかかります。

「自分が仕事を辞めて、実家に帰って介護をするか…」
「老人ホームに入って20万円かかるんだったら、私が介護した方が…」
「親の年金や預貯金もあるし、今なら早期退職で割増退職金がでるし…」
 どんどん、介護離職に気持ちが傾いていきます。


 現在、介護離職者は年間10万人程度。ただ、この数は一年間の単年度の数であり、その数は累積されていくため、現在、親の介護のために仕事をしていない人、正規職員で働けない人を含めると100万人規模になるといわれています。

 一方で、現在仕事をしながら親の介護をしているビジネスケアラーは300万人に達し、その予備軍を加えるとその二倍、三倍になるという試算もあります。その三人に一人は「親の要介護状態が重くなれば仕事を続けられない」と回答しています。
 このまま推移すれば、2040年には、介護離職者は30万人~40万人、親の介護のために仕事ができない、常勤で働けないという人は、労働者数の一割以上の400万人~500万人になると推計する人もいます。

 元気な時は、「子供に介護の負担を負わせたくない」と思っていても、身体の自由が利かなくなり、要介護になって気持ちが落ち込んでいるときに、「実家に戻ってくる」と聞けば嬉しいでしょうし、近隣や親戚の人も、「優しい息子さん、娘さんで、お父さんお母さんは幸せね…」となるはずです。
 しかし、「親のために…」と介護離職をして、親子ともに幸せになった、良かったという話はきいたことがありません。親子ともに待っているのは悲惨な末路です。

誰も幸せになれない、介護離職の巨大リスク

① 介護者の健康リスク
 親の介護が中心の生活になると、それまでの生活環境や生活リズムは一変します。排泄介助で腰痛になったり、認知症の場合、夜間のせん妄や昼夜逆転などで、寝不足になったりもします。
 人生の目標を見失って、「親の介護で人生終わった」とアルコール依存症やうつ病になる人もいます。体調不良でも、介護のために病院に行けず、高血圧の治療やがんの発見が遅れて、介護者である子供が先に亡くなるというケースは少なくありません。

② 介護虐待やネグレクト
 一ヶ月に一週間だけ、ガンの末期であと半年だけ・・と、わかっているのならば、優しく介護をすることができます。しかし、それが5年続くのか、10年続くのか先の見えないトンネルの中で、認知症や要介護状態は少しずつ重くなっていきます。
 特に、介護離職者は親の介護を一人で抱えてしまうため、体調不良や寝不足などで正常な思考ができなくなり、暴言、暴行、無視、ネグレクトなどの介護虐待のリスクは高くなります。更に追い詰められると、介護殺人、介護自殺、介護心中に向かっていきます。
 「無職の子供が要介護の親を虐待・暴行」というニュースを聞くと、「ひどい子供だ…」と思うかもしれませんが、「大切な親のために…」と介護離職をした末路というケースをたくさん見てきました。親がなくなったあとも、「あの時、どうしてもっと優しく接することができなかったのか」と悔やんで、うつ病になって自殺する人もいます。

③ 子供家族の崩壊、夫婦兄弟間のトラブル
 結婚している場合、要介護状態になるのは自分の親だけではありません。
 「そっちの親は良いけど、こっちの親はどうするの?」「わたしたちの老後は? 生活費はどうするの?」とトラブルに発展し、親の介護を契機に別居・離婚となる夫婦もたくさんいます。また、他に兄弟がいても、介護はそのうちの一人だけに重く圧し掛かります。「私だけが貧乏くじを引かされた、他の兄弟は何もしないのに…」と介護負担を巡ってその関係も悪くなり、親族間での孤立が進んでいきます。

④ 家族の貧困・生活困難に
 「親の貯金が3000万円ある」「親の年金があるから、しばらくは大丈夫」と言っても、介護というストレスを抱えながら、切り詰めた生活をすることはできません。3000万円を貯蓄するのは大変ですが、働かなければあっという間になくなります。
 「落ち着いたら働こう」というのは甘い考えで、介護離職者の再就職率は三割~四割程度、自分の望む給与待遇で再就職できる可能性はゼロです。要介護状態は重くなっていきますから、次第に働く気力も能力もなくなっていきます。
 50代半ばで介護離職し、10年介護して親が亡くなった時には、子供も60代。そこから仕事を見つけることは容易ではありません。親の年金、親の資産はなくなり、預貯金ゼロ、自分の年金額は少なく、そこから要介護になれば、厳しい生活を余儀なくされます。それは、子供本人だけでなく、孫世代の進学や就職など未来にも暗い影を落とすことになります。


 これらは特別な事例ではありません。
 無理に、おどろおどろしい話をしているのでもありません。理由はなんであれ、介護離職は、かなりの高い確率で子供や孫の人生を破綻させるほどの大きなリスクになるのです。
 誰もそんなことは望まないはずです。
 「介護のために仕事をやめて実家に帰ろうと思う」という子供の提案は、「ありがたい」と思っても、子供の未来のためだけでなく、自分のためにも、きっぱりと断る必要があるのです。

七〇代から始める介護準備 (トップ)




関連記事

  1. 「自宅で生活を続ける」「老人ホームを探す」の判断基準
  2. 介護離職は世代を跨いだ負のスパイラルへ
  3. 親の介護に向き合い始める時の注意点 (上)
  4. 元気な時にこそ、子供・家族と介護の話をしよう
  5. 事業性も需要も「要介護高齢者専用住宅」に集約される
  6. 認知症を怖い病気にしているのはあなた自身
  7. 介護人材の絶対的不足はこれから本格化
  8. 高齢者の医療介護の負担は確実に上がる

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP