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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
現在の特養ホームは福祉施設とは呼べない
 この現在の特養ホームの抱えるもうひとつの課題、最大の問題は、この手厚い公的支援を受けて開設・運営されているにも関わらず、本来の福祉施設の目的や役割を見失っているということです。
 現在、新しく開設される特養ホームは、全室個室・ユニット型が中心となっていますが、このユニット型個室特養ホームは、生活保護受給者などの低所得者は対象外となっています。『特養ホームが不足している』と厚労省は、全国で16万床の特養ホームの緊急整備を行うとしていますが、近くに新しい特養ホームができたけれど「お金がないから入所できない」というのがありふれた現実です。
 これは、自立~要支援程度の高齢者を対象とした福祉施設のケアハウスも同じです。ケアハウスは福祉施設である軽費老人ホームの一つで、その開設には高額の建設補助金が支出されていますし、運営にも税金が使われています。しかし、同様にこのケアハウスも生活保護受給者は対象外ですし、都心部では数百万円以上の一時金が必要なケアハウスもあります。そうなると一定の資産を持つ高齢者しか入所できません。
 これは、入所者選定のあり方にも関係しています。
 介護保険制度以前は、行政措置によって入所する施設が決められていましたが、現在は入所者と特養ホーム・ケアハウスとの個別契約となっています。高額の社会保障費・税金を投入しながら、行政は「社会的弱者は誰か」「緊急にサポートすべき高齢者は誰か」という対象者選定に関与していません。
 その入所者選定にあたっては、「重度要介護優先」「独居高齢者優先」など、一定の基準が示されているものの、各老人ホームへの申し込みとなっているため、最終的にその入所の順番は、それぞれの老人ホームで選ぶことになります。
 そうなると特養ホームも安定的に運営・サービス提供したいというインセンティブが働きますから、一部の施設では支払能力の高く、手がかからない人を優先的に選ぶという傾向にあります。新しい入所者選定にあたってサービスの現場からは、「食事は自分で食べられる人がありがたい」「認知症の周辺症状(問題行動)のある人は無理」といった要求があるという話は少なくありません。中には『減額措置の対象者は対象としない』ということを前提に、生活保護の高齢者(第一段階)だけでなく、市民税非課税世帯の高齢者(第二段階、第三段階)を、実質的に外しているという特養ホームまであると聞きます。
 これは、運営費・ホテルコストの設定方法と関係があります。
 本来、福祉施設は、自宅で生活することが困難な地域の社会的弱者に対するセーフティネットの役割をもつものですから、その基準、利用方法、費用は国や地方自治体の責任で決められるべきものです。しかし、現在の特養ホームの居住費や食費は、建設費や食事原価等を勘案して、それぞれの施設が自由に決めて良いことになっています。
 独立行政法人福祉医療機構が2010年3月に発表した調査『ユニット型特別養護老人ホームの実態調査について』によると、2006年度に開設されたユニット型個室特養ホームの居住費の平均は一日2396円となっています。中央値は2100円、最大値は4500円です。社会的弱者に対するセーフティネットとして同じ基準で作られたはずの福祉施設でも施設間で居住費に差があり、その設定金額は基準額の二倍以上になっています。
 最高値の4500円のホテルコストを設定している場合、ホテルコストだけで13万5千円、食費や介護保険の一割負担を足すと、毎月20万円以上の支払いが必要になりますから、全額となると支払える人は限られてしまいます。
 問題は、これらが入所者選定と直接的に関わってくるということです。
 述べたように、減額を行う際の基礎となる基準費用額はホテルコスト1970円、食費は1380円です。ホテルコストが1970円の特養ホームが、上記表の第三段階の高齢者(非課税世帯)を入所させた場合、負担限度額は1640円ですから、基準費用額との差額330円(1970円-1640円)は介護保険から支出されます。
