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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅という商品はどこに集約されていくか ① ~対象者~
 『高齢者の多様な住宅ニーズに対応する』というのは、高齢者住宅産業全体としても、また事業個別のセールポイントとしても重要な視点です。しかし、現在の状況は、よく言えば多様化ですが、客観的に見れば、あれもこれも全て『安心・快適』という美辞麗句に覆われて混沌としているにすぎません。
 様々な高齢者住宅の失敗事例が見えてきたことで、これから開設される高齢者住宅の間で急速に進むのが商品性の集約です。また、絶対的に不足し、早急に整備を進めなければならないのが、中間層、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅です。高齢者住宅の特殊性、事業リスクから見て、これからの高齢者住宅はどの方向に進んでいくのか、その商品性はどこに集約されていくのか、3つのポイントを挙げます。

 一つは対象者です。
 高齢者・家族が高齢者住宅に求める機能は「終の棲家」です。それは『要介護高齢者、重度要介護状態になっても安心して生活できる』ということであり、『重度要介護対応』は高齢者住宅に必要不可欠な機能です。
 ただ、有料老人ホームやサービス付高齢者住宅の基準の建物設備に、特定施設の指定を受ければ、訪問介護サービス事業所を併設すれば、重度要介護高齢者に対応できるというほど単純なものではありません。学校と言っても小学校と高校は校庭の広さや机の高さ・カリキュラムが違うように、自立高齢者と要介護高齢者を対象とした高齢者住宅は商品・システムとして全く違うものだからです。
 第四章で早目の住み替えニーズの難しさを述べましたが、「元気な高齢者が要介護状態になっても生活できる」と標榜するのであれば、「自立高齢者が要介護5になっても生活できる」ということと同時に、「将来的に要介護3、4、5の重度要介護高齢者が多くなっても対応できる」という二つの要件を満たす必要があります。それを商品化するには、建物や設備等の不一致を豊富なスタッフでカバーする必要があるため、人件費が高額なものとなります。それができない場合、重度要介護高齢者が増えてくるとトラブルや転倒事故が頻発することになります。
 また、述べたように、高齢者は身体機能・認知機能の低下によって必要なサービス内容、サービス量が変化しますが、契約内容(サービス・価格)を変更することはできません。自立・要支援高齢者を対象とした高齢者住宅は、入居期間が15年~25年と長く、その間に入居者の身体状況、認知力はバラバラに低下していきます。収支の管理、介護サービスの安定供給ともに難しい、事業者に取ってリスクの高い契約となります。
 高齢者住宅に対する基本ニーズ・事業特性・事業リスクを考え合わせると、一部の富裕層を対象としたものを除き、高齢者住宅事業は中度~重度要介護高齢者を対象としたものに集約されていくことになると考えています。
 特養ホームに申し込みが殺到しているという現状を見てもわかるように、まず重点的に整備しなければならない、絶対的に不足しているのは、中間層、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅です。国の制度設計・介護報酬設計においても、市町村や都道府県で策定する居住確保計画においても、単なる高齢者住宅の量的整備ではなく、要介護高齢者住宅を増やすという指針を明確にすべきです。要介護高齢者に対応できない不安定な高齢者住宅が増えると、将来、入居者・家族だけでなく、社会的にも、財政的にも大きな負担を背負うことになります。
 自立、要支援の高齢者住宅は全く不要だというわけではありませんが、要介護状態になれば入居できる住宅が安定的に整備されれば、要介護状態への不安もある程度解消されるはずです。