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コラム3 こんな老人ホーム・高齢者住宅を作ってはいけない
国主導のバラマキ建設補助は不要
 特養ホームに代わる要介護高齢者住宅の検討において、大きなポイントとなるのが建設補助や低所得者対策のあり方です。
 2009年から、国交省は高齢者居住安定化推進事業として、「生活支援サービス付高専賃」の整備に対して、国が同様に建設費(1/10、1戸当たり100万円上限)の建設補助金を出しています。この流れはサービス付き高齢者住宅に引き継がれ、2011年度は325億円の補助交付金が予算化されており、年間6万戸、10年で60万戸の整備を予定しています。建設補助については、民間の高齢者住宅事業者からも歓迎されています。
 しかし、私は、このような国主導の補助施策には反対です。
 この補助施策は単なるバラマキだというだけでなく、あるべき高齢者住宅の安定的な整備方法にも逆行するからです。
 そもそも、公的な補助金が必要な事業というのは、「公共の利益のために必要な事業だが補助がないと赤字になる」「公共の利益のため必要な事業だが補助金がないと整備が進まない」のどちらかです。高齢者住宅は、超高齢社会に不可欠な事業だと言うことは間違いありませんが、補助がないと赤字になるわけではありませんし、都市部においては補助金を支出しなくても、「乱立状態にある」と言ってよいほど数は増えています。
 その補助の趣旨として「高齢者が安心して生活することができる住まい・住環境の整備による、その居住の安定確保を推進する」としていますが、そもそも、一定の設備・運営基準、監査指導体制の整っている有料老人ホームの制度を有名無実化し、劣悪な業者が乱立し、高齢者住宅業界を玉石混淆の大混乱に陥れたのは、サービス付高齢者住宅の前身の高齢者専用賃貸住宅制度です。
 建物設備基準や運営基準により高いハードルが示され、長期的な指導監査体制が整っている有料老人ホームでさえ補助制度を行っていないのに、最低限のチェック体制すら整わない、矛盾だらけの不安定な制度の中で、サービス付高齢者住宅に補助金をつけても、優良な高齢者住宅を整備することなどできるはずがありません。
 また、この補助を受けた事業者は、10年間はサービス付高齢者住宅として登録することとされていますが、現在のところ、指導・監査体制は全く整っていませんし、罰則もありません。
 実際に、高齢者住宅の整備に関して同じような問題が起こっています。
 独立行政法人住宅金融支援機構が、高齢者向けバリアフリー賃貸住宅建設のために行った公的低利融資について、会計検査院が調べたところ、2007~2008年に実施された融資の96%にあたる417億円が融資条件に反して実行されていたという報道がなされています。融資の条件として、入居者の募集開始までに高専賃や高円賃として登録する必要があったのですが、対象の468件の内、450件が未登録で、内6割の259件は、募集開始後、高齢者以外の入居者で満室となった後で、『空室なし』として形だけ登録しています。中には、学生専用という看板が掲げられていたものもあると言います。初めから高齢者を対象とする気などなく、結果、60歳以上の世帯が入居していたのは468件中5件しかなかったということです。ここまでくると、制度設計のミスや管理が杜撰だという問題ではなく、官民一体となった詐欺です。
 また、この補助制度は、高齢者住宅の整備を地域主導で行うという方向性にも反しています。述べたように有料老人ホームであれ、高専賃であれ、どのような高齢者を対象とした高齢者住宅を、どの程度整備するのか、どのような基準で整備するのかは、高齢者居住安定確保計画を策定し、市町村や都道府県など各地域で決めるべきものです。
 自治体の安定確保計画に合致しているか確認するとしていますが、根幹となる制度が混乱し、制度の統合がささやかれるなど流動的な中で、監査体制が充実し、長期的な視点から確保計画が策定できている自治体は、恐らく一つもありません。今でも補助金取得を目的とした「安定化事業の補助金の取り方」「どのような計画であれば補助が受けやすいか」といったセミナーが盛んに行われていますが、「開設ありき」の計画となり、その内容が地域ニーズに合致するとは限りません。このような施策では、本来必要な商品性や事業リスクの検討は行われず、どうすれば補助や税制優遇が受けられるのかだけにしか目が行きません。資産運用や実利益率などの美辞麗句や数字が並べて作られた高齢者住宅は、100%失敗します。
 国の基準だけで補助対象を審査し決定するという方法は、地域性や地域ニーズを蔑ろにし、地域主導の高齢者住宅対策を阻害する以外のなにものでもありません。
 更に、述べたように、このサービス付高齢者住宅の多くは、区分支給限度額方式で検討されていますが、それだけでは重度要介護高齢者に対応できませんし、制度変更リスクも高くなります。介護保険制度が改定され、高齢者住宅に対する区分支給限度額方式が抑制されると、国交省が『サービス付高齢者住宅例』として紹介しているビジネスモデルは、崩壊することになります。高齢者が集まらない場合、倒産・事業閉鎖となれば、補助金は霧散してしまいます。この問題を指摘すると、「介護保険は厚労省の管轄」「今回の補助は経営には関与しない」ということですが、全体の方向性を無視したままで補助を続けるという、あまりにも杜撰で、無駄なお金の使い方だと言わざるを得ません。
 「バラマキ」でも、地域への経済効果はあるという人がいますが、制度も商品設計も不安定なままで、長期安定経営が見込めないような不良債権になる可能性のある高齢者住宅を作ると、後で大きな負債として戻ってくることになりますし、入居している高齢者・家族の生活は、根底から崩れることになります。その負担は、莫大な借金となって次世代、その先の世代の生活にまで、影響を及ぼします。「バラマキ予算は確保するけど、制度の方向性も経営も俺の責任ではない、あとは知らない」というのは、あまりにも無責任です。