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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
要介護高齢者住宅の価格
 もうひとつのポイントは、現状の制度、介護報酬のもとで、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅の価格は、どの程度のものに落ち着いていくのかです。それは、高い社会保障を投入している特養ホームに代わる民間の要介護高齢者住宅は、どの程度の価格で提供できるのかということでもあります。
 介護システム検討の中で行った、60名定員の要介護高齢者住宅の収支シミュレーションに基づく、価格設定例を示します。

【定 員】・・・60名(15名×2ユニット×2フロアー)
【要介護度】・・・要介護2~要介護5
【土地賃貸】・・・月額100万円/30年以上の定期借地
【建物・設備】・・・建築面積800坪/建築坪単価65万円(設備等含む)
【人件費】・・・常勤介護スタッフ 年収350万円(法定福利費除く)
常勤看護スタッフ 年収400万円(法定福利費除く)
【食材費等】・・・入居者一人あたり、月額55,000円
【入居率】・・・一年目60%、二年目70%、三年目以降85%

 高齢者住宅の価格を決めるサービスの原価となるのは、土地費用・建物建設費用・維持管理費・人件費・食材費などです。
 一つは土地です。土地の形状や、建蔽率や容積率などの建築基準法上の規制、駐車場確保の必要性等にも左右されますが、60名定員で【15名×2ユニット】【二階建て】の建物を建築するとして、ここでは800坪の土地としています。土地の価格は場所によって大きく変わってきますし、購入するか、賃貸にするのかによっても違ってきます。60名定員ですから、土地の取得にかかる返済額が月額30万円下れば月額費用の算定原価は5000円下り、土地の月額賃料が60万円上がれば1万円上昇することになります。シミュレーションでは、ある事例に合わせて、月額100万円の土地賃貸料(又は返済)がかかるとしています。
 次に建物です。居室は18㎡以上、居室内設備としてトイレと洗面設備(兼ミニキッチン)、収納設備を有しています。現在の高専賃・サービス付高齢者住宅の基準に準拠するものです。共用部は、居間・食堂、居室の他、各フロアーに要介護高齢者用の浴室3室(内一台は特浴)、スタッフルーム、相談室、厨房、十分な広さの廊下などを整備しています。ほぼ特養ホームの共用部の基準に準じるものです。いつかのパターンに分けて図面検討を行いましたが、60名定員でこれらの居室・共用部を整備すると、建築面積は750~800坪は必要になるでしょう。
 この建設費用は建築坪単価と建築面積によって変わってきますから工夫は必要です。
 ただ、無理に建築面積を抑えようとすると、介護動線・生活動線ともに使いにくくなります。また建物・設備の費用は、開設にかかるイニシャルコストだけでなく、修繕・運営にかかるランニングコストを合わせて検討しなければなりません。当初の建築単価を抑えようとすると、同じものができるように見えても、一つひとつの部材のランクは下りますから、保証期間が短くなり修繕などに費用がかかり全体のコスト(ライフサイクルコスト)が高くなってしまいます。例えば、建築面積が800坪で建築坪単価が5万円安くなると、全体で4000万円の建築費を圧縮できますが、入居者60名、20年で割ると借入金利を含めても、年間4万円程度、月に直すと3500円程度しか変わりません。建設費用を抑えるということだけでなく、修繕計画を一体的に20年、30年と続く実際の経営への影響を考えて、総合的に判断しなければなりません。
 価格設定に最も大きな影響を及ぼすのが介護スタッフの人件費です。
 常勤介護スタッフの初年度の年収は350万円、常勤看護スタッフは400万円として、全体介護スタッフの8割以上を常勤としています。ただ、夜勤をしない短時間のパート労働者も一部必要になりますから、その年収は280万円と想定しています。それぞれ、最初の10年間年1%のベースアップを検討しており、10年後は、介護スタッフ常勤382万円、看護スタッフ常勤437万円、介護スタッフ非常勤(労働時間は常勤換算)306万円となります。
 同じ60名定員でも、【10名×6ユニット】と【15名×4ユニット】では、常勤換算で10名~11名の必要介護スタッフの差がでると示しましたが、介護スタッフ一人当たりの年間給与が350万円として、10人で3500万円、法定福利費を含めると4000万円を超えます。60名定員として人件費をそのまま価格(月額費用)に転嫁すると、一人月額55,000円の差となります。他の土地や建築費と比較しても、いかに介護スタッフ配置が価格に大きな影響を及ぼすかお分かりいただけるでしょう。
 このシミュレーション検討では、一般型特定施設の介護報酬を基礎として算定しています。介護保険財政の効率的運用、介護サービスの責任の明確化、介護システムや事務の単純化という視点から見ると、一般型特定施設がもっとも適していると考えるからです。
  その他、特養ホームの運営費に準じて食事や事務、維持管理、相談サービスなどの必要経費を算定し、一年目60%、二年目70%、三年目以降85%として、経営が安定するように入居一時金・月額費用をシミュレーション・算定しています。
 価格設定のポイントの一つは入居一時金です。述べたように、高額の入居一時金は敬遠される傾向が強くなることや経営的にも不安定となる要素があることから、終身利用と家賃(利用料)の前払いを併用した入居一時金は金額・役割ともに小さくなり、一般の賃貸住宅と同じように、敷金や礼金、保証金といった名目のものに近づいていくと考えています。ただ、介護看護サービスを一体的に提供するという高齢者住宅の特性を考えると、一般の賃貸住宅よりは高額の50万円~100万円程度が適当ではないかと思います。
 もうひとつは月額費用です。ここでは家賃(利用料)、食事代、管理費、介護保険の一割負担、上乗せ介護費用を含め、入居者が選択する特殊なサービス、日用品の費用以外のものとして算定しています。この収支シミュレーションでは、月額費用は要介護度別に23万円~25万円であれば、将来の大規模修繕等を含め、長期安定的な利益を確保することは可能だという結果になっています。
 これは、あくまでも、ある事業計画でシミュレーションしたものを基礎として、わかりやすく抜粋したものです。補助金や低所得者対策、減税措置などは勘案していません。実際の価格設定には、土地の値段や自己資金、借入金額、借入金利など、その他様々な要素が関係してきますし、各事業者が期待する利益率や入居者募集のリスク(予想される入居率)をどの程度に設定するのかによっても変わってきます。また、経済情勢の変化によって建築単価も変動しますし、同じ介護看護スタッフ配置でも、看護スタッフの配置割合によって、全体のシミュレーションも変化します。これ以外にも、単価を抑えるための工夫や、実際のサービス提供の効率性を高めるための工夫、リスクマネジメントの視点から検討など、シミュレーションすべきことはたくさんあります。
 ただ、現在の介護報酬(一般型特定施設)のもとで、要介護高齢者住宅での住宅サービス・生活支援サービスに必要となるサービス原価から導き出せば、ユニット定員や介護システムを工夫しても、要介護高齢者の住宅を提供するためには、この程度の費用は負担してもらう必要があるだろうということです。全体の流れとしてみた場合、要介護高齢者住宅の価格設定の基礎は、このあたりの金額に落ち着いてくるのではないかと予想しています。

 以上、要介護高齢者住宅の商品設計のポイントとして、介護システムと価格の方向性の2点を挙げました。
 この商品性の集約は、高齢者住宅のサービスが単一になるということではなく、多様化という名のもとに、混乱している高齢者住宅のサービスと価格のバランスが取れてくるということです。
 この基礎が見えてくれば、建設業者や高齢者住宅業者の創意工夫によって、より効率的で安全性の高い、要介護高齢者が働きやすい、スタッフの働きやすい要介護高齢者住宅のシステム開発、個別の設備設計が進むでしょう。更に、そこから広い居室、24時間看護師常駐、より手厚い介護スタッフ配置など、ニーズに応じたアメニティ・付加価値を設定していくことになると考えています。
 これは、民間事業者にとっては、競争力のある強い商品とは何かを今一度見直すということです。
 高齢者住宅は利益率が高い、需要が高くなるので高齢者住宅は儲かるはずだという考えは間違っています。高齢者住宅は特殊でリスクの高い事業だが、需要が高くなるのでビジネスチャンス、安定的なビジネスモデルはあるはずだ、というのが正しい認識です。高齢者住宅は30年、40年という長期安定経営が必要ですから、強い商品、強い高齢者住宅とは、短期間に高い利益が見込めるような商品ではなく、長く細く、その地域に密着して利益を得られる高齢者住宅です。これは、社会全体として見ても、絶対的に不足する、中間層・要介護高齢者を対象とした要介護高齢者住宅を整備していくのかという、社会的な課題に通じています。