HOME > 高齢者住宅事業への参入を考えておられる方へ

<はじめに>

 2000年に始まった介護保険制度の発足から、すでに13年が経過しました。
 その間に高齢者住宅は右肩上がりで増加し、有料老人ホームは4640ヶ所、定員216千人(平成23年社会福祉施設等調査)、サービス付き高齢者向け住宅は、総登録数 2887ヶ所 総戸数92千人※となっています。超高齢社会を迎えて、その準備が着々と進んでいるように見えます。

【高齢者住宅事業は、大きな曲がり角へ】

 しかし、この数年の内に、高齢者住宅は大きな転機を迎えることになります。
 その理由の一つは、トラブル・倒産の増加です。
 安定経営を続けている事業者がいる一方で、経営から数年経過しても入居者が半数も集まっていない事業者も少なくありません。入居率が高くても、事業計画の甘さから人件費の高騰や長期入居リスクの顕在化に直面し、収支が悪化している事業者も増えています。今年の3月には、中小企業金融円滑化法が期限切れになりますから、高齢者住宅の大量倒産が起こるのではないかと危惧されています。
 また、高齢者住宅内での介護虐待や死亡介護事故も、毎日のように報道されています。高齢者住宅は対象が高齢者・要介護高齢者であること、また、閉鎖的で入居者・家族が弱い立場に立たされやすいことから、事故の隠ぺいや虐待が発生しやすい環境にあります。『高齢者住宅の量的増加』を求めた結果、サービスの質や入居者保護の視点がおざなりとなっており、再び、『たまゆら』のような火災死亡事故が発生する可能性は高いと考えられています。

 もう一つの理由は、末期的ともいうべき、日本の財政状況です。
 現在でも、国家予算の一般歳出の内、社会保障費は50%を超えています。社会保障関係費はこのまま推移すれば、2025年には社会保障費だけで収入を超えることになります。また、国・地方の国債発行残高・長期借入金は、現在でも1200兆円で、実質的に財政破綻に近い状態にあります。
 高齢者住宅事業 ・ 介護サービス事業の未来は、この財政問題を避けては通れません。増大する社会保障費を賄うために、消費税の増税が行われますが、仮に10%になったとしても、社会保障の増大には到底追いつかないことは明らかで、プライマリーバランスを黒字化する、つまりこれ以上借金を重ねないようにするだけで、15%~20%程度の消費税が必要だと試算されています。現在の社会保障制度をこのまま続けることは、実質的に不可能なのです。

【長期安定を基礎とした制度・商品性の集約へ】

