高齢者介護の仕事を始めて、もうすぐ20年になります。
 これまで、たくさんの人と出会い、そして見送ってきました。初めて担当した利用者が亡くなられて涙が止まらなかったこと、特攻隊で当日に終戦となったというおじいさん、入所日に自分が病弱で介護ができないのが申し訳ないと泣かれた娘さん、今でもたくさんの高齢者、ご家族のことを覚えています。 
 高齢者介護は、責任が重く、身体的だけでなく精神的にも厳しい仕事ですが、同時に『どうすれば利用者に喜んでもらえるか』『どうすれば、その高齢者の生活がより豊かなものになるのか』を真剣に考え、高齢者・家族の生活に貢献できる素晴らしい仕事です。

【介護労働の将来性について】

 現在、高齢者介護サービスに対する注目が高まる一方で、『大変な仕事なのに給与が安い』 『将来性の乏しい仕事』と、特に、若い人から敬遠される傾向にあります。
 高齢者介護は労働集約的な仕事ですから、一年目の新人でも10年目のベテランでも、一人の介護スタッフが提供できる介護サービス量は大きく変わりません。介護保険制度に収入を依存している以上、訪問介護の非常勤職員の時給には限界がありますし、介護保険施設の介護スタッフの平均給与は450万円、500万円にはなりません。行財政、社会保障財政は、ひっ迫していますから、介護報酬が大きく上がる可能性が低いことを考え合わせると、『介護スタッフとして働き続けても給与は上がらない』と短絡的に考える人が多いのも無理はないのかもしれません。
 これは、最近のニュースやマスコミ報道にも問題があります。高齢者介護問題を検討する中で、必ず『介護の現場は大変な仕事を安い給与でがんばっている』と言った趣旨のコメントで締めくくられます。その論調に乗って、『給与が安いので男性介護スタッフが結婚を期に介護の仕事をやめてしまうことを「寿退社」と言います』と、勇んで話す人に何人も会いました。
 しかし、私は、介護労働の将来性、介護スタッフの未来をそのようにとらえてはいません。
 『高齢者介護の仕事は、素晴らしい仕事なので安い給与でも頑張ろう・・』などと言う気は、全くありません。超高齢社会に不可欠な安定した産業として成長するためには、超高齢社会を支える『介護のプロ』は、必ず、それに見合った給与や待遇を得なければならないからです。

【市場価値の高い介護労働とは】

 介護業界は慢性的な介護スタッフ不足だと言われていますが、正確に言えば、不足しているのは、指示に従って排泄介助や食事介助、入浴介助などを行う介護スタッフ、ホームヘルパーではなく、それぞれの事業所で適切にサービスの質を管理し、スタッフを育成することのできる介護リーダーです。
 介護リーダーを定義すると以下のようになります。

   『介護サービス事業所において、適切にサービス管理、スタッフ管理、利用者管理
ができるサービスの中核となるスタッフ』
  

 どの事業所でも、介護主任、介護部長など、様々な名称・役職で介護リーダーと呼ばれる人は存在しています。この中核になるリーダーが優秀だと、利用者・家族は信頼してサービスを受けられますし、スタッフも安心して働くことができます。逆に、その能力が低いと、スタッフの不満、利用者・家族の不満が高まり、介護スタッフの短期離職が繰り返され、サービスの質は更に低下、感情的な苦情の発生や介護事故を巡っての裁判、スタッフによる介護虐待などに発展していきます。
 実は、今でも、この『介護リーダー』の待遇・給与は、それほど低くありません。多くの経営者・管理者は、優秀な介護リーダーを真剣に探しており、他の事業者からも高い給与、待遇で引き抜きの声がかかっています。介護リーダーの質が、その事業所のサービスの質、スタッフの質を決め、事業の成否に直結するからです。適切にサービスを管理し、スタッフ・利用者・家族からの信頼も厚く、優良なサービスを提供できる介護リーダーを確保・育成することが、高齢者介護ビジネスの根幹であり、経営者の最も重要な仕事だと言っても過言ではありません。
 特に、民間の介護サービス事業、高齢者住宅の経営者には、『需要が高い』『開設ありき』と、事業の特殊性やリスクを理解しないまま参入している人も多く、トラブルや事故が増えています。それは、利用者離れ、スタッフ離職率や事故対応、裁判費用など経営収支にも大きく影響してきます。今後、サービス・経営の根幹である優秀な介護リーダーへのヘッドハンティングは、ますます活発になるでしょう。
 この業界において、優秀な介護リーダーが絶対的に不足しているということは、その市場価値が評価される、つまり給与や待遇が高くなるということです。また、優秀な介護リーダーになれば、会社や経営者の方針が間違っていると思えば、唯々諾々と応じる必要がなく、積極的に発言することもできます。その事業所にしがみつく必要がないからです。
 私が考える介護労働の将来性は、『介護の仕事をしていれば、一列に右肩上がりで給与が上がる』ということではありません。努力によって、高い給与や待遇、自分の理想やりがいを掴み取ることのできる可能性、チャンスが大きく広がっているということです。

【サービス実務・管理ノウハウを構築する】

 介護に関する技術や知識が進歩、進化していく一方で、それを統括する優秀な『介護リーダー』が絶対的に不足している理由は二つあります。
 一つは、これまで老人福祉という閉鎖的な環境の中で、利用者・家族の視点でサービスが提供されていなかったこと、もう一つは、介護リーダーの持つべき知識・技術が、個人の経験や体験だけに依存してきたことです。個別の技術・知識にとどまり、事業として、『サービス実務・サービス管理はどうあるべきか』が、総合的にシステム・ノウハウとして構築されていないのです。
 その一方で、老人福祉から介護保険に変わる中で、利用者・家族の権利意識は大きく変化し、民事裁判でも『サービス提供責任』『事業者責任』が厳しく問われるようになってきています。サービス管理実務のシステム的な構築、能力の高い介護リーダーの育成は、事業者は言うまでもなく、介護労働者の未来、そして高齢者介護の未来のために不可欠なのです。
 高住経ネットでは、現状の課題を踏まえ、介護保険施設、高齢者住宅事業を中心に、サーヒス実務、サービス管理ノウハウのシステム的な構築に取り組んできました。それは、介護福祉士などの個別の介護技術・知識ではなく、介護リーダーに必要とされる知識・技術です。
 私たちは、その中心を『リスクマネジメント』に置いています。それは『介護事故予防』 『クレーム対応』 『ヒヤリハット』といったポイント対応ではなく、利用相談対応、利用時(入所時)説明、ケアマネジメント、報告連絡相談体制、スタッフ教育など、日々行っているすべての業務・サービスの基礎となるものです。
 リスクマネジメントは、本来、『組織防衛』の視点ですが、それは単に組織を守ることだけではなく、利用者を事故やトラブルから守り、働くスタッフを守ることでもあります。『安心・快適』といった表面的な美辞麗句ではなく、『サービス提供責任』『安全・信頼の構築』を基礎として、サービス全体を見直す必要があるのです。
 事業者責任、法的責任をどう考えるか、サービス実務においてどのような点に注意すべきか、また、それらはどのようにつながっているのか、サービス管理上のポイントは何か、新人スタッフには何を教えるのか・・・検討すべきことはたくさんあります。また、それは、理念や考え方だけでなく、マニュアルや事故報告書策定の基礎、スタッフ教育体制、報連相など、実際に使うことのできる実務に基づくものでなければなりません。

 このサイトは、これまでの高住経ネットの『業務リスクマネジメント』の取り組みを再構築したものです。
 介護保険施設、高齢者住宅事業を中心に、そこで働く介護スタッフ、現在の介護リーダーを対象に、市場価値の高い介護リーダーになるために必要なリスクマネジメントを基礎としたサービス実務、サービス管理実務についてまとめています。
 スキルアップのために、また、これからの高齢社会に必要とされるだけでなく、市場価値の高い介護のプロになるために、たくさんの方にお読みいただければと思っています。


高住経ネット  濱田孝一