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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
人的負担の重い特別養護老人ホーム
 もうひとつの課題は、人材の負担です。
 介護保険制度までの特養ホームの基準配置は、要介護高齢者3人に対して介護看護スタッフ1人の【3:1配置】でした。介護保険制度以降においてもこれが指定基準となり、特養ホーム(介護老人福祉施設)、介護付有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護)の配置基準は【3:1配置】となっています。
 しかし、「集団ケアからケアプラン導入による個別ケアへの変化」「重度要介護高齢者の増加」など様々な要因が重なり、従来の基準の【3:1配置】では安定的な介護サービスを提供することが難しくなっています。
 介護付有料老人ホームでは、【3:1配置】より手厚い介護看護スタッフを配置する場合、上乗せ介護費用が徴収できるため、【2:1配置】【1.5:1配置】としていますし、特養ホームでも上乗せ介護費用が徴収できないにも関わらず、同様に手厚い介護スタッフを配置しているところが大半です。特に、ユニット型個室の特養ホームでは、ほとんどの施設で、基準配置の1.5倍を超える【2:1配置】以上の手厚い介護看護スタッフ配置がされています。
 その原因として「多床室よりも個室の方が多くのスタッフが必要だから」と言われていますが、理由はそれだけではありません。より多くの介護スタッフが必要となる原因は、過度に理想を求めたユニットケアにあります。
 このユニットケアは、京都大学の故外山義先生が提唱されたもので、全室個室、1ユニット10名程度の小規模な単位で食事・入浴などの生活を行うことによって、それぞれの入所者の生活・ニーズに応じた個別ケアを実践しようとするものです。介護スタッフもユニット単位で固定されるため、個々の入居者の状況から性格までが十分に把握でき、入居者の希望や身体状況の変化に合わせて細かな対応ができます。様々な調査によって、このユニットケアは、これまでの集団的なケアと比較して、食事量が増える、ポータブルトイレの設置台数が減少するなど、入所者の生活に様々な良い影響があることが知られています。
 現在の新しく作られる特養ホームは、このユニットケアを行うためのユニット型個室が中心です。
 その建物設備配置基準を抜粋すると以下のようになります。


 このユニット型個室は、要介護高齢者に対する個別ケアという視点で見ると一つの理想だと言えますが、同時に、それを実践するためには、より多くの介護スタッフ配置が必要になるということがわかっています。
 60名定員のユニット型個室の特養ホームを想定してみます。1ユニット10名ですから6ユニットです。
 特養ホームの介護サービスは、24時間365時間動いているのですが、必要な介助が集中する時間は決まっています。早朝の起床時間(7時~8時)には、入所者を起こして、洗面、着替え、歯磨き、整容などの介助を行い、同時に朝食の準備を行わなければなりません。1ユニット一人ではできませんから、その時間帯は1ユニット入居者10人当たり2人の介護看護スタッフで対応することになります。全体で6ユニットですから、毎朝12人の介護看護スタッフが必要です。
 これは食事や入浴の時間も同じです。ユニット単位で介護システムが分離しているため、すべての介護を10人の各ユニット内で完結させなければなりません。食事介助の必要な高齢者が増えた場合、入浴介助に二人介助が必要な高齢者への対応など実際の介護の現場を考えると、ユニット単位で必要スタッフ数は増えていきます。時間ごとに必要スタッフ数を計算すると、60人の入居者に対して40名近い介護看護スタッフが必要になります。
 これは述べた、重い財政負担と一体的な問題です。
 ユニット型個室特養ホームには、高い介護報酬が設定され、何重もの手厚い運営補助が行われているにも関わらず、都市部では収支が悪化しているところもでてきています。それは基準配置(60人定員の場合は介護看護スタッフ20名)の2倍もの介護看護スタッフが必要で、その人件費が運営を圧迫しているからです。
 ユニットケアの有用性を否定しているのではありません。考え方としては素晴らしいものですし、入居者個々のニーズに合わせた手厚い介護サービスの提供ができることは間違いありません。しかし、現在のユニット型個室特養ホームはその理想を追い求めるあまり、『限られたスタッフ数で手厚い介護サービスを提供する』という側面からみると、財政運用、人材運用共に非効率なものとなっているのです。
 建設費用は一回限りのものですが、居室配置は途中で変えられませんから、そのままのスタッフ配置で運営は30年、40年と続いていきます。将来、社会福祉と社会保険の歪が解消に向かっても、介護システム上、より多くの介護スタッフが必要であることに変わりありませんから、「自費・保険・税金」という運営の原資が変わるだけで、ユニット型個室特養ホームの運営費そのものは高いままです。
 要介護高齢者の急増に伴う介護看護スタッフの確保は不可欠であり、労働人口が減少していく中で、介護スタッフの確保は更に厳しくなっていきます。介護スタッフが集まらなければ、事故やトラブルが多発することになり、入所希望者が何十万人いても、スタッフが確保できないために、運営できないという特養ホームもでてくるでしょう。
 社会全体として見ても、効率的な人材の活用という視点は不可欠です。良いシステムだから、どれだけお金がかかっても良い、どれだけ人材を投入しても良いという環境ではありません。現在の特養ホームの課題は、運営により多くの介護スタッフが必要となり、より高額の運営費がかかるというシステムにあるのです。