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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
早目の住み替えニーズ ① ~ニーズが限定的~
 『高齢者住宅の経営実務のポイント』を一言で言えば『リスクマネジメント』に集約されます。入居希望者が多くなるのは間違いないのですから、その事業特性を理解し、長期安定経営を阻害する様々なリスクを想定し、削減することが、高齢者住宅経営の基礎です。
 ただ、述べたように一旦開設するとサービス内容や価格を改定することは容易ではありませんから、事業計画や商品設計の段階で、経営環境の変化や発生しうるリスクを詳細に検討しなければなりません。言い換えれば、リスクマネジメントの視点で商品性をチェックすれば、事業計画の段階でその高齢者住宅が成功するか、失敗するか、長期安定経営が可能か否かは、ある程度判断することができるのです。
 現在、開設・経営されているものの中で、高齢者住宅の事業特性から判断して、事業リスクが高いと考えられるもの、4つのケースについて述べます。

 第一は、『早目の住み替えニーズ』と呼ばれるものです。
 この早目の住み替えニーズは、介護が必要になってから住み替えるというのではなく、体が動く元気なうちから高齢者住宅に入居し、その生活に慣れていたほうが、介護が必要になったときも安心だろうと考えるニーズです。介護地獄、介護崩壊などの刺激的な見出しが週刊誌に踊り、将来不安が高まる中で、家族に迷惑かけたくない、早い時期から安心したいと考える人が増えるのは当然のことです。特定施設の総量規制に加え、高専賃は有料老人ホームの届け出が不要になったことから、特にこの数年『早目の住み替えニーズ』をターゲットとした高齢者住宅が急増しています。新しいサービス付高齢者住宅でも、この傾向は続いているようです。
 しかし、実際の事業としてみた場合、自立した元気な高齢者が加齢によって重度要介護状態となり亡くなるまで、安心して生活できるような高齢者住宅を作るということは簡単ではありません。

 安定的な経営を阻害するリスクは、大きく分けると3つあります。
 一つは、早目の住み替えニーズそのものが限定的だということです。
 それは、現在のケアハウスを見ればわかります。
 ケアハウスは、基本的に生活が自立していても、一人で生活するのが不安だという高齢者のための福祉施設です。イメージとしては自立~要支援の高齢者を対象としたもので、全室個室でバリアフリー、食事付、管理者の他、相談員、介護スタッフが配置されています。夜間も宿直員が配置されていることから、緊急時にも対応が可能です。介護サービスが必要になれば、自宅で生活するのと同様に訪問介護や通所介護を利用することができます。福祉施設ですから、建設補助金や税金が支出されており、民間の高齢者住宅とは比較にならないほど低価格で、これらのサービスを利用することができます。
 早目の住み替えニーズをもつ高齢者にとっては非常に恵まれた生活環境なのですが、要介護高齢者を対象とした特養ホームと比較すると、ケアハウスは一部を除いてそれほど待機者で溢れているわけではありません。それは元気な高齢者の場合、現在の住居に住み続けられない差し迫った理由がない限り、将来に不安があっても『そのうちに考えなければなぁ・・』という程度で止まってしまうからです。
 そもそも、この『早目の住み替えニーズ』は制度設計の混乱によって無理に作られてきたという側面が強いものです。特養ホームとケアハウスの入所申込者数を比較してもわかるように、早急に整備しなければならないものは、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅です。しかし、近視眼的な特定施設の総量規制や、大量の社会保障費を投入したユニット型個室特養ホームによって、要介護高齢者専用の住宅整備の足は止まっています。
 確かに『早目の住み替えニーズ』はゼロではありません。『施設ではなく自由な住居が良い』という人もいるでしょう。ただ、その将来不安の原因は、中間層が入居できる安定的な要介護高齢者住宅が整備されていないことにあります。厳しい見方をすれば、高齢者住宅は必要だけれど、要介護高齢者対象のものは作れないために、『早目の住み替えニーズ』がクローズアップされ、大きなマーケットであるかのように叫ばれているにすぎないのです。