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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅に適用される介護報酬の矛盾
 2点目は、高齢者住宅に適用される介護報酬の混乱です。  高齢者住宅に対する介護報酬は、現在、大きく2つに分かれています。   一つは、一般型特定施設入居者生活介護(一般型特定施設)で、現在の介護付有料老人ホームに適用される介護報酬です。これは、特養ホームや老健施設と同じように介護付有料老人ホーム事業者に直接雇用された介護看護スタッフが24時間常駐し、介護看護サービスの提供を行います。要介護度別に一日あたりの介護報酬が設定されており、要介護度が同じであれば、どれだけ介護サービスを受けても一日あたりの介護報酬は同じです。これを日額包括算定と呼んでいます。
 もうひとつは、区分支給限度額を基準とする算定方法で、住宅型有料老人ホームに適用される報酬体系です。これまでの高専賃や新制度のサービス付高齢者住宅でも特定施設入居者生活介護の指定を受け、いわゆる『介護付高専賃』『介護付サービス付高齢者住宅』となることはできますが、現在のところ、その大半はこの区分支給限度額方式を採用しています。
 これは自宅で介護サービスを受けるのと同じように、入居者それぞれが訪問介護や通所介護などの事業者と契約し、訪問サービス・通所サービスを受けるものです。要介護度別に介護報酬の限度額が設定されていますが、利用した介護サービスの内容(訪問介護、訪問看護など)とその利用回数によって、一人ひとり介護報酬は変わってきます。それぞれの高齢者が利用した分だけ介護報酬が算定されるために出来高算定と呼んでいます。
 一般型特定施設の場合、受けた介護サービス量に関係なく、要介護度別に生活した日数で包括的に算定されますから、要介護度が同じであれば1ヶ月の介護報酬は同じです。しかし、区分支給限度額は、その限度額の内、実際に介護サービスを利用した分だけが報酬算定されますから、それぞれの高齢者・入居者によって算定される介護報酬は違います。つまり、同じ一人の入居者が、どの類型の高齢者住宅に入居するのかによって、受ける介護方法や介護報酬が違ってきます。それが混乱の原因です。


 要介護度別に区分支給限度額の利用割合を示したのが上記の表です。平成21年度の介護給付費実態調査結果を見ると、自宅で生活する要介護1の要介護高齢者は、区分支給限度額(16580単位)の内、平均7332単位(44%)しか利用していません。これに対し、その高齢者が介護付有料老人ホームに入居すると、毎月17130単位の介護報酬が算定されます。1ヶ月あたり約10000単位、金額にして10万円ほど高い介護報酬が支払われることになります。軽度要介護高齢者は一人暮らしでも区分支給限度額上限まで使う人は多くありませんが、仮に限度額一杯まで利用しても16580単位ですから、介護付有料老人ホームの入居者の方が高い報酬が支払われることになります。介護付有料老人ホームの増加が介護保険財政悪化の要因になると言われるのは、このためです。

 しかし、重度要介護高齢者を比較すると、この介護報酬は逆転します。
 調査結果を見ると要介護4、要介護5の要介護高齢者でも60%程度しか利用していないとなっていますが、平均ですから、このデータには自宅で家族からの介護を受けている高齢者も含まれています。重度要介護高齢者は、排泄、食事、入浴など日常生活すべてにおいて介護が必要になりますから、一人暮らしや高齢者住宅に入居している高齢者は、確実に区分支給限度額一杯まで介護サービスを利用します。要介護5の高齢者が介護付有料老人ホームに入居した場合は25530単位ですが、区分支給限度額方式の住宅型有料老人ホームやサービス付高齢者住宅に入居した場合は35830単位となります。介護報酬は逆転し、1ヶ月あたり11万円以上の差となります。
 このように同じ要介護高齢者でも、どの類型の高齢者住宅に入居するのかによって、介護報酬が大きく変わってくるのです。
 この問題は、介護保険財政の悪化に直結しています。介護保険財政の効率的運用という側面から見ると、日額包括算定の特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付有料老人ホームには重度要介護高齢者が多く、出来高算定の区分支給限度額方式をとる住宅型有料老人ホーム・高専賃には、軽度要介護高齢者が多いというのが理想です。しかし、経営者側に立てば、その逆が運営しやすく、利益が高いということになります。
 介護付有料老人ホームの場合、要介護1(17130単位)と要介護5(25530単位)の介護報酬の差は、1.5倍程度ですが、実際に必要な介護サービス量の差はそれほど小さくありません。小さく見積もっても3~4倍にはなるでしょう。必要なスタッフ配置と介護報酬を比較すると、軽度要介護の入居者を多くして介護スタッフ数を抑えるほうが利益率は高くなります。
 逆に、同一グループの訪問介護サービス事業所を併設し、重度要介護高齢者を集めて集合的に介護サービスを提供できる区分支給限度額方式の住宅型有料老人ホームや高専賃をつくれば、グループ全体で受ける介護報酬・利益は高くなります。要介護5の高齢者が区分支給限度額まで利用すれば、一般型特定施設の1.5倍の介護報酬をえることができますし、介護付有料老人ホームのように、指定基準や契約で常時決められた介護スタッフ数を確保しておく必要もないからです。
 この非効率な財政支出の歪は小さくありません。現在、介護付有料老人ホームに入居している要介護1の高齢者は、全国で3万人程度ですから、一人1ヶ月あたり10万円とすると、支出される介護報酬の差は毎月30億円、1年で360億円の差となります。区分支給限度額方式の高専賃や住宅型有料老人ホームで生活する要介護5の高齢者数のデータはありませんが、要介護高齢者を中心とした住宅型有料老人ホーム・高専賃は増えていますし、現在、要支援・軽度要介護の高齢者であっても、加齢によって重度要介護状態となります。支出される介護保険の差額は、同様に年間数百億円の差となるでしょう。
 述べたように、本来、高齢者住宅で生活する要介護高齢者が増えると、効率的な介護サービスが可能となるために、介護保険財政の効率的な運用につながるはずです。しかし、現状は高齢者住宅に対する介護報酬が実務に沿っていないために、その種類・類型に関わらず、高齢者住宅の増加が介護保険財政悪化の原因となるという矛盾に陥っているのです。