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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅をどのように整備していくのか
 一つは、どのように増やしていくのかです。
 高齢者住宅が増えると、介護保険財政の悪化の要因になると考える自治体も多いようですが、それは本質を見誤っています。第一章で述べたように、高齢者住宅は要介護高齢者が集まって生活するのですから、効率的な介護サービスの提供が可能となります。それは効率的な介護保険の運用につながり、同時に介護スタッフが働きやすい労働条件を整えることができます。地域経済への波及効果は大きく、安定した雇用増加にもつながりますし、その一部は還流し税金として戻ってきます。
 要介護状態になると設備・サービスの整った高齢者住宅で生活したいと考える高齢者は増えていきます。優良な高齢種住宅事業は、経済対策と介護費用抑制を一体的に積極的に推進するができる事業だという認識のもとに、官民一体となって整備計画を推進しなければなりません。
 市町村の高齢者住宅計画の基礎となるのが『高齢者居住安定確保計画』です。
 これを各自治体で責任をもって策定し、実行するには2つの視点が必要になります。
 一つは量的な整備目標だけでなく、その一部については対象者やサービス内容を指定するということです。
 現在、一部の都道府県から出されている計画を見ると『特定施設○名分』『高専賃△△人分』といった計画が出されています。しかし、このような量的な整備計画だけでは地域のニーズに沿った高齢者住宅施策を推進することはできません。介護サービスの必要量は、要介護高齢者数を基礎とした『参酌標準』だけで、全国一律に算定できるものではなく、高齢者住宅ではその違いは更に大きくなります。訪問介護や通所介護は、どの事業者が行ってもサービス内容・利用料はほぼ同じですが、有料老人ホーム、サービス付高齢者住宅と言っても、そのサービス内容・価格は、それぞれの事業者によって大きく違ってくるからです。
 例えば、ある市で来年度に『サービス付高齢者住宅』を100人分整備すると計画しても、元気高齢者を対象としているのか、要介護高齢者対象のものかによって、サービス内容・価格設定は全く違ってきます。また、高齢者住宅事業は新しい事業ですから、価格設定、サービス内容とのバランスが安定しているわけではありません。
 そのため量的な計画だけでサービス内容・価格設定を民間事業者任せにすると、入居一時金が数千万円の高齢者住宅が作られ、その地域の高齢者はほとんど入居できない、近隣の高齢者住宅と比較して割高感があり入居者が入らないという可能性がでてきます。それでも計画を満たしているので新しいサービス付高齢者住宅が開設できない、ニーズに合致していないために入居者が集まらず倒産するということになれば、何のために計画を策定しているかわかりません。優良な事業者を排除して不良債権を育てているようなものです。この弊害は、今でも実際に特定施設の総量規制の中で起こっていることです。
 現在の特養ホームの待機者数を見ても、まず整備しなければならないのが、『商品性の集約』の中で述べてきた価格を抑えた資産中間層・要介護高齢者を対象とした高齢者住宅です。高齢者住宅は制度分類による量的整備ではなく、どのような高齢者住宅が不足しているのか、どのようなサービスが必要なのか、対象者(サービス内容・価格)のイメージを立てて、計画を推進する必要があります。
 もうひとつのポイントは、特定施設の指定と一体的に検討するということです。
 現在、特定施設(一般型・外部サービス利用型双方)を一律に規制し、区分支給限度額方式の住宅型有料老人ホームや高専賃は野放し状態になっていますが、述べたように、このような規制は介護保険財政の効率運用という視点からみても意味がないだけでなく逆効果です。
 高齢者住宅の整備と介護保険上の特定施設の指定をバラバラに考えていては、これまでと同じように『高齢者住宅は介護保険財政悪化の要因』という状態が続くことになります。それでは要介護高齢者を対象とした高齢者住宅を育成することはできず、行き場のない要介護高齢者の住宅問題を解決することもできません。
 高齢者住宅に対する介護保険適用の原則は、すべての高齢者住宅に特定施設入居者生活介護(特定施設)の指定を義務づけるということです。介護報酬の抑制という視点からは、特定施設の規制は「介護専用型」「混合型」という区分けではなく、「一般型特定施設」「外部サービス利用型特定施設」に分けて指定すべきだと考えています。これは高齢者住宅と一体的に介護サービスを提供する、介護サービスの提供責任を明確にするという視点からも非常に重要です。
 市町村単位で行う介護保険制度上の総量規制を検討するためには、高齢者住宅居住安定確保計画の中で、どのような高齢者を対象とした高齢者住宅を計画するのかを明確にし、事前の届け出・協議を義務付け、中度~重度要介護高齢者のみを対象とする高齢者住宅には一般型特定施設、軽度要介護高齢者も対象に含める場合は外部サービス利用型というように分類すれば、効率的な介護保険財政の運用が可能となります。
 特定施設の指定等に対して、『高齢者住宅の施設化につながる』という人がいますが、そもそも『高齢者住宅の施設化』という現在の議論は、特養ホームと介護付有料老人ホーム、サービス付高齢者住宅の役割が明確になっていないため、意味がありません。制度の役割の分類とあるべきサービス・システムの違いを議論せずに、イメージだけで『施設化はいけない』と言うと、何の話をしているのかわからなくなります。以前の施設とは違い、現在は特養ホーム等でも、個別ケアが進んでいますから、施設でも高齢者住宅でも、重度要介護高齢者に適した建物・設備・介護システムはどうあるべきかという検討を進めるべきでしょう。特養ホーム等の施設のシステムと、高齢者住宅のシステムはどこが違うべきなのか・・と言う議論は、そのあとに来るべきものです。