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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
迷走する社会福祉法人
 営利目的の事業と社会福祉事業が混乱しているという問題は、老人福祉を担う社会福祉法人のあり方にも影響しています。
 株式会社の役割は利益を挙げることだけではありませんが、利益を確保できない事業は継続することができません。最近は企業の社会貢献が叫ばれるようになっていますが、それは企業のイメージアップという側面が強いものです。株式会社の場合、経営者が利益にならない方針を取ることは、資金提供をしてもらっている株主への背信行為となります。
 しかし、利益を見込むことができないものでも、社会の中で必要なサービス・事業はあります。行政サービスや公益性・公共性の高い事業です。
 その中で、社会的弱者に対する福祉施策を推進するために設立されたのが社会福祉法人です。公益性の高い非営利の事業ですから、特別養護老人ホームなどの福祉施設の開設には、多額の補助金が支出されており、法人税や固定資産税は非課税とされています。
 勘違いしている人も多いのですが、特養ホームが介護を目的とした施設ではないように、社会福祉法人は介護サービスを提供する法人として設立されているのではありません。「高齢者介護」は介護保険制度によって社会化されてきましたが、それだけですべての高齢者が安心・快適に生活できるわけではありません。急増している介護虐待や認知力の低下した高齢者の生活破綻など、介護保険制度や民間の介護サービス事業者では対応できない福祉的な視点が必要な難しいケースに対応するのが社会福祉法人の役割です。地域の高齢者すべてのセーフティネットを守る拠点だと言っても良いでしょう。高齢者を取り巻く生活環境、経済環境が大きく変動し複雑化する中で、その役割は以前にも増して重要なものとなっています。
 しかし、介護保険制度からこの10年の間に、社会福祉法人はその設立理念とはかけ離れたようなトラブルが目に付くようになってきました。
 2008年、兵庫県では運営中の社会福祉法人が初めての民事再生法の適用申請を行ったという報道がなされました。この法人では高額の借り入れを行い、介護付有料老人ホームを相次いで新設、加えて同法人の系列としていた医療福祉コンサルタント会社の連帯保障をしていたことから資金繰りが悪化、介護報酬が差し押さえられていたと言います。また、2010年には鳥取県の社会福祉法人で15億円を超える使途不明金が発生し、会計担当の役員が不正に資金を流用、法人の副理事長が運営する建築資材会社に資金を貸し付け、建設資材会社は倒産、9億円以上が焦げ付くという事態になっています。その他、親族経営のトンネル会社を作って物品購入させたり、理事長、施設長、事務長などが親族で固められ、他のスタッフよりも高い給与を得ているというところもあります。
 このような社会福祉法人はほんの一部ですが、介護保険制度の発足によって「運営から経営へ」という言葉が飛び交い、高い余剰金を上げることに注力している社会福祉法人が増えているのは事実です。
 この問題は民間の営利事業と公的な福祉施策の垣根を曖昧にさせるという制度の根幹に関わる問題に広がっています。
 そのきっかけとなったのがケアハウスの入所者の優先入所です。述べたようにケアハウスは、自立~要支援程度の高齢者を対象とした福祉施設です。当初は、要介護状態になっても介護保険を使いながら住み続けられるというコンセプトで制度化されたものですが、24時間、継続的な介護が必要な要介護3~5の重度要介護状態になるとケアハウスのスタッフと訪問介護のポイント介助だけでは対応できなくなります。
 そのためケアハウスに入所している高齢者は、同一法人の運営する特養ホームに優先的に入所するという方法が一般化しています。「ケアハウスに入所すると特養ホームに入りやすい」「ケアハウスと特養ホームを一体的に運用している」というのはよく聞く話ですし、マスコミなどでも当たり前のように報道されています。
 しかし、それは制度的には問題があります。同一法人であっても、ケアハウスと特養ホームは別の目的で運営されている福祉施設です。待機者がそれほど多くないのであれば、このように弾力的に運用するということも許容範囲とされるかもしれませんが、特養ホームへの入所を希望する高齢者の中には、ケアハウスで生活している高齢者とは比較にならないくらい、優先的に対応すべき緊急度・困窮度の高い高齢者・家族も多いはずです。
 この弊害は拡大しています。
 現在、高専賃、有料老人ホームを直接的、間接的に開設・運営する社会福祉法人は増えています。そしてケアハウスと同じように「最後は特養ホームもありますから・・」と入居者募集をしているところがあると聞きます。つまり、地域の公的財産であるはずの福祉施設、特養ホームをセールスポイント・呼び水にして、周辺の営利事業を拡大させているのです。
 介護保険制度が発足した当初、様々な種類の介護サービスを複合的に提供する社会福祉法人や医療法人の利用者の囲い込みが懸念されたことがありましたが、この問題は次元が違います。そのグループ内のサービスを受け、関連の高齢者住宅に入居しないと特養ホームへの入所が後回しになるということです。
 社会福祉法人や医療法人が、高齢者住宅事業を運営するなと言っているのではありません。民間の介護サービス事業者が参入してこないような地域・エリアにおいては、福祉施設だけでなく、高齢者介護・高齢者住宅を担う役割を求められるでしょう。
 ただし、何度も言いますが、特養ホームは福祉施設です。形式上は社会福祉法人の財産ですが、その本質は公益財産とも言うべきものであり、社会福祉法人が独自の利益確保のために運用してよいものではありません。一部の親族が高い報酬を受け取っていたり、理事長が世襲になっていたり、行政の天下りの温床になるというのは論外です。『コンクリートから人へ』『社会保障の充実』は聞こえのよいキャッチフレーズですが、一部の人の利権につながるようでは、無駄であることに変わりありません。
 中には、非課税を良いことに累計で数十億円もの余剰金・繰越金がでている社会福祉法人もあり、その地域で最も多くの金融資産を持つ裕福な法人が社会福祉法人だという、笑えないような話もあります。それだけの余剰金がでているのであれば、ホテルコストを抑える等、地域福祉の向上のためにしなければならないことはたくさんあるはずです。中には、その資金を理事長が勝手に高利で運用しようとして失敗、数億円の損害を被るというところもでています。本来、個人賠償を求められるような大きな問題ですが、理事長はじめ多くの理事が、本来監査・指導を行うべき行政からの天下りで占められているため、何事もなかったように運営が続けられています。
 それぞれの特養ホームで独自にホテルコストを決めることができ、それによって高い余剰金(収益)を上げ、一部の理事がその恩恵を受けているという事実、一方で、絶対的な施設不足で行き場のない要介護高齢者が増え、急増する社会保障費の膨張が社会全体を疲弊させていくという現実をみると、強い憤りを感じます。
 大多数の社会福祉法人、特に、現場で働く介護スタッフ、相談員は、厳しい労働環境の中で、答えが見つからない悲惨なケースに直面しながらも、社会的弱者の立場に立って懸命に働いています。現在の介護保険制度の制度下では、福祉的視点で社会的弱者に対応すべく努力すればするほど収支が悪化し、現場のスタッフが低賃金の中で疲弊していくという本末転倒の事態になっています。『運営から経営へ』と、本来の目的を見失った社会福祉法人が高い利益を得て、補助金を得て介護サービス事業を拡大していくということでは、地域の社会福祉・老人福祉は、どんどん劣化していくことになります。
 いまや、社会福祉法人は、先人が私財を投げ打って培ってきた『社会的弱者の救済』『高齢者のセーフティネット』というその設立理念から大きく離れ、『福祉ビジネス』という得体の知れないものの狭間に立っています。これからの強い社会保障の実現に必要な視点として『効率的・効果的な財政人材の運用』『必要な人に必要なサポート』『周辺産業の活性化』を挙げましたが、そのすべてに反しているのが現在の老人福祉施策なのです。