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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
質の高い高齢者住宅をどのように育成していくか
 第四章で、作ってはいけない4つの高齢者住宅のタイプを挙げました。
 言い換えれば、このような不安定な商品性を持つ高齢者住宅が増えているということなのですが、その責任は事業者だけではなく、行政施策の失敗、ミスリードが根幹にあります。
 一つは、厚労省と国交省の歪によって、制度が完全に混乱しているということです。第二章で述べたように、高齢者住宅と介護保険制度は全く違う方向を向いています。現在の制度・介護報酬の中で、事前にチェックができない登録制度でサービス付高齢者住宅を増やせば、介護保険財政は悪化します。商品性は脆弱で、要介護高齢者の増加に対応できないだけでなく、介護保険が改正されれば、経営できなくなるものも少なくありません。どちらの省庁も目先の予算や補助金確保だけが最優先となり、社会保障費を効率的に運用し、安定的な高齢者住宅施策を整備し、超高齢社会に必要な産業を育成するという視点が欠けているのです。混乱した制度のもとでは健全な高齢者住宅事業の発展は望めず、その皺寄せは高齢者だけでなく、これからの日本経済、未来の子供たちに重く圧し掛かってきます。
 もうひとつは、国と地方自治体との歪です。
 制度間の矛盾の中で、一部の自治体では「高齢者住宅が増えると財政悪化の要因になる」として量的な規制を始めています。その結果、混合型や地域密着型などの小規模の不安定な高齢者住宅が増加しているのですが、少しでも老人ホームや高齢者住宅の実務を知っている人が考えれば、安定した経営が難しいことはわかるはずです。最近では、これまでの特定施設の指定だけではなく、高齢者住宅の総量を規制するという方向に広がっています。
 『とりあえず数を増やす、開設を推進する』という国の場当たり的な施策の中で、『補助金がもらえる』という安易な民間事業者、土地の有効利用や利益率などを謳い文句に『開設すれば後は知らない』という一部のコンサルタントが支援する高齢者住宅が増えており、すでに収集がつかない状態になりつつあります。
 その上、監査・指導体制は整わないまま、安易に量的な規制が行われると、優良な事業者の参入が妨げられ、サービスや価格競争が行われません。行き場のない高齢者は「貧困ビジネス」などの劣悪なものに頼らざるを得なくなり、社会保障費が無駄に使われることになります。更に、その事業の失敗は、経営者や株主の経済的損失だけに止まらず、入居者・家族の生活は崩壊し、その影響は地域の福祉ネットワークにまで及び、その後始末に、多額の税金が投入しなければなりません。
 超高齢社会の中で、膨張する社会保障の抑制、営利事業の安定経営という表面的には相反する二つの課題を同時に解決し、優良なサービスを提供する高齢者住宅を増やすためには、見えてきた様々な課題、事業の特殊性を整理し、そのあるべき姿を官民一体となって早急に考えなければなりません。
 高齢者住宅の未来はどうあるべきか、ポイントは2つあります。
 一つは、どのような高齢者住宅を整備していくのかです。
 これは、『商品性の集約』という問題とも関係しています。現在、制度の混乱と共に乱立し、サービス・価格共に多様化している高齢者住宅ですが、介護保険制度の方向性や長期安定経営が可能か否かというリスクマネジメントの視点で見ると、高齢者専用の住宅が長期安定的な事業として成立する形態・商品性は限られてきます。有料老人ホームかサービス付高齢者住宅かという意味のない制度選択以前に、商品として集約されるべき高齢者住宅の方向性を探らなければなりません。
 もう一点は、『規制・管理のあり方』です。
 高齢者住宅事業は、営利目的事業ですから、マーケットに任せておけば、いわゆる『勝ち組・負け組』が決まってきます。その競争の中で、低価格で高品質なサービスが生まれ、それが高齢者(ユーザー)の利益となるというのが市場原理です。しかし、高齢者住宅は行き場のない高齢者・要介護高齢者の住宅事業ですから、その倒産・事業閉鎖は、事業者の金銭的な破綻だけには留まらず、入居者の生活を崩壊させることになります。また、公的な介護保険を使って経営するという特殊な事業ですから、監査・指導をしないと『貧困ビジネス』のような劣悪な環境に低所得者の高齢者を押し込め、社会保障費の搾取を目的としたような事業者が蔓延ることになります。
 ただ、安易に量的規制をおこなうと、需要の増加に対応できません。『先に開設したもの勝ち』となり、事業者間の競争が行われなくなります。価格は高いままで、劣悪なサービスの事業者も生き残ることになります。地方自治体が、それぞれの地域性・地域ニーズに合わせて、どのように高齢者住宅を規制、管理監督するのかも、高齢者住宅の未来に大きく関わってきます。
 この2つの論点を踏まえ、経営が安定した高齢者住宅はどのようなものか、質の高い民間の高齢者住宅をどのように育成していくのかについて論を進めます。