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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
混乱に拍車をかける『サービス付高齢者住宅』③~更なる財政悪化・混乱~
 2011年10月から新制度へ移行される予定ですが、実際にはサービス付高齢者住宅への移行はほとんど進まず、無届施設が急増することになります。それでも、国交省は、制度移行時の混乱はある程度仕方ない、あとは都道府県や市町村で考えてもらおうと安易に考えているのかもしれません。
 しかし、有料老人ホームや高専賃からの移行時の混乱だけでなく、これから新しく作られる「サービス付高齢者住宅」も、その経営や質が安定するとは思えません。
 このサービス付高齢者住宅は、これまでの有料老人ホームのような義務規定の届け出制度ではなく、高専賃と同じ登録制度となっています。この新制度と補助金等の支援制度を歓迎する声は、建設業界やコンサルタントを中心に高く、このサービス付高齢者住宅の推進で、厚労省・国交省は、現在、高齢者数対比で0.4%しかない高齢者住宅を2020年までに3%~5%にするとしています。
 厚労省や国交省は、事前協議が必要な届け出制度にして都道府県や市町村が実質的に規制すると高齢者住宅の数を増やすことができない、とりあえず総量を増加させることに重点を置き、トラブルが発生すれば市町村や都道府県が追々対応すれば良いと考えているのかもしれません。
 しかし、それは実際には不可能です。『登録にすれば開設できる』ということになれば、決められた書類を出せば開設OKということになりますから、事前に都道府県がそのサービス内容や事業内容を詳細にチェックできません。それぞれの事業者の経営体質・サービスの質には相当の開きがでてくるため、現在の高専賃同様に玉石混淆となります。
 指導監査体制を整備したとしても、一旦開設されてしまえば、基準に沿っていない、指導に応じない事業者に対して、厳しい罰則やペナルティを課すことができるかと言えば、それは容易ではありません。後日の指導によって問題が見つかり是正するように求めても、それによって経営が悪化し、設備整備のために値上げしなければならないということになれば、入居している高齢者の生活場所がなくなってしまうからです。
 介護報酬の不正請求によって報酬返還させるために、入居者からの値上げをするということが許されるわけではありません。指導に従わない業者名を公表し、『劣悪な業者』と新規入居者が入ってこなくなれば、その高齢者住宅は倒産し、入居中の高齢者は生活場所を失い路頭に迷うことになります。「とりあえず登録で数を増やす」「トラブルがあれば追々監査・指導」というのは、高齢者住宅事業に適した方法ではないのです。

 もうひとつ、忘れてはならないのが、介護保険制度・総量規制の矛盾による財政悪化・混乱です。
 高齢者住宅事業は、市場原理に基づく営利事業ですから、企業・事業者は、現在の制度・介護報酬の中でどうすれば最も高い利益がでるのかを考えます。現在、総量規制によって、特定施設入居者生活介護の指定は進んでいませんから、最も高い利益が得られるビジネスモデルは訪問介護や通所介護を併設し、重度要介護高齢者を対象とした区分支給限度額方式の高齢者住宅です。登録だけで自由に開設できるのですから、補助の有無に関わらず、この『在宅サービス併設型高齢者住宅』が急増することになります。
 ただ、述べたように、区分支給限度額方式のサービス付高齢者住宅で生活する重度要介護高齢者が多くなると財政の悪化として跳ね返ってきます。そのため、近い将来、有料老人ホームやサービス付高齢者住宅に対する区分支給限度額の算定は、制度改定によって抑制される可能性は高いでしょう。
 しかし、この介護サービス併設型の高齢者住宅は、一つの事業者が、高齢者住宅と訪問介護等の介護サービスを一体的に提供することで、全体として利益がでるように組み立てられています。サービス付高齢者住宅に対して区分支給限度額が抑制されれば、このビジネスモデルは根底から崩壊することになります。収入の基礎が大きく変わるのですから、値上げを余儀なくされ、その金額は数千円単位ではとなく、数万円単位となります。値上げに耐えられず退居せざるを得ないという人もでてきますから、入居者・家族の生活にも大きな影響を及ぼすことになるのです。
 このように、介護保険制度と高齢者住宅制度は、全く逆を向いて走っているのです。高専賃をサービス付高齢者住宅として表面的に改定しても、このような介護保険制度の方向性や社会保障財政の効率運用と真っ向から反するビジネスモデルが長期安定的に経営できるとは、とても思えません。
 建設の補助金を受けたサービス付高齢者住宅は、最低10年間は高専賃・サービス付高齢者住宅として登録することを義務づけるとしていますが、国交省が認定し、補助金をつかって開設した高齢者住宅であっても、介護保険制度が改定され、区分支給限度額方式が抑制されれば経営できなくなる可能性があるのです

 以上、3回に渡ってサービス付高齢者住宅の4つの課題を挙げましたが、これらは関連しています。
 この根幹は、社会保障の実務を行う都道府県・市町村が、高齢者住宅のサービス内容、サービスの質について全く管理・指導できず、介護保険の効率的な運用を図ろうとしてもコントロールできないということです。
 有料老人ホームは監査体制が整っているようにイメージされるかもしれませんが、現在の有料老人ホームだけを見ても入居者保護施策、監査・指導体制は十分なものではありません。入居一時金の返還トラブルや利用権契約に対するクレームは急増していますし、無届施設の届け出も十分に進んでいるわけではありません。本来、有料老人ホームなどの高齢者住宅の急増に対して、国は法整備による入居者保護施策を強化し利用権契約のあり方を見直す、都道府県・市町村は関連職員を増加させるなどの体制の充実が必要だったのですが、その前段階で、制度の混乱によって誰も管理しない、どうなっているのかもわからない高専賃や無届施設が乱立したために、高齢者住宅の監査指導の実務をおこなう都道府県の腰は完全に引けています。
 国は入居者保護の観点から「指導体制の強化・届け出の強化」を推進していますが、都道府県の担当者からは「今更、どのように管理しろと言うのだ!!」と、責任の押し付け合いとなっており、入居者保護のための実務的な体制はほとんど整っていません。
 一部の高専賃、無届施設では、入居者の大半が生活保護の高齢者で、グループ内の訪問介護サービスを限度額まで利用させ、診療所と連携して医療も一体的に提供して、高い利益を得るといった貧困ビジネスが横行しています。サービス付高齢者住宅は指導監査が可能になると言っても、このような行き場のない生活保護の高齢者が人質となっている貧困ビジネスをやめさせることは簡単ではありません。介護や食事などのサービスが止まれば、要介護高齢者は一日も生きていけないのですから、混乱を避けるために更に無駄な税金・社会保障費が投入され続けることになります。
 そもそも、高齢者住宅参入に対する民間企業の意欲は高く、入居者保護を優先し参入障壁を高くしても、長期安定的な制度設計がなされていれば、多くの企業は参入を検討するはずです。厳しい言い方をすれば、制度設計のミスが効率的・効果的な財政運用を阻害しているだけでなく、優良企業の参入意欲を妨げ、長期安定経営が難しい不良債権を作っていると言っても過言ではないのです。