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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
特養ホームを本来の役割に戻せ ① ~入所者選定~
 現在の特別養護老人ホームの制度において、早急に検討すべきは申込方法・入所者選定方法の見直しです。
 団塊の世代の後期高齢化や高齢者世帯の増加によって、この10年~15年の間に自宅で生活できない要介護高齢者は急増します。また同時に家庭内での虐待や介護拒否といったトラブルの増加も危惧されており、これら老人福祉施設の社会的役割・社会的必要性は高まる一方です。高額の補助金・社会保障費が投入されている老人福祉施設ですから、その対象となる入所者をどのように選定するのかは、その公益性・公平性の上からも非常に重要なポイントです。
 しかし、現状では各特養ホームでの直接申し込み、直接契約となっており、最終的にその順番はそれぞれの特養ホームで決めることになっています。『自分で入所する施設を選択できる』ということは大切なことですが、それには十分なサービス供給がされており『希望すれば、いつでもどこかの施設には入所できる』ということが前提です。現在のように施設が不足し、申込者数が右肩上がりで急増しているという現状を考えると、入所基準を明確に一元化し『どこでも良いので今すぐ入所したい』『生活がすでに崩壊している』という高齢者を優先すべきであることは言うまでもありません。
 要介護度が重い・軽い、独居か否かに関わらず、『個室が空くまで待っている』という余裕のある高齢者・家族は、後回しでもかまいません。また、その本来の役割・目的からすると社会福祉法人・特養ホームは『より緊急に保護が必要な高齢者を優先する』というのがその使命であり、『この人は嫌、こっちの人が良い』という入所者選定が、許されるわけではありません。
 この入所者選定に行政などの第三者機関が介在するという仕組みは、入所後の各特養ホームの役割の強化を考えても必要です。介護虐待、経済虐待などの問題を抱える高齢者、家族の場合、その問題を一つの施設で対応・解決することは容易ではありません。家族との間で様々なトラブルが予想されますし、時には法律や警察の力を借りなければならないようなケースもあるでしょう。福祉的機能を原点に戻すためには、現在のような「特養ホームと入所者・家族との個別契約」ではなく、行政が間に入って一定の強制力をもって調整するという機能は不可欠です。
 更に『生活保護などの低所得者は、新型特養ホームは対象外』という問題も解決しなければなりません。この『緊急度』や『優先順位』には、所得・資産の有無は関係ありません。特に、低所得者は財政的な問題から、民間の有料老人ホームに入所することはできないため、支援の方向性が限られることになります。社会福祉が下支えしないと、低所得者は貧困ビジネスのターゲットになります。  特養ホーム等の福祉施設は、現在のような施設毎の申し込み、入所者選択ではなく、各市町村、エリア毎に福祉施設への申し込みを一本化し、第三者の目で審査し『このままでは生活を維持できない』『緊急的な対応が必要だ』という人が優先して入所できるようなシステムを構築すべきです。


 この地域毎の申し込みの一本化、入所基準の一元化には、もうひとつ大きな目的があります。それは待機者数の把握です。
 述べたように、厚労省の資料によると現在の特養ホームの入所申込者は全国で42万人を超えているのですが、この42万人というこれまで厚労省が示してきた数字には疑問符が付き始めています。
 2010年の10月7日に厚労省が社会保障審議会の介護保険部会に示した資料によると、待機者を適切に把握している全国の特養ホーム15施設を対象に調査したところ、15施設の入所申込者の合計5231人に対して、実際の待機者は1176人だという結果がでてきたからです。申込者の中で、厚労省が示している『介護の必要度』『家族の状況』『居宅サービスの利用状況』などによって、特養ホームで優先的に対応すべき待機者を把握するとその数は20%程度になるということです。
 これを受けて、2011年2月から全国の1500の特養ホームを対象に行われた医療経済研究機構の『特別養護老人ホームにおける入所申込の実態に関する調査』によると、優先して対応すべき高齢者は10.8%だという結果がでています。
 つまり、厚労省がこれまで42万人と示してきたのは、各施設で申し込みされた高齢者の数を足しただけの数字であり、その内容を精査し、本当に特養ホームの対象者となる待機者は5万人を切ることになります。さらにこの調査は、個別の施設に対する調査ですから、一人で複数施設申し込みされている方も含まれていますから、実数は更に少なくなるはずです。更に、この調査に回答した施設は全体の1/3の592施設、さらにその2割は、事務負担が大きいとして申込者の原状さえ把握していません。『42万人分不足している』という数字を根拠に、『特養ホームの緊急整備』として16万床以上の整備が決定された後で、これを発表するということに大きな作為を感じざるを得ません。
 厳しい見方をすれば、厚労省は、一般の市場価格の1/3程度の要介護高齢者住宅を、福祉予算を使って建設したいために、実際の必要数も調べないままに『42万人も殺到しているのだから、不足しているのです・・』と喧伝していたことになります。それが、非効率、不公平で、継続性のない施策であり、これからの介護保険財政、地方自治体の財政に大きな影を落とすであろうこともわかっていたはずです。これが「コンクリートから人」への正体だとすれば、『老人福祉の向上』『社会保障の充実』という名の下に、国民を騙していたことになります。それは単なる作為的というではなく、明確な悪意です。
 ただ、これは厚労省の責任だけではありません。厚労省から見れば「必要数の把握は市町村の責任」「地方から特養ホームを作ってほしいという要望が多い」ということになるでしょう。国会議員、地方議員、首長に限らず、選挙になると、多くの立候補者は「特養ホームの増設」をその公約として掲げています。しかし、述べたように、特養ホームは、その運営に莫大な費用がかかるのですから、財源、人材が限られている中で、特養ホームを作ると長期間にわたって社会保障財政、地方自治体の財政を圧迫し続けることになります。その地域で、緊急に入所を待っている高齢者がどの程度いるのか、福祉施設対象の高齢者がどの程度いるのかさえ正確に把握できないようでは、地域の福祉計画、介護計画を策定することなど、とてもできません。  地域高齢者の福祉の向上をはかるためには、特別養護老人ホームの役割・目的を明確にしてその地域の申し込みを一本化し、福祉施設入所の対象者数を把握する、入所基準を明確にするという作業を早急に行う必要があるのです。