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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
強化すべき3つの高齢者対策
団塊世代の高齢者の生活環境、直面する生活課題は、これまでの大正生まれ、昭和一ケタ世代の高齢者が暮らしていた時代とは大きく違っています。これからの超高齢社会の中で強化しなければならない高齢者対策は3つあります。

一つは介護対策です。
2000年の介護保険法によって、全額公費でおこなわれる社会福祉施策から、社会保険制度へと移行され、日本の高齢者介護は大きく進展しました。『お世話になる福祉』から『介護を受ける権利』へと、この10年で高齢者介護に対する社会の認識は大きく変化しています。
介護保険がスタートした2000年の試算では、2010年の要支援・要介護高齢者数は390万人、2025年に530万人程度と推定されていましたが、実際は2010年7月の時点で認定者数は494万人を超え、2025年には700万人を超えると試算されています。当初の推定値の1.3倍であり、介護保険料の設定を含めた制度設計そのものに、大きな狂いが生じています。
後期高齢者数の急増だけでなく、独居高齢者、高齢者夫婦世帯の増加、少子化による家族介護機能の低下、高齢者介護への意識の変化、要介護期間の長期化など、複合的な要因によって、介護保険制度への依存度は想定していた以上に急速に高くなっているのです。

2点目は低所得者対策です。
2011年3月末の段階で生活保護受給者が200万人を突破したというニュースが流れました。戦後の混乱期と同じ水準です。
生活保護は経済的に支援する同居親族がいないことが受給の前提ですから、受給者全体の75%は一人世帯です。また、高齢者に対する生活保護は、勤労など新たな収入の手立てが見込めないため、一時的なものではなく、生涯にわたり保護を廃止することはできません。今後、独居高齢者が増加すること、国民年金等の老齢年金の未納率が高いことなどを考え合わせると、高齢者の生活保護受給世帯が急増することは間違いありません。
直面する高齢者の低所得者対策の課題は生活保護だけではありません。
『預貯金の大半は高齢者が持っている』『高齢者はお金持ち』と言われていますが、資産階層は二極化しており、一部の富裕層が平均の貯蓄額を上げていることは知られています。
そもそも、勤労世帯と高齢者世帯の貯蓄額を単純に比較するのは間違っています。後期高齢者になると、働いて収入を得るということが難しくなりますから、老齢年金とこれまでの貯蓄を取り崩して生活することになります。働いているときにお金を貯めて、年をとって働けなくなった時にそれを使うというのが、一般的な一生涯の貯蓄と消費の流れです。
それでも、平たく見ると現在の80歳以上の高齢者はまだ恵まれていると言っても良いでしょう。彼らが60歳前後で退職したのはバブルが崩壊した平成5年より前です。高度経済成長に支えられて、定期昇給、終身雇用で定年まで働き、高額の退職金をもらい、十分な年金に支えられて悠々自適の生活を満喫するということが可能でした。
しかし、これから高齢期を迎える団塊の世代は、バブル崩壊後の長期景気低迷による早期退職勧告、退職金のカットなどで経済的な課題に直面しています。サラリーマン世帯で、これまでのような「悠々自適」「楽隠居」の高齢期が迎えられる人は、公務員など一部に限られると言っても良いでしょう。リストラで生活設計の変更を余儀なくされ、十分な貯蓄がないままに高齢期に突入している世帯は少なくありません。老齢年金だけで生活するのは難しく、さらにその受給年齢も段階的に引き上げようとされています。
階層分布図をイメージすると、これまでは低所得者層、富裕層は少なく、中間層が盛り上がっている小山のような形でしたが、中間層を占めていたサラリーマンを中心とした資産階層の左部分が土砂崩れを起こし、低所得者層に流れているのです。
 高齢期への突入を目前にして、経済的な不安を抱える人は年々増加しています。貯蓄が少なく、ギリギリの年金生活の中で、病気や要介護状態になれば、途端に生活が行き詰るという高齢者は確実に増えていくのです。
 
もう一つの課題は、住宅対策です。
高齢者の持ち家率は、80%以上と他の年齢層と比較しても高いのが特徴です。
しかし、高齢者にとって住み慣れた自宅であっても、必ずしも安全、安心だと言うわけではありません。
古い日本家屋は木構造を基本としており、敷居などの小さな段差による高齢者の転倒事故が多発しています。また、高温多湿の風土に対応するため風通しの良い作りとなっている半面、住宅内でも温度差が大きいことから、冬場になると入浴中の心筋梗塞や脳出血などが増えることが知られています。高齢者の交通事故死の増加が社会問題となっていますが、今でも自宅内での事故死亡者数はそれを上回っています。
また、自家用車に乗れなくなると、買い物に行くことすら難しくなります。郊外型の大規模スーパーの増加によって地域商店街の衰退や店舗の廃業が進んでおり、『買い物難民』は人口が減少する山間部や過疎地の問題だけではありません。その他、振込詐欺、悪質訪問販売の被害者の大半は高齢者であることも知られています。
持ち家でない高齢者にとって状況は更に厳しいものとなっています。一般の賃貸マンションやアパートでは、認知症によるトラブルや孤独死の発生を心配し、部屋が空いていても独居高齢者や高齢者夫婦は断るというところは少なくありません。
この住宅対策は、介護対策、低所得者対策とも関連しています。
要介護高齢者が低価格で入所できる特養ホームには、現在でも42万人もの申込者がいると発表されています。団塊世代の高齢化によって、要介護高齢者は右肩上がりで増えていきますから、今後さらに狭き門となることは確実です。日本政策投資銀行の試算によると、特養ホーム等への入居が必要な高齢者が2035年までに136万人増加し、その内約4割は、経済的に有料老人ホームに入居できない可能性があるとしています。
特に、今後、後期高齢者が急増する都市部では、職住が分離する中で近隣との関わりが極端に薄く、地域コミュニティが発達していません。人口密度が高くても、隣近所とは挨拶程度の関係でしかないという人も多く、それぞれの家族・高齢者は孤立しています。現在でも、要介護高齢者が要介護高齢者を介護するという『老老介護』、認知症高齢者が認知症高齢者を介護するという『認認介護』、更には介護疲れによる心中、自殺、孤独死などの悲しい事件が報道されていますが、行き場のない要介護高齢者が増加し、これらの問題が爆発的に増加するのはこれからなのです。