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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅という商品はどこに集約されていくか ② ~商品・サービス~
 二つ目点は、商品・サービス設計の方向性です。
 中度~重度要介護高齢者を対象としたものに集約されていくということは、必要なサービスが集約されていくということです。
 高齢者住宅は、土地・建物・設備などの住宅サービスと、介護看護、食事、相談などの生活支援サービスの複合商品です。中度~重度要介護高齢者にはどのような生活環境・サービスが必要になるのかを理解し、個別の重度化だけでなく、全体の重度要介護高齢者割合の増加に対応できる商品・システムを設計しなければなりません。
 要介護高齢者住宅の商品の基礎となるのは、介護システム設計ですが、これは介護サービスだけを考えるのではありません。『建物・設備・介護システム』を一体的に検討し、介護動線、生活動線の効率性を高めることによって、限られたスタッフで効果的に手厚い介護サービスを提供するという業務シミュレーションの視点が必要になります。
 要介護高齢者住宅では、排泄介助、入浴介助といった直接介助・ポイント介助だけでなく、声かけ・見守りといった間接介助も重要になってきます。建物の居室配置や設備の違いによって、入居者の動き、スタッフの働きは全く違ってきますから、同じスタッフ数でも提供できるサービス内容、サービス量は大きく変わってくるのです。
 本書では詳しく述べませんが、この問題は介護事故やトラブル、クレームなどの業務上のリスクにも大きく関係してきます。
 現在、リスクコンサルタントや建物設備設計など様々な業種の方と共同で、高齢者住宅や介護保険施設の経営を阻害する要因として業務リスクマネジメントの課題や実務について検討しています。転倒や骨折などの事故の割合そのものが増えている訳ではなく、ケアプランや個別ケアの導入によって、全体としては介護のレベルは上がっているのですが、その反面、介護事故や家族トラブルが事業経営に与えるリスクは、以前とは比べものにならないほど大きくなっているからです。実際、家族からのクレームや入所中の転倒・骨折で訴訟・裁判となるケースは急増しており、転倒事故や転落事故などで、事業者の「適切な処置が行われなかった」「介護義務を怠った」「安全管理義務違反」として、事業所側にサービス提供責任の不備を問う、数百万円、数千万円の損害賠償が認められる厳しい判決が次々と出されています。
 これは介護保険発足による介護サービスの一般化、権利意識の向上だけでなく、『クレーマー』『モンスターペアレント』といった社会認識の変化も関係しています。このリスクは企業や学校では、すでに大きな課題となっていますが、対応の遅れている介護サービス事業でも急速に拡大することは確実です。最悪の場合、法人だけでなく、スタッフ個人が刑事責任に問われる可能性もでてくるでしょう。介護事故、クレームなどの業務リスクをどのように削減・管理するのかという業務リスクマネジメントは、サービスの質の向上ではなく、事業継続、安定経営の根幹に関わる大きな課題なのです。
 特定施設の指定基準程度では、重度要介護高齢者の増加に対応できないと述べていますが、それはその配置では、見守りや緊急対応を含め、安全に介護サービスを提供するシステムを構築できないからです。指定基準の【3:1配置】でも、その倍の【1.5:1配置】でも、介護事故に対する責任は同じです。その負担や責任は、少ない人数の介護スタッフに圧し掛かってくることになります。
 「介護付だから安心」「介護保険が使えるので安心」と言っているようでは、事故やトラブルが急増し、優秀なスタッフの離職、サービスの低下、介護事故・トラブルの更なる増加という負のスパイラルにつながっていきます。それでは事業もスタッフも守ることはできません。



 どうすれば安全で効率的な介護サービスが提供できるのかは、建物・設備設計を含めた、いわば技術的な問題です。価格競争・サービス競争の根幹は業務シミュレーションにあり、建物・設備・介護システムを一体的に検討し、最も効率的・効率的、かつ安定的で安全な介護サービス提供ができる商品性に向かって、要介護高齢者住宅は集約されていくということです。