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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者対策にかかる制約①~財政問題~
 団塊世代の後期高齢化、要介護化に向けて対策は急務なのですが、それを妨げる二つの制約があります。
 一つは、財政問題です。
 2010年11月に『国立社会保障・人口問題研究所』が公表した資料によれば、2008年の社会保障給付費は前年度比2.9%増の94兆848億円、対国民所得比は2.61ポイント増加の26.76%となり、どちらも過去最高を更新しています。部門別に見ると、年金が49兆5443億円(52.7%)、医療費が29兆6117億円(31.5%)、介護・福祉費が14兆9289億円(15.9%)となっており、内、高齢者関係給付費は65兆3597億円と全体の約7割に達しています。
 また、2011年度の国の当初予算は、一般歳出54兆780億円の内、社会保障関係費は28兆7079億円(一般会計当初予算)となり、全体の53%を占めています。高齢者関係給付費の割合の高さを見てもわかるように、この社会保障関係費は、年金・介護給付などの自然増によって前年度予算比1兆2500億円増となっており、次年度以降も、毎年1兆円を超えて増えていきます。
 先の自民党政府において2008年10月に社会保障国民会議に提出された試算データを見ると、2025年には医療介護費用は、85兆~93兆円(社会保障国民会議 2008年10月)、年金は65兆円(社会保障の給付と負担の見通し 2006年5月)になると予想されています。このままの社会保障施策で推移すれば、社会保障給付費は150兆円に達し、一般歳出から支出される社会保障関係費は40兆円を超えるものになります。社会保障費だけで税収入を超えるという荒唐無稽な数字です。
 直面している財政課題は、これだけではありません。
 国債、借入金、政府短期証券を合わせると2009年末の国の債務残高は900兆円を突破、2010年度予算の国債発行額は過去最大の44兆3千億円、債務残高は2011年度末には997兆円になると予想されており、空前の1000兆円に迫りつつあります。同様に、約1800の地方公共団体の財政不足は、1994年以降急速に拡大、2009年度末には197兆円となっています。
 「無駄を省けば、財源はいくらでもある」と言っていた民主党が初めてゼロから取り組んだ2011年度予算でも、借金依存体質は全く変わっていません。表面上は前年度並の44兆円程度の国債発行に抑えたものの、財政足の7兆円以上を埋蔵金と呼ばれる積立金で補うという国家財政として説明のつかないような予算体系となっています。3月に発生した東日本大震災からの復興にも数十兆の費用がかかると言われています。巨額な社会保障関係費が必要となる超高齢社会の入り口で、すでに日本の財政状況は末期的な破綻状態にあるのです。
 これら直面する財政課題に対して、消費税の値上げは不可避だという風潮が高まっており、現在の5%から段階的に10%に上げるという案が浮上しています。消費税は1%あたり2.5兆円程度と試算されていますから、5%で12.5兆円、その一部を社会保障の財源とするという広報がされています。税金を上げると選挙に負けると言われた時代もありますが、最近の世論統計では『10%程度であれば、消費税の税率アップはやむなし』と考える人の割合は高くなっています。
 しかし、すでに国、地方を合わせて1200兆円もの赤字を抱えているのですから、金利が1%上がれば利息だけで12兆円です。その程度の税額で可能となるのは社会保障費増加分の穴埋め、もしくは巨額赤字の利息返済だけで、今まで通り40兆、50兆という大借金を重ねていくということが前提です。プライマリーバランスを黒字化するだけで、15%~20%程度の消費税が必要になるという試算もあります。
 ただ、現実問題として、長期間続くデフレ、円高という経済情勢の中で、簡単に消費税を上げられる環境ではありません。消費税が上がると、財布のひもは更に固くなりますから、デフレスパイラル、倒産企業の増加につながり、景気・経済は悪化し、法人税や所得税などの税収が悪化するという悪循環に陥ります。
 これは国の問題だけではありません。一般市民の生活に直結する生活保護、介護保険、医療保険の財政悪化は、都道府県、市町村などの地方自治体の財政を直撃する問題でもあります。この数年の内に、激しい勢いで膨張する社会保障費の拠出金の増加に耐えられず、夕張市のように財政破綻する自治体が続出する可能性は高いと考えています。
 ギリシャやアイルランドの財政破綻がEUや世界経済に与えた影響が大きかったことから、IMF(国際通貨基金)を始め、諸外国からの日本の財政健全化に対する圧力はこれまで以上に強くなっています。2011年の初めには、アメリカの格付会社S&P社が日本の国債の格付けを一段階低下させており、国債の長期金利の上昇も懸念されています。超低金利政策を長期間継続するという特殊な環境の中で、国債金利は低く抑えられていますが、莫大な借金の金利が少しでも上がれば、更に財政を苦しめることになります。
 財政の裏付けもなく、人気取りのためだけに大盤振る舞いを続ける政治が続いた結果、日本の財政・経済は、末期的、危機的な状況にあるということを認識しなければなりません。『国債を国内で調達できている内は大丈夫』という人がいますが、高齢者が増えるということは貯蓄を取り崩して生活する人が増えるということですから、今後、その国債購入の原資となっている貯蓄額は低下していきます。国債が国内で調達できなくなれば、国債の信用低下、金利の上昇を招き、行く先は円の暴落、ハイパーインフレです。
 『今の世代が借金をしてすき焼きを食べ、将来の世代がおかゆで我慢して税金を払う』という話がありますが、すでにそれは『世代間の不公平』という問題ではなく、その転換点が目前に近づいているのです。支払いのツケを次世代に回して借金を重ねるという手法さえも限界にきており、これ以上借り入れを増やすこともできない、間もなく破綻するという状況なのです。
 高齢者対策の重要性、必要性は議論するまでもありませんが、この財政問題が大きな制約としてかかってくるということを理解しなければなりません。