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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
高齢者住宅をどのように管理していくのか
 もうひとつのポイントは、どのように管理していくのかです。
 介護保険が制度化された一つの目的は、硬直化した高齢者介護に創意工夫を基礎とした民間事業の活力を導入することにあります。ただ、要介護高齢者の生活に密着する住宅事業ですから、利用者保護・入居者保護は行政の責任でしっかり行わなければなりません。
 しかし、現在の高齢者住宅施策は、中途半端に量的な規制をして優良な事業者の参入を止めている一方で、指導監査体制が杜撰で、基本的な最低限の管理すらできておらず、経営が不安定で劣悪な高齢者住宅が野放しとなって増えています。行政が、経済対策に名を借りて業界団体とタッグを組んで補助金のバラマキを行い、本来の役割であるチェック機能を後回しにしているのは、先進国で日本くらいのものです。薬害問題、金融機関の不祥事、食品偽装、根っこはすべて同じです。省庁の権益確保のために、やるべきでないことに一生懸命で、最低限すべきことができていないのです。
 高齢者住宅事業も同じです。それは社会保障費の無駄遣いにつながり、その皺寄せはすべて地方自治体、一般市民、これからの子供たちにかかってきます。
 指導・監査体制の強化に必要なポイントは二つあります。
 一つは、開設前の指導体制の強化です。有料老人ホーム、サービス付高齢者住宅などの制度に関わらず、高齢者住宅は登録ではなく、すべて事前協議を行い、届け出を義務付けることが必要です。登録だけで自由に開設できるのであれば、高齢者住宅居住安定確保計画を策定する意味さえなく、開設は早い者勝ちということになります。
 制度・施策から見た現在の高齢者住宅の課題は、必要数が管理できないことではなく、事業内容が管理できないことにあります。事前にサービス内容や質、入居者保護について事前に確認できないのですから、どのような事業者が算入してくるのか、どのような運営が行われるのかがわかりません。数を増やすと言っても、高齢者住宅が乱立したけれど、それだけトラブルも増え、次々と倒産するということでは意味がありません。
 これを避けるためには、開設前の監査・届け出・事前協議などを徹底し、『重度要介護高齢者になっても本当に生活できるのか』『経営は安定するのか』など厳しくチェックすることです。開設時にしっかり確認できていれば、定期的な監査や指導は、それが遵守されているか確認すれば良いのですから、それほど大変な作業ではりません。高齢者住宅事業は超高齢社会に不可欠な事業ですが、それは数を増やすことだけでなく、長期安定経営が可能な優良な事業者を育成する、全事業者のレベルの底上げをすることが必要です。開設されてしまえば、入居者が人質となって、そこから指導や監査を強化することはできません。リスクの高いもの、不安定な商品性のものは、まず開設させないということが重要です。
 もう一点は、経営体制を含めた指導体制の強化です。
 指導監査で最も重要なことは、経営内容、経営の安定度を含めた全体像を把握することです。
 現在の行政の立場は『経営には関与しない』ということになっていますが、社会保障制度を利用する公益性・公共性の高い事業ですが、介護保険の不正請求だけでなく、一部の経営者が高額の役員報酬を受取り、それが経営悪化の原因となっているようなケースもあります。特に、終身利用を目的して高額の入居一時金を徴収している場合、その資金は適正に運用されているのか、別の新しい高齢者住宅の開設の頭金や関連会社に流用されていないか等、入居者の不利益にならないように指導・監査を厳しく行う必要があります。
 経営収支とサービス運営実務は分離しているのではなく一体的なものです。収支が悪くなると、介護報酬の不正受給や必要な情報を開示しないなどのコンプライアンス違反が発生する要因になります。また、入居者・家族の最大のリスクは事業者の倒産ですから、『監査・指導で全く問題ない』『その翌月に倒産した』ということでは、何のための監査・指導なのかわかりません。
 特に、終身利用を目的とした高額の入居一時金を徴収している場合、決算書を見ても経営が安定しているのか否かを確認できません。一時的にキャッシュフローが黒字経営のように見えても、償却期間を越えると一気に赤字に転落するケースは少なくありません。更に、入居時に支払った高額な一時金が負債を抱える関連会社に流れ、他の老人ホームを作る資金になり、倒産して全く一時金が返ってこないというケースもあります。悪いことを考える人にとっては、高齢者住宅事業は入居一時金を狙った計画倒産が最もしやすい事業なのです。
 都道府県や市町村単位で、指導指針を厳しく策定することはできるはずです。高齢者の住居という生活の根幹に関わる事業であること、介護保険を利用するという公益性の高い事業なのですから、経営を不安定にさせるような資金運用上の禁止事項を定めると共に、経営の安定度を示す指標を策定し、その結果を公表することも検討すべきでしょう。

 何度も言いますが、高齢者住宅は、あらゆる意味でこれからの高齢社会に不可欠な事業です。
 特に、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅は絶対的に不足しているのですから、量の規制に重点を置くのではなく、質の管理を強化すべき時です。現在の制度の課題を見据え、限られた財源の中でその地域の中の超高齢社会をどのように設計するのか、そのために国の定めた制度をどのように利用・運用するのかは、それぞれの自治体で検討しなければなりません。
 ただ、対象者やサービス内容を含めた『高齢者居住安定確保計画』が策定されておらず、監査指導体制が整っていないのであれば、サービス付高齢者住宅の補助金などに惑わされず、新規の開設計画をストップし、半年や1年の期間を区切って、早急に、福祉施設のあり方も含めた安定確保計画を策定すべきです。『高齢者住宅は必要だ』『福祉の充実』という目先の利益や勢いだけで、無計画のままバタバタと数だけを増やすと、不良債権となるものが多くなり、その後始末は大変なことになります。この半年、1年のうちに、10年、15年後のその市・都道府県がどのようになっているのかを見据え、限られた財源の中で、効率的・効果的な高齢者介護、高齢者住宅対策を検討し、足元を固め、その方向性を示さなければなりません。
 事前の監査を強化すれば、参入意欲が削がれるという人がいますが、それは違います。高齢者住宅事業の将来性、事業性は高いのですから、監査体制を強化しても、優良な民間企業は必ず参入してきます。膨張する高齢者対策のマネジメント力の有無が、その地域で暮らす高齢者だけでなく、これから生まれる子供たちの未来を決める一つの大きな要因だと言っても過言ではないのです。