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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
在宅サービス併設型 高齢者住宅 ① ~重度化対応リスク~
 高齢者住宅へ参入をしたいという相談者に、最初にお話していることがあります。
 それは、高齢者関連制度住宅・介護保険制度が現在のまま続くという前提で事業計画を立ててはいけないということです。
 第二章で述べたように、現在の有料老人ホーム、高専賃、示されているサービス付高齢者は、制度として矛盾の多いものです。また介護保険制度の相性は悪く、効率的に介護サービスが提供できるはずの高齢者住宅が増えると介護保険財政の悪化につながるという状況にあります。
 営利目的の事業ですから、課題のある制度であっても『高齢者住宅関連制度は変わらない』『介護保険の適用方法も今のまま』と決まっているのであれば、現在の制度を元に、どうすれば最も利益が高くなるのか、どのように商品システムを組み合わせればよいのかはわかります。しかし、制度・報酬体系の矛盾は、入居者保護不備によるトラブル増加、介護保険財政の悪化に直結しますから、安定した制度・報酬にたどり着くには、まだまだ紆余曲折が予想されます。介護保険そのものがなくなるということはないでしょうが、介護報酬を上手く使って利益を上げるような介護システムを構築しても、それは制度改定によって潰される可能性が高い、長期安定経営は難しいということです。

 その代表が、現在、主流になっている在宅サービス併設型の高齢者住宅です。
 総量規制によって一般型特定施設の指定を抑制している自治体が多いことから、訪問介護、通所介護などの在宅介護サービスを併設した高専賃や住宅型有料老人ホームが増えています。緊急時に訪問介護事業所に直結するオンコール体制や、介護浴槽での入浴介助が必要になったための通所介護など、高齢者住宅事業と一体的に運営できるように設計されています。国交省は、2009年、2010年に「生活支援サービス付高専賃」「生活支援施設付高齢者向け優良賃貸住宅」の建設に補助金支出を行っており、その流れはサービス付高齢者住宅に引き継がれています。
 このような在宅サービス併設型の高齢者住宅は、すべてダメだと言うのではありません。訪問介護や通所介護が併設されていれば、入居者にも利用しやすいことは間違いありませんし、訪問介護にオンコールで連絡できれば、緊急対応や臨時のケアをスムーズに行えるために家族も安心です。拙著『有料老人ホームと高齢者住宅 開設と運営のポイント100』の中でも、高齢者住宅の併設サービスとして『自由利用型デイサービス』を検討しています。現状の高齢者住宅施策、総量規制の中で、要介護高齢者に対応できる高齢者住宅を設計しようとすると、このような形にならざるを得ないというのが実情でしょう。
 しかし、『要介護高齢者住宅はどうあるべきか』という視点でみれば、このような不安定で脆弱な制度に押し出されるような形で設計される商品システムは、同様に非常に不安定で脆弱なのです。
 併設される在宅介護サービスは高齢者住宅専用のものではなく、その地域で生活するすべての高齢者を対象としたものです。高齢者住宅に併設しなくても、その地域・エリアで訪問介護・通所介護の需要があるということが前提です。併設によって『高齢者住宅の入居者は使いやすい』ということであれば良いのですが、事業計画の段階で『入居者には、必ず併設サービスを使ってもらう』ということになれば本末転倒です。
 実際、神奈川県の高専賃では、併設の訪問介護サービスの質が悪いからと、入居者が他の事業者に変更しようとすると、高専賃事業者が玄関の鍵を閉めて、外部の訪問サービスやケアマネジャーを閉め出すというトラブルが発生しています。高専賃事業者は『併設のサービスを使ってもらうと契約している』としていますが、これは完全に介護保険法違反です。
 また、訪問介護を併設してオンコール体制にすると言っても、一階に訪問介護の事業所がある場合、居室階で入居者が転倒していてもわかりませんし、介護動線の視点がないために、ホームヘルパーは何度も上がったり、降りたりすることになり、介護システムとしては非効率なものとなります。
 また、夜間に必要なホームヘルパーの数は、要介護高齢者割合の変化、全体の介護サービス量の変化によって変わってきます。『緊急コールで対応します』と言っていても、コールが集中してすぐに対応できない場合、対応が遅れて入院や死亡となった場合、誰の責任になるのかという業務リスクの問題もでてきます。体調が悪くデイサービス利用ができない場合に代替サービスをすぐに準備できるのか、体調が急変して、緊急通院が必要となった場合は対処できるのか等、実際の入居者の生活を考えると、様々な運営課題が浮かび上がってきます。
 開設される多くのものは、排泄介助、入浴介助、コール対応といったポイント介助しか想定しておらず、見守りケアを含め、『介護の連続性』『生活の連続性』という視点が欠けています。また、トラブルや事故、状態の急変などがなく、何事もなく平穏無事に過ぎていくということが前提です。重度要介護高齢者になると、ポイント介助だけでは、その生活を支えることはできません。
 事務も煩雑になります。
 一人の職員が、高齢者住宅のスタッフと訪問介護のホームヘルパーを兼務しているというところも多いと聞きます。ホームヘルパーである時は介護報酬を算定できますが、高齢者住宅のスタッフである時は排泄介助を行っても報酬算定できません。更に、厚労省からは『訪問介護を一日に複数回算定する場合は、算定する時間の間隔は概ね2時間以上とすること』『2時間未満の短時間のものは合算すること』『30分未満の身体介護は20分以上行うこと』など、様々な指針がでています。『ベッドを少し上げてほしい』『車椅子から移動させて欲しい』という介助にさえ、保険請求上の辻褄を合わすために、現場のスタッフが『これは報酬上どうなるのか』と、これらを一つひとつ確認しなければならず、事務作業が膨大なものとなります。
 在宅サービス併設型高齢者住宅は、規制があって病院を増やせないのでバリアフリーの建物に訪問診療や訪問看護を併設して病院機能をもった建物を作っているというのと同じです。制度設計に無理やり合わせた商品設計は複雑怪奇で、保険者にとっても、事業者や入居者にとっても利用しにくく手間がかかるばかりです。