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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅を混乱させる総量規制の矛盾
 この介護報酬の矛盾は、総量規制の問題とつながっています。
 総量規制は、各市町村の「施設サービス、・居住系サービス」の総量を要介護2以上の高齢者の37%以下というのを一つの目安(参酌標準)にすることによって、その増加を規制しようというものです。特養ホーム、老健施設などの介護保険施設は、別途検討されますから、実質的には、特定施設入居者生活介護の規制だと言っても良いでしょう。


 この総量規制が厳しくなった背景の一つは、介護保険制度の発足直後から低価格の介護付有料老人ホームが急増し、要支援、要介護1程度の軽度要介護高齢者が数多く入居したからです。今でも、介護付有料老人ホーム入居者全体の50%以上は、要介護2よりも軽度の要介護高齢者です。
 介護保険財政の効率的利用の側面から見れば、この日額包括算定方式の一般型特定施設の指定を受けた介護付有料老人ホームに軽度要介護高齢者が増えるということは好ましくありません。ですから「介護付有料老人ホームは介護保険財政悪化の一因だ」という観点から総量規制が行われており、その指定枠は小さなものとなっています。
 ただ、この総量規制は高齢者住宅全体に関する規制ではなく、介護保険上の特定施設入居者生活介護のみの規制です。そのため介護付有料老人ホームに代わってこの規制にかからない区分支給限度額方式を採用する高齢者住宅が増えています。総量規制が始まる前の2005年12月と比較すると、住宅型有料老人ホームは177ヶ所から1934ヶ所と10倍以上に、高専賃も7倍以上に増えています(タムラプランニング&オペーレーティング調べ)。
 この方向性は完全に間違っています。
 述べたように、特定施設の指定が介護保険財政悪化の要因になるというのではなく、介護報酬と高齢者住宅の相性が悪いことが原因なのです。開設時は、軽度要介護高齢者が多い区分支給限度額方式の高専賃や住宅型有料老人ホームであっても、加齢によって入居者の要介護度は重度化していきます。結果、同じ要介護度の高齢者でも、より多くの介護報酬が必要になり、財政圧迫の要因となります。また、新しく開設されるものの中には、訪問介護や通所介護などを併設し、最初から重度要介護高齢者を対象とした区分支給限度額方式の高齢者住宅が増えています。特に高専賃は事前の届け出が必要ないため、無制限・無軌道に増えており、今のところ、これを管理・調整する部署すらありません。
 制度全体を見ずに「特定施設の指定は財政悪化の要因だ」といった場当たり的、近視眼的な施策を続けると、介護保険財政の悪化を食い止めることができないばかりか逆効果になるのです。
 この問題は、新しい介護報酬の創設によって、更に拡大しています。
 介護報酬と高齢者住宅との相性の悪さを解消するために、2006年の報酬改定で制度化されたのが「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」(外部サービス利用型)です。これは、見守り、緊急対応などについては日額包括算定方式で行い、入居者個別の排泄介助、入浴介助などは、外部の訪問介護等を利用して出来高で算定するというものです。
 名前からもわかるように、特定施設入居者生活介護の新しい介護報酬体系であり、包括部分と出来高部分を合わせた限度額は、従来の一般型特定施設の月額報酬程度に抑えられています。軽度要介護高齢者は、出来高部分を全額利用しないため介護報酬を抑えられ、重度要介護高齢者が全額利用しても、区分支給限度額と比較すると介護報酬を抑えることができます。


そもそも、区分支給限度額は、自宅で暮らす高齢者に適用する介護報酬ですから、ホームヘルパーや看護師が各自宅を回るという非効率性を加味して、介護報酬単価は高く設定されています。外部サービス利用型は、集合住宅で暮らす要介護高齢者の介護の効率性を反映させ、現在の介護報酬の課題を修正した高齢者住宅専用の介護報酬だと言えます。
 しかし、この新しい介護報酬が設定されたことによって新たな歪が生じています。訪問介護サービス、通所介護サービスを併設し、一体的に運営している高齢者住宅事業者から見れば、区分支給限度額と外部サービス利用型のどちらで算定するのかによって、同じ介護サービスを提供しても、グループ全体で受け取る介護報酬が大きく違ってくるからです。
 厚労省は、これに対して有料老人ホームや高専賃において区分支給限度額方式で訪問介護を算定する場合は、一人20分以上介護すること、2時間程度の時間を空けること等の通知を出していますが、事業者からすれば、そのように書類を整えればよいというだけですし、逆に入居者は、その制約によって介護サービスが受けにくくなります。更に、都道府県・市町村では、その中身を精査せず、『外部サービス利用型も特定施設の一つ』として、総量規制に含めています。当然、事業者から見ても区分支給限度額のままで介護サービスを提供したほうが収入は大きくなるために、外部サービス利用型の指定は民間の高齢者住宅ではほとんど進んでいません。
 ただ、このような制度の根幹に関わるような歪がいつまでも続くとは思えません。特に、この問題は逼迫する介護保険財政・社会保障財政に直結します。すでに医療保険における訪問診療、訪問看護の診療報酬は、高齢者住宅に対する単価が各自宅を回る報酬と区別して引き下げられています。そのため、将来的には同様に高齢者住宅に対する区分支給限度額の算定は抑制され、外部サービス利用型に移行させられる可能性が高いと考えています。そうなると、要介護5の高齢者に対するグループ全体で受け取る介護報酬は、35830単位から25870単位へと、1/3に、金額では約10万円下がることになります。
 述べたように、介護サービス事業の最大の特徴は、事業者に手の届かない、経営努力では回避できない社会保険制度(介護保険制度)にその収入を依存しているということにあります。高齢者住宅への入居の大きな目的の一つは「介護」ですから、介護保険の方向性は高齢者住宅の経営を大きく左右します。事業者は、現在の報酬体系で利益が出ていても、それが将来どのようになるのかさえわからないという経営の不安定さ、リスクを抱えているのです。