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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
混合型の一般特定施設
 第二章で述べたように、『介護付有料老人ホームの増加は介護保険財政悪化の要因の一つだ』として、特定施設入居者生活介護について、各市町村・都道府県で総量規制が行われています。現在の規制は、要介護高齢者のみを対象とする『介護専用型』、要介護高齢者だけでなく要支援・自立高齢者も対象とする『混合型』に分けて行われています。
 年度毎に指定枠を定めて募集を行っている自治体が増えていますが、混合型を中心に緩和されている市町村が多く、『混合型の一般型特定施設』の事業計画に関する相談が増えています。しかし、この『混合型の一般型特定施設』の指定を受けて計画された高齢者住宅も、長期安定経営が難しいと考えられるものの一つです。
 理由は3つあります。

 一つは、要介護度の重度化対応のリスクです。
 一般型特定施設の指定基準は、要支援高齢者10名に対して介護看護スタッフ1名、要介護高齢者3名に対して1名と、入居者対比で介護看護スタッフ数が一定に定められています。介護専用型では手厚い介護サービスを提供するために、指定基準以上の介護スタッフを配置している介護付有料老人ホームが多いのですが、混合型は、要介護高齢者だけでなく自立・要支援高齢者も対象とするのですから、その多くは指定基準程度の介護看護スタッフ配置となっています。
 介護は純粋な労働集約的なサービスですから、介護看護スタッフ数で提供できる介護サービス量が決まります。要介護高齢者3名に対して介護看護スタッフ1名(これを【3:1配置】といいます)の場合、60名の入居者がいれば20人の介護看護スタッフです。この20人で提供できる介護看護サービス量を、各入居者のケアプランに合わせて分割(シェア)して、介護サービスを提供することになります。
 この一般型特定施設の指定を受けた介護付有料老人ホームは、24時間365日介護スタッフが常駐し、その名称から『介護の充実した老人ホーム』『十分な介護が受けられる老人ホーム』というイメージが強いのですが、そう単純ではありません。



 特養ホームのスタッフ配置も【3:1配置】ですが、述べたようにユニット型個室では、それ以上の手厚い介護スタッフを配置していますし、要介護高齢者のみを対象とした介護専用型の介護付有料老人ホームでも【2:1配置】【1.5:1配置】としているところが大半です。それは実際の介護サービス実務を考えると、中度~重度要介護高齢者が増えてきた場合、【3:1配置】では基本的な介護サービスの提供さえ難しくなるからです。介護・看護サービスは労働集約的な事業ですから、20人の介護看護スタッフが提供できる介護看護サービス量は一定です。軽度要介護高齢者が大半で、重度要介護高齢者が少数であれば対応できますが、述べたように加齢によって中度・重度要介護高齢者は増えていきますから、全体のサービス量が増加します。そうすると、そのスタッフ数で提供できるサービス量を超えてしまうのです。
 介護付有料老人ホーム等の『介護付』は、介護が充実していると言う意味ではなく、老人ホーム事業者の責任で介護サービスを提供しているという意味です。入居者の転倒や骨折などに対する責任も重くなります。しかし、その指定スタッフ配置基準【3:1配置】は、責任を持って介護サービスが提供できるだけのものではないのです。

 この問題は、二つ目の介護看護スタッフ確保のリスクにも関わってきます。
 介護看護スタッフ数は一定であっても、加齢によって介護サービス量の多い重度要介護高齢者が増えてきますから、全体のサービス量が増加し介護スタッフ一人ひとりにかかる負担は重くなります。『チョッと待って下さい』『後で行きます』『何度もコールしないで・・』とストレスは大きくなり、転倒事故やトラブルも増えていきます。本書では、詳しく述べませんが、この事故やトラブル、クレームなどのバタバタとしている中では、新人スタッフに対する教育もできませんから、介護スタッフが次々と退職するという悪循環に陥ることになります。この指定基準の【3:1配置】の介護付有料老人ホームは、価格が抑えられているため入居者は集まりやすいのですが、将来的に見ると介護看護スタッフの確保が難しくなるのです。 

 3つ目のリスクは、介護報酬改定の可能性です。
 この混合型の一般型特定施設の指定を受けた高齢者住宅の入居者をイメージすると、完全に自立した高齢者は多くないでしょうし、【3:1配置】程度では重度要介護高齢者も受入できませんから、入居されるのは要支援・要介護1、2程度の軽度要介護高齢者が中心になります。
 しかし、第二章で述べたように、この一般型特定施設の介護報酬に、要介護1、2の軽度要介護高齢者が多いことが、介護保険財政運用の側面から見ると、最も非効率なのです。社会保障財政は逼迫の度合いを高めており、『軽度要介護高齢者の利用抑制』が介護報酬の一つの方向性だと言われています。将来、軽度要介護高齢者の2割負担、軽度要介護高齢者の報酬単価削減が行われると、要支援、軽度要介護高齢者の入居受け入れは難しく、また介護システム上、重度要介護高齢者の増加にも対応もできないということになります。
 要介護高齢者も自立・要支援高齢者も対象とするとターゲットが広がる、入居者募集がしやすいと安易に考えがちですが、それは小学生も高校生も一つの教室で、同じカリキュラムで勉強させるということと同じことです。結果的には、どちらのニーズも満たさない中途半端でリスクの高い商品設計となります。一部の市町村の担当者は『介護専用型ではなく混合型を・・』と言われるようですが、この混合型の一般型特定施設は、介護保険財政の悪化を助長し、かつ重度要介護高齢者に対応できない、経営が不安定な高齢者住宅をつくっているようなものです。
 この『混合型の一般型特定施設』の事業計画の中には、スタッフ配置【3:1配置】、平均要介護3という、実際には経営できない、サービス提供できないようなものも見られます。また、ある時点の収支状況、それも最も上手くいったケースだけを切り取った収支シミュレーションが策定されています。しかし、実際のサービス、経営実務から見れば、その通りになる可能性は100%ありません。
 述べた、『早目の住み替えニーズ』の高齢者住宅の中にも、『将来的には特定施設の指定を受けたい』と言われる方がおられますが、このように中度、重度要介護高齢者が増えると特定施設の指定を受けても、その指定基準の介護スタッフ配置では対応できませんし、その時になって、大幅な価格改定やサービス改定をすることもできません。
 このように、介護保険の適用方法や高齢者住宅の種類に関わらず、早目の住み替えニーズや要支援・軽度要介護高齢者を対象とする高齢者住宅は、リスクマネジメントという視点から見ると長期安定的に経営することが難しいのです。