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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
早目の住み替えニーズ ② ~重度化対応リスク~
 早目の住み替えニーズ、二つ目のリスクは要介護度の重度化への対応が難しいということです。
 早目の住み替えニーズは、『現在』ではなく『将来の介護の不安』のニーズです。
 しかし、『介護が必要になれば介護保険が利用できる』としていても、区分支給限度額方式の排泄介助、入浴介助といった事前のケアプランに基づく時間単位のポイント介助だけでは、24時間の介護が必要となる重度要介護高齢者には対応できません。重度要介護状態になると、ベッドを上げてほしい、車椅子に移乗してほしい、テレビをつけて欲しいなど、介護保険の算定対象とならない、継続的で細かな介助が多くなるからです。
 要介護高齢者への対応力を強化するために、『24時間ホームヘルパー常駐』『訪問介護併設』で重度化対応可能としているところもあります。入居者同士でコミュニティを作って、『介護が必要になれば助け合おう』という理念で経営されているところもあります。しかし、全ての入居者の身体機能が加齢によって少しずつ全体的に低下していくのです。50人の入居者の内、ほとんどの高齢者が自立・要支援で、中度~重度要介護の高齢者が1割程度というのであれば対応できるでしょうが、半数の高齢者が中度~重度要介護となれば一人の宿直員、ホームヘルパーではとても対処できません。個別、一人の要介護には対応できるように見えても、全体的な要介護度の悪化、介護サービス量の増加には対処できないのです。
 これには建物設備設計も関係してきます。元気な高齢者を対象とした住宅と要介護高齢者を対象とした建物・設備は、生活動線や介護動線の考え方が根本的に全く違います。バリアフリーというだけでは、中度~重度要介護高齢者には対応することができません。
 例えば、車椅子の高齢者が多くなると、移動・移乗の介助が必要になりますが、食堂が別フロアーに分かれている場合、その介助だけでも多くの時間とスタッフが必要になります。またエレベーターには車椅子数台しか乗れないため、毎日三回の食事毎に大混雑することになります。車椅子高齢者の生活動線、見守り体制を含めた介護動線や介護システムが一体的に検討されていないと、事故やトラブルが増えますし、介護サービス提供の効率性も大きく低下します。
 認知症対応の問題もでてきます。
 現在でも認知症高齢者は270万人を越えるとされています。身体機能レベルの高い高齢者が認知症となり様々な周辺症状(迷惑行為など)がでてくると、他の入居者の生活にも大きな影響を及ぼすことになります。また、その症状や変化を早期に発見し、24時間の安定的な見守りやサポートができる介護体制が整わなければ、不安や人間関係のトラブルによって認知症は一気に悪化することになります。
 特に、これまでの高専賃や税制優遇等の対象となっているサービス付高齢者住宅は、借地借家法によって厳しく定められた借家権(借地権)です。他の入居者とのトラブルや生活を脅かすような迷惑行為が起こっても、本人が納得しない場合、事業者から退居を求めることはできません。『念書をお願いしている』というところもあるようですが、借地借家法が優先されますから、法的には意味がありません。
 認知症高齢者の加害行為(後ろから押されて転倒)で他の入居者が骨折したケースでは、事業者に過失ありとして1000万円の損害賠償の支払いを命じる判決がでています。『話し合いで解決する』『入居時に丁寧に説明する』としていても、トラブルを本人が覚えていない、本人が認めないというケースも多く、その後の行き場所が確保されない場合、他の入居者や家族も巻き込んで大きな問題となるでしょう。
 更に問題は、このように重度要介護高齢者が増加しサービス提供が難しくなくなっても、途中で価格・サービス内容を変更できないということです。
 自宅で生活している高齢者の多くは、入居を決めなければならないという差し迫った理由はありませんし、現在、自宅で生活するにあたって、日々の生活費に高い費用がかかっているわけではありません。ですから早目の住み替えニーズと呼ばれるものの多くは、介護付有料老人ホームと比較すると低価格に抑えられています。サービス内容や立地環境にもよりますが、家賃、食費、管理費込みで、月額15万円~18万円というところが多いようです。
 しかし、その金額に介護保険の一割負担を乗せれば、要介護高齢者になっても生活できるかと言えば、それは不可能です。また、早目の住み替えニーズとなると、対象者は70歳代の高齢者が多くなりますから、その後15年、20年生活されることになります。述べたように、途中で大幅にサービス内容や価格を変更しないということが前提ですから、入居者にとっても事業者にとっても、非常にリスクの高い契約となるのです。
 もう一度、ケアハウスの話に戻りましょう。
 早目の住み替えニーズ対応として作られたケアハウスの制度は、平成元年にスタートしてから20年以上が経過していますが、一部の特定施設入居者生活介護の指定を受けているところを除いて、重度要介護高齢者はほとんど生活していません。また、述べたような要介護の重度化対応リスクのトラブルも発生していません。それは、同一法人で運営している特養ホームがあるからです。第三章で述べたように運用方法としては問題があるのですが、要介護高齢者になっても、同程度の低価格で入所できる要介護高齢者対応の福祉施設があるために、トラブルが表面化しないのです。
 民間の高齢者住宅には、そのような裏技はありません。『早目の住み替えニーズ』の高齢者住宅は、開設の時点で入居者が集まっていても、15年、20年と長期安定的に経営を続けるのは難しいのです。