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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
特養ホーム・社会福祉法人を本来の役割に戻せ ①
 高齢者の住まいの在り方を考える上で、現在の特養ホームの課題は、早急に解決しなければなりません。
 しかし、これは特養ホームや社会福祉法人が不要だということではありません。
 超高齢社会が進展する中で、介護保険だけでは対応できない老人福祉の役割はますます大きくなっています。高齢者を取り巻く生活環境が激変する中で、介護保険制度による『申請主義』『高齢者と事業者との民・民契約』だけでは対応できないケースは急増しているからです。
 最近、大きな社会問題となっており、今後も急増すると考えられているのが高齢者の孤独死です。
 介護保険法では、本人や家族からの申請がなければ、サービスを開始しないということが前提ですが、福祉的な視点に立つと『本人や家族が拒否するのだから、対応する必要がない』ということにはなりません。周囲からは介護サービスや配食など生活支援などが必要な状況で、『このままではどうしようもない』『他の人にサポートしてほしい』と思っていても、自分からサポートを求めるということに抵抗があり、「ほっておいてくれ!」と意固地になって他者との関わりを拒否する、いわゆるセルフネグレクトの高齢者も少なくありません。認知症の高齢者の問題も深刻で、ゴミ屋敷に代表されるような臭いや火の不始末による火災など、周辺住民の生活をも脅かすような事例も増えています。一部の地域では、先進的な行政やボランティア、NPOなどが、地域の独居高齢者を訪問するというサービスを行っていますが、その対応には限界があります。
 増加している介護虐待も同じです。
 厚生労働省が発表した高齢者虐待防止法に基づく対応状況に関する調査によると、2009年度に発生した高齢者への虐待件数は、前年度比5%増の15,691件に上り、死亡例は32人、前年度より8人増えています。ただ、家庭内虐待の場合、被害者の77%が女性、全体の約半数は認知症、また86%は被害者と虐待者が同居しています。要介護高齢者は外に出る機会が少ないために児童虐待以上に表面化しにくいということを考えると、この数字は、氷山の一角であることは間違いありません。
 昨年、『100歳以上の行方不明の高齢者』の問題がマスコミを騒がせ、『年金詐欺』として立件されていますが、その高齢者の死亡原因についてはもうわからないままです。80歳、90歳の身体機能の低下した高齢者が、自分の意思で忽然と消えるということは常識的には考えらず、ミイラ化して発見されるなど報道されている内容を見ると、必要な介護や医療サービス、家族からの支援を受けていたとはとても思えません。介護虐待や介護拒否、経済的虐待によって必要な介護・医療サービスが受けられずに亡くなったというケースが相当数に上るのではないかと思います。景気の低迷、リストラによって「パラサイト」と言われるような、親の年金を頼りに生活している40歳代、50歳代が増えていると言われていますが、身体的な虐待や勝手に高齢者の年金を使い込むなどの経済的虐待を行っているケースなど、家族からの申請を期待することはできないでしょう。
 このようなケースを解決するためには、地域の民生委員と協力して、専門知識や相談援助技術を持つ社会福祉士などが何度も訪問を行い、長い時間をかけて様々な話をしながら人間関係を構築し、解決の方向を探られなければなりません。その上でサービス導入をすすめ、初めの数回のサービスには同行し、トラブルがあれば、すぐに駆けつけるなどのアフターフォローも必要です。また、介護虐待の可能性が高いと判断される場合、行政との協議の上、強制的・緊急避難的に施設入所を行うなど被虐待高齢者と虐待者との分離も必要となります。
 老人福祉は、介護サービスの提供を目的とするのではなく、介護保険や民間の介護サービス事業者では対応できない、社会的弱者を救済するための制度です。『要介護状態』『介護サービス』ではなく、また、その対象高齢者だけを見るのではなく、その家族や生活環境も含めた積極的・全人的な対応が必要となります。このような民間の営利事業者では対応できない、手の届かない難しいケースに、福祉的な視点から対応を行うのが非営利法人である社会福祉法人の役割です。
 同様に特養ホームは介護施設ではありません。何らかの理由で自宅や民間の高齢者住宅で生活できない高齢者への対応、介護虐待などからの緊急避難など特殊な役割を持つ社会福祉施設です。介護保険を申請しないから特養ホームに入れないというのは、その役割を考えると根本的に間違っています。制度的には、介護虐待等からの緊急避難のための措置制度を残していますが、実際には全くと言ってよいほど活用されていません。
 ただ、これは社会福祉法人だけの責任ではありません。老人福祉が競争原理の働く介護保険制度に取り込まれてしまったために、社会福祉法人が本来の社会的弱者対応では、運営が継続できなくなっているのです。民主党は、特区での特養ホームの民間企業の参入を認めるとしていますが、これも介護と福祉が混乱しており、社会保障全体の仕組みや社会福祉・セーフティネットの役割を全く理解していない、完全に間違った方向に向かっているということがお分かりいただけるでしょう。
 社会福祉法人、特養ホームのあり方や介護保険制度との関係を根本的に見直す必要があるのですが、ここでは特養ホームの運用実務において、都道府県・市町村が検討すべき二つのポイントを挙げます。