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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
地方自治体のマネジメント力の強化は不可欠
 これからの高齢者住宅業界の行方を左右するもうひとつの課題は、規制のあり方です。
 介護サービスを含めた高齢者対策の実務を担うのは都道府県・市町村です。
 必要となる介護サービス種類、サービス量は、要介護高齢者数対比で一律に決められるものではなく、要介護高齢者の生活環境やコミュニティ、高齢者人口の密集度合いや集落間の距離、近隣との関係などによって大きく変わってきます。根本となる法律・制度設計以上に、その運用に重点が置かれなければなりません。限られた財源・人材の中で、効果的・効率的な高齢者介護施策を推進するためには、その地域ニーズに対応できる小さな行政単位でのきめ細かな運用が不可欠です。
 今後、激しい勢いで高齢者関係の社会保障支出は増加しますから、多くの自治体で財政逼迫の要因となることは間違いありません。要介護人定数は当初の想定を上回るスピードで増えており、介護保険が第二の国保のような慢性的な赤字体質になれば地方財政は確実に破綻します。強い社会保障を実践するためには、市町村・都道府県がマネジメント力を強化し、官民一体となって、その地域性に沿った効率的で効果的な高齢者介護システム、高齢者住宅システムを構築する以外にありません。
 しかし、これまで日本は、国が地方を主導・統制・管理するという中央集権体制を基礎とした行政運営が行われてきたため、行政システムがそのようになっていません。大きくみれば国が枝葉末節までの政策を決定し、国がそれを都道府県に通達、都道府県が市町村に指導し、全国一律の行政サービスを提供するという手法がとられています。また、地方自治体の側も、これまでの国の下請け機関という役割、お伺い体質に慣れてしまい、『国から降りてきていないのでわからない』『とりあえず規制する』と、市町村で考える、市町村のマネジメントに責任をもつという意識が低くなっているということは否定できません。
 これは高齢者住宅施策でも同じです。
 福祉施設と高齢者住宅の役割を明確にしないままで特養ホームを作り続けると、非効率で不公平、かつ莫大な社会保障費が長期間に渡って必要となります。また『特定施設の増加は財政悪化の要因』という偏った認識のもとで行われている総量規制によって、絶対的に不足している要介護高齢者を対象とした高齢者住宅が育成されず、逆に『早めの住み替えニーズ』『地域密着型の特定施設』『混合型特定施設』といった脆弱な商品性を持つ高齢者住宅を誘発しています。更に、登録だけで開設できる高専賃は玉石混淆となっており、サービス付高齢者住宅変更への過程で無届施設が増加することは間違いありません。それは、管理できない『貧困ビジネス』の温床となり、更に、高額で無駄な社会保障費が使われることになります。将来、これらの高齢者住宅・無届施設が倒産、事業閉鎖ということになれば、行き場のない入居者保護を保護するために近隣の特養ホームに緊急入所させるしかなく、地域の介護・福祉ネットワークが大混乱します。
 介護サービス事業・高齢者住宅は、『公的な社会保険を収入基礎とする民間の営利事業』という、相反する二つの側面を持つ事業です。省庁間の歪によって生まれた問題の多い制度に盲目的に追随し、その反動で長期的視点がないままに中途半端に規制を行うと、長期安定経営が難しい要介護高齢者住宅が増加し、その後始末に多大な税金と労力を払うことになります。高齢者住宅のリスクは事業者だけでなく、地方自治体の財政にも直結する大きなリスクなのです。
 地方分権、道州制が叫ばれていることを見てもわかるように、行政システムはこれまでの中央集権から地方自治への転換期に入っています。国、地方の財政悪化は深刻ですから、税金の配分や権限委譲によって地方自治体の権限は増えていきますが、同時にこれまでの負債や不良債権、責任も一気に覆いかぶさってきます。それに対応できない市町村は破綻し、国の管理化に置かれ、社会保障や市民サービスは強制的に削減されます。『国からの指示待ち』『破綻して一律削減』ということでは、その自治体の存在意義を問われることになります。
 高齢者住宅施策において、地方自治体が今やるべきことは、単純な量的規制を行うことではありません。地域に密着した、安定的に高齢者住宅を育成していくには、『量的な整備』と『質の管理』という2つの視点から一体的に検討しなければなりません。