 一方、基準費用額以上の一日2500円のホテルコストを設定している特養ホームが、第三段階の高齢者(非課税世帯)を入所させた場合、本人負担限度額は制度で決められていますから同じく1640円です。基準費用額との差額330円(1970円-1640円)は介護保険が支出されます。しかし、基準額を超えた部分の530円(2500円-1970円)は基準額以上となりますから、介護保険からも支出されませんし、入所者からももらえません。ですから施設が負担(減額)しなければなりません。

 一人一日530円ですから、50名の減額対象者がいると、1年間で1000万円近くの収入減となります。ホテルコスト4500円の特養ホームだと、その差は一人一日2530円、50人で年間4600万円を超えるのです。他の収支は変わりませんので、そのまま余剰金(民間企業で言えば、最終利益)が減ることになります。
 特養ホーム、社会福祉施設は営利事業ではありませんから、この高額なホテルコストの算定は利益を挙げるためのものではなく、建設費から算定して、この金額でないと運営が成り立たないということが前提です。2500円、4500円にしなくても経営が成り立つ、高額の余剰金が生まれるというのであれば、その金額設定自体に問題があることになります。そう考えると基準額以上のホテルコストを設定している特養ホームには、生活保護世帯だけでなく、第二段階、第三段階の低所得の高齢者も入所させられないということになります。社会的弱者の福祉施設として、最初から完全に矛盾しているのです。
 低所得者を入所させると収支が悪化するのですから、中には減額の必要のない第四段階の高齢者が86%、併設ショートステイでは100%と、低所得者を実質的に対象外としているところもあります。営利目的の事業であれば、市場原理・競争原理が働きますから、各事業者がその責任において価格を設定するものですが、高額の補助金を受け社会的弱者のセーフティネットの役割をもつ福祉施設が、各施設で居住費を決めるというのは、どう考えても本来の目的から離れています。
 認知症高齢者や重度要介護高齢者ほど自宅で生活することは難しく、低資産・低所得な高齢者ほど「社会的弱者」となる可能性が高いのですが、現在の老人福祉施設は、本来の「社会的弱者の施設」ではなく「社会的弱者を切り捨てた施設」だと揶揄されるまでになっているのです。
 この歪は、現実の運用において拡大しています。
 現在の特養ホームは、これまでの4人部屋を中心とした古い施設と、ユニット型個室の新しい特養ホームの二つに分かれています。待機者が急増する一方で、「個室の新型特養ホームしか入所しない」「新しい施設にしか申し込みをしていない」という高齢者・家族も増えています。
 彼らに共通するのは「緊急性がない」かつ「一定の支払い能力がある」ということです。介護虐待や孤独死の問題を見ると、現代社会においては『富裕層は社会的弱者でない』という訳ではありませんが、緊急的なサポートが必要なく、待つという余裕があるのですから、彼らは公費・税金で対応すべき、福祉施設の入所対象となる社会的弱者には当てはまりません。

 また、述べたように、この減額制度は、生活保護施策とは違いますから、数千万円の高額な預貯金を持っていても、前年度の年金や収入が少なければ減額されます。実際、入所時には子供夫婦と同居しており、非課税世帯でなかった人が、減額制度を聞いて世帯分離し、一人世帯となって利用料の減額を受けるというケースも相当数に上ると聞きます。
 現在の特養ホームは、「行き場のない高齢者」「社会的弱者」が最低限の生活を維持するための福祉施設・セーフティネットではなく、税金や社会保障をふんだんに使って作られた、低価格で高い、手厚いサービスが受けられる「憧れのケア付住宅」となっているのです。
 それは、金銭的にも精神的にも余裕のある高齢者・家族のために、福祉施策による高額の社会保障費が支出されているということでもあります。そして、その皺寄せが、待機者を増大させ、「低所得者」「老老介護」など、本当に福祉サポートを必要としている高齢者・家族に届かないという歪を拡大させているのです。
 強い社会保障制度を確立するためには、限らせた財源を効率的・効果的に運用し、本当に必要としている人に、必要な金額・必要なサービスを提供するというシステムを構築しなければなりません。現在の制度のままで、このような特養ホームを増やしても、セーフティネットの拡充、地域高齢者の福祉の増進、どちらにも寄与しないということは明らかです。