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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
財政負担の重い特別養護老人ホーム
 特養ホームの課題の一つは、行財政・社会保障財政負担の大きさです。
 ユニット型個室特養ホームと一般型特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付有料老人ホームに支出されている社会保障関係費が、どれだけ違うのかを比較します。

 まず一つは、運営にかかる介護報酬の違いです。
 介護保険制度は、要介護高齢者の介護・看護サービスにかかるものです。指定基準となる介護・看護サービスのスタッフ配置基準は、特養ホームに適用される『介護老人福祉施設』、介護付有料老人ホームに適用される『一般型特定施設入居者生活介護』(以下、一般型特定施設)、どちらも要介護高齢者3名に対して介護看護スタッフ1名となっています(これを【3:1配置】と言います)。ですから、本来、同じ報酬単価であるべきですが、特養ホームには、純粋な介護看護サービスに対する報酬だけではなく、事務管理費なども含まれているため、高い介護報酬が設定されています。
 報酬単価の差は、基本単価だけでも一人1ヶ月あたり約3000単位、金額に直すと3万円程度の差になりますから一年間で36万円、60名の高齢者が入所・入居していれば月額180万円、一年間で2160万円の差となります。

 この差を更に広げているのが加算体制の違いです。
 一般型特定施設の介護報酬の加算は、『個別機能訓練加算』『夜間看護体制加算』『医療機関連携加算』の3種類ですが、介護老人福祉施設には『初期加算』『看取り加算』『管理栄養士加算』など20種類以上の様々な加算が設定されています。この中には介護サービスに対する加算だけでなく、『外泊時・入院時加算』といった、入所者の不在時にも算定できる施設の収入補填といった意味合いの加算もありますし、ほとんどの特養ホームが自動的に算定できるものも多いため、実際の介護報酬差は更に広がります。
 介護付有料老人ホームの場合、介護保険にかかるのは介護サービスだけで、それ以外はすべて自費というのが基本ですが、特養ホームの介護報酬は、福祉施設という『施設の特性』というものを鑑み、その運営を安定させるために高い介護報酬が設定されているということがわかります。

 2点目は低所得者対策です。特養ホームは福祉施設として老人福祉法から続く独自の低所得者対策が行われています。
 介護保険制度が発足するまで、特養ホームは全額公費(税金)で運営されていました。介護の必要度に関係なく、入所者数に応じて措置費と呼ばれる運営費が行政より特養ホーム事業者に直接振り込まれ、入所者は年金などの前年度の収入に応じて算定された利用料を、直接市町村に支払う仕組みでした。
 措置費は自治体によって違いますが、一人1ヶ月あたり24~25万円程度、入所者負担は0円~24万円(全額)で、平均すると3万円~4万円程度だったと記憶しています。当時は、個室は少なく、大半が4人部屋を中心とした複数人部屋のものでしたが、収入の高い人には高額であるものの、全体としてみれば非常に低価格で利用できたと言えます。
 介護保険制度以降、数回の見直しを経て、特養ホームの居住費(施設利用料・光熱水費)と食費は基本的に全額自己負担になりましたが、老人福祉法から続く、前年度収入を基礎とした独自の低所得者対策は、続けられています。


 世帯全員が市民税非課税の第三段階の高齢者がユニット型個室の特養ホームに入所している場合、居住費の基準額1970円に対して負担限度額は1640円ですから、一日あたり差額の330円(1970円-1640円)が減額、食費も同様に730円(1380円-650円)が減額されています。合わせて一日当たり1060円、月額31800円の減額、同様に第二段階の入所者は月額64200円が減額されており、これらの減額分は介護保険から支出されています。 ユニット型個室特養ホームの場合、居住費と食費の基準額、介護保険の一割負担をあわせると13万円程度となりますが、減額対象者は、10万円程度、6.5万円程度で利用することができるということです。
 この低所得者対策は、特別養護老人ホーム入所者への独自のもので、生活保護法に基づく施策とは基本的に違います。生活保護の場合、その高齢者の収入だけでなく、預貯金などの資産、同居扶養者(子供等)の収入、資産なども調査対象となり、収入だけでなく資産がある場合は支給されません。申請者の急増によって、生活保護の審査は、年々厳しくなっています。
 これに対して、特養ホームの減額基準となるのは前年度の収入だけですから対象者は大きく広がります。多額の預金を持っていても、前年度の収入が年金だけであればホテルコストは自動的に減額されます。  

 これら以外にも、運営に対する様々な補助施策が行われています。  一つは、建築費用にかかる施設整備補助です。この補助金金額は、都道府県・市町村によって、また整備される年度によって違っていますが、定員1名(1床)あたり、250万円~400万円程度ですから、60名定員の特養ホームの場合、1億5千万円~2億4千万円となります。
 また、建設資金の借り入れについても、独立行政法人福祉医療機構から、低利・固定金利での融資を受けることが可能です。低金利が長期間続いていますので、従来と比べるとそのメリットは小さくなっていますが、低利で固定というのは大きな魅力です。更に特養ホームの運営は社会福祉法人や市町村など一部の公益法人に限定されており、法人税、事業税、固定資産税などは非課税となっています。民間の株式会社の運営する有料老人ホームでは、法人税、事業税の実効税率は40%を超えますし、これに固定資産税等も加わります。

 このように高い介護報酬や利用料の減額、開設・運営に対する直接的・間接的な補助も含め、特養ホームで暮らす入所者は二重、三重の手厚い保護を受けているということがわかります。
 介護付有料老人ホームの入居者と比較すると、ユニット型個室特養ホームの入所者には、一人あたり年間100万円~150万円の社会保障費が多く使われており、個別の加算や税制優遇などを含めると、その差は更に大きなものとなります。莫大な社会保障費がつぎ込まれているために、24時間365日の介護看護サービス付、栄養価の計算された食事付、プライバシーの確保された個室で、1ヶ月6万円~13万円程度で生活することができるのです。
 特養ホームは建設費に費用がかかるといわれていますが、建設補助は一時的な支出であり、実際に高額の費用がかかるのは運営です。厚労省は、特養ホームの緊急対策として、特養ホームを16万床増床するという計画を立てています。民間の高齢者住宅と比較して、一人150万円とすれば、一年間で2400億円、10年で2兆4000億円という莫大な社会保障費が投入されることになります。