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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
特養ホームを本来の役割に戻せ ② ~利用方法~
 特養ホームの見直し、もうひとつの論点は利用方法です。
 特養ホームが、老人福祉以外の福祉施設、介護保険施設と違うところは、『終の棲家』として運用されているということです。
 高齢者は、新しい生活に対する適応力が低下するために何度も暮らしの環境を変えるというのは、好ましくありません。そこで最後まで看取るということを前提として入所が決まれば、家族にとっては安心ですし、精神的にも高齢者の生活を安定させることができます。これは養護老人ホームやケアハウスでも同じです。
 しかし、特養ホームの申込者・待機者は増加しており、今後、団塊世代の後期高齢化によって、右肩上がりで増えていきます。運良く入所できた高齢者は幸運ですが、その一方で、長期間『介護地獄』と揶揄されるような厳しい環境の中で生活を続けなければならない家族が増えていくというのは、高額な税金を投入して作られた公的な施設という役割から見ると不公平です。
 『終の棲家』とすべきではないというのではなく、もう少し、弾力的に運用すべきだと考えています。
 ポイントは二つあります。
 一つは、定期的な生活環境の見直しです。現在のように終身利用を前提とするのではなく、半年、1年など定期的にカンファレンスを行い、その生活環境を見直し、家族の受け入れ態勢が整えば自宅に戻ってもらう、また福祉施設ではなく高齢者住宅に移転してもらう等の対応を検討する機会を設けるべきだと考えています。
 また、『重度要介護優先』『独居高齢者優先』といった一律の入所基準では、福祉サポートの必要性の有無は見えてきません。軽度・中度要介護、家族同居であっても、緊急にサポートすべき要介護高齢者はたくさんいます。一時的な緊急避難的な機能を強化し、かつ、福祉的な視点からの生活建て直しの相談・援助機能を強化することによって、特養ホームの役割・機能は大きく広がり、本来の福祉施設に戻すことができます。
 もう一つは、ミドルステイの検討です。
 現在の特別養護老人ホームは長期終身利用ですし、それ以外は一週間程度のショートステイしかありません。このショートステイですが、本来は冠婚葬祭などの家族の事情に対応できるように制度化されたものですが、家族の『介護疲れ』をサポートするという役割が大きくなっています。そのため、毎月、ショートステイの利用が終わると次の利用を予約するという人が大半だと言います。このような短期利用が、その家族や利用者(高齢者)の生活スタイルとして合致しているというケースもあると思いますが、大半の家族は『もう少し長く預かってほしい・・』と思っています。ショートステイは、そのまま残せば良いと思いますが、特養ホームの定員数の一定割合については、1ヶ月、3ヶ月といったミドルステイの活用も制度化すべきではないかと考えています。

 現在の特養ホームは、実質的に『終身利用か否か』という二者択一ですから、基本的に途中で退所するということは想定されていません。その結果、一度入所のチャンスを逃してしまうと、次の順番まで長い間待ち続けなければなりません。そのため、『お母さんに申し訳ない』と今生の別れのように、涙を流しながら入所を決められる方もおられます。また、突然、入所が決まったと連絡を受け、本人、家族の気持ちが整理できないまま慌てて入所したものの、『やはり家で暮らしたい』と退所となり、結果その後の生活が維持できずに、また途方に暮れるというケースもあります。
 現在のような『終身利用が前提』という方法を見直すことによって、多くの人が柔軟に特養ホーム・福祉施設の機能を利用できるようになります。一度入所しても、家族の事情や環境が変われば自宅に戻ることができ、また、困ったときにはいつでも利用できるということになれば、現在のように入所希望者が大挙押し寄せるということもないはずです。
 都市部では、ショートステイが不足している、数ヶ月先まで予約が取れないと言われていますから、ミドルステイだけでなく、ショートステイへの弾力的運用など、それぞれの自治体で、不足しているサービスや全体の利用状況を勘案し、限られた福祉施設をどのように運用するのかを決めれば良いのです。無届施設の温床となるような、目先のことしか考えていないお泊りデイサービスのようなものを作るよりも、よほど効率的で効果的です。
 これは特養ホームだけでなく、ケアハウスにも同じことが言えます。地域によっては特定施設の指定を行い、ショートステイで利用するということを検討すべきでしょう。現在、ショートステイに利用者が殺到しているのは、軽度~中度要介護高齢者も利用しているからです。要介護1~2までの高齢者はケアハウスのショートステイ・ミドルステイ、要介護3以上の高齢者は、特養ホームのショートステイ、ミドルステイで対応するという住み分けができれば、利用できる人は増えるはずです。
 この利用方法のマネジメントが各都道府県・市町村単位でできれば、その地域ニーズに合致した、高齢者対策が可能となります。低価格で利用できる公的な施設が絶対的に不足するということは避けられないのですから、運が良い一部の人のものでなく、いかに使いやすくするか、多くの人が公平に利用できるようにするのかを、真剣に考えるべきです。


 以上、老人福祉施設である特養ホームの運用の見直しについて2点挙げましたが、これらは都道府県・市町村だけで対応できる問題ではなく、制度設計そのものを見直さなければなりません。また、これ以外にも利用方法の見直しには入所者負担のあり方が検討課題となりますし、社会福祉法人の運営のあり方、税制、管理者資格など検討すべき点はたくさんあります。
 最近、ガバナンスという言葉を良く耳にしますが、社会福祉法人は個人の財産ではなく、地域の共有財産です。営利目的の事業ではないからこそ、透明性を確保しなければなりません。福祉経験のない、何もできない天下りの施設長が高額の給与を取り、現場の介護スタッフが厳しい待遇の中で働いているという問題も解決しなければなりません。
 何度も言いますが、社会福祉、老人福祉の重要性は、高齢化の進展とともに、今後ますます高くなっていきます。特養ホーム・社会福祉法人の再生は、セーフティネットの再生です。
 特別養護老人ホームを、介護施設ではなく、本来の社会的弱者の保護を目的とした福祉施設に戻し、介護虐待、介護放棄など、難しい困難ケースへの対応力が強化されるように、その運営費、運営のあり方を根本的に見直さなければ、これからの、あるべき強い社会保障、セーフティネットを語ることなどできないのです。