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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
介護システム考 ②  【15名×4ユニット】
 比較対象となる高齢者住宅の建物設備は、15名単位で簡易なユニットを形成し、ワンフロアーあたり30名(15名×2ユニット)とし、居室階は2階に分けています。また、食堂や浴室は各ユニットではなく、30名単位で設置しています。
 食事ですが、ケース1の場合、30名の入居者の内、食事の全介助が必要な高齢者は6名です。直接介助だけでなく、見守りなどを考えると少なくとも3人のスタッフが必要になるでしょう(シミュレーション上では看護師を含め全体で7名~9名としています)。直接食事介助が必要な高齢者数で実際に必要なスタッフ数は変動しますが、一人が誤嚥で噎せれば、一人のスタッフが付ききりで対応することができます。
 入浴は、一人の入居者が週2回入浴するとして、1フロアー(30名)で一週間あたり述べ60回の入浴介助が必要になります。月曜日~土曜日までを入浴日とすると、一日10名の高齢者の入浴を午前と午後に分けて行うことになります。一人の入居者に1時間の入浴時間(送迎・着脱介助含む)が必要として、2人のスタッフが午前2時間、午後3時間入浴介助にかかりきりになりますが、入浴以外の入居者に対して、フロアーあたり2~4名のスタッフを残しています。
 同様の方法で、交代勤務、休日などを含めてシミュレーション・計算すると、全体では、必要となる介護看護スタッフ数は27名~33名となります。この二つの介護システムを比較すると、同じ60人定員のものでも、必要な介護看護スタッフ数は1.3倍~1.5倍、10人~11人の違いがあることがわかります。
 
 
   
 
 この違いは、必要な介護スタッフ数の違いだけではなく、スタッフの介護動線や転倒などの業務リスクにも関わってきます。
 この業務シミュレーション検討では、60名の入居者に対して、どちらのケースも3名のスタッフを夜勤として設定しています。
 1フロアー【10名×2ユニット】の居室配置の場合、1人で2ユニットを受け持つことになります。夜勤は、何もなければ平穏に過ぎていきますが、それでも排泄介助や眠れない高齢者への対応、コール対応など、行うべき業務はたくさんあります。20人と受け持つ入居者数は少ないのですが、ユニットが完全に分離している場合、同一フロアーでも一つのユニットに入ると、もうひとつのユニットで何が起こっているかわかりません。20名に対して1人ですが、違う二つのユニットの間を行ったり来たりということになり、仮眠どころか、ゆっくり休憩をとることも難しいでしょう。
 これに対して、15名×2ユニットの居室配置の場合、各フロアー30名単位の対応になりますが、各フロアー1名の常駐に加え、もう一人がフリーになり、コール対応などのそれぞれの業務量を見ながら行き来することができます。見守りがしやすく、連携して一人が休憩や仮眠をとることが可能です。
 また一人の入居者の状態が夜間に急変した場合、一人のスタッフが救急対応や病院との連絡など、その対応にかかりきりになります。フロアー・ユニットが3階に分かれている10名×6ユニットの場合、残された二人のスタッフが、フロアーの違う3ユニットを、階段を上り下りしながら分担して対応しなければならないことになります。2フロアーの方が緊急時の対応も優れていることになります。

 前回と合わせて、60名定員で【10名×6ユニット】【15名×4ユニット】で、どの程度介護スタッフの必要数が変わるのかを比較しました。あくまでも一例ですが、このように建物・設備・介護システムを一体的に検討することによって、介護スタッフ・入居者の動きを整理し、どうすれば最も少ない人数で、効果的な介護サービスを提供が可能になるのかを考えることができます。
 集合住宅で生活する要介護高齢者が増えると、効率的に介護サービスを提供することが可能だと述べましたが、高齢者住宅でも、その建物・設備設計によって、その効率性は格段に違ってくるのです。これ以外にも、要介護度割合の変化によるサービス量・スタッフ数を検討する可変性、様々なタイプの高齢者に対応できる建物・設備の汎用性など、サービスの効率性、安全性を高めるために、建物・設備・介護システム設計の中で検討すべきポイントはいくつもあります。
 高齢者住宅の介護システムは、病院の看護システムや在宅サービスと違い、医療保険・介護保険の基準に合わせて介護看護サービスを提供するのではなく、それぞれの事業者が建物設備、勤務体制に合わせた介護システムを構築し、介護保険で適用できるものは適用する、それ以外のものは上乗せ介護費用として徴収するというのが基本的な考え方です。介護付有料老人ホームでは、60名定員に対して介護看護スタッフ30名【2:1配置】、24名【2.5:1配置】という指標が示されていますが、同じ建物・介護システムであれば、スタッフ配置数と比例して提供できる介護サービス量は増えますが、同じ【2:1配置】でも、建物・設備が違えば、提供できる介護サービス量は全く違うということがわかるでしょう。
 介護スタッフが効率的に動くことができれば、それだけ少ない人数で対応できますから、運営費を抑えることができ価格を抑えることができます。視点を変えれば、一人ひとりの介護スタッフの労働条件・労働環境を上げることができるということでもありますし、転倒骨折などの介護事故やトラブルの発生率にも影響してきます。
 重要なことは、この効率的な介護システムの検討は、高齢者住宅の制度分類や介護保険の適用方法とは無関係だということです。
 行政の制度が変わるたびに『有料老人ホームか高専賃か』『介護付か住宅型か』『これからはサービス付高齢者住宅だ・・』と制度の違いやメリットを語る人が多いのですが、ほとんど意味がありません。それは『旅館とホテルのどちらが良いか』と言っているのと大差ありません。仮にこれからの高齢者住宅が『サービス付高齢者住宅』という名称に集約されていくとしても、その建物設備基準だけで要介護高齢者に対応することはできませんし、介護報酬も『こっちが得だ、あっちは損だ』と制度の歪をついて利益率の高い高齢者住宅を作っても、その歪は制度変更によって統一されていきます。
 制度が変更になっても、建物設備を変更できるわけではありませんし、安全で安定した介護サービス提供に必要となるスタッフ数は同じです。長期安定事業として検討しなければならないのは、制度の方向性ではなく商品集約の方向性、介護保険ではなく介護システムの方向性です。高齢者住宅は民間の営利目的の事業ですから、必ず効率性の高い、強い商品に集約されていくということ、要介護高齢者住宅の商品設計においては、介護システムの効率化が商品性向上には不可欠だということです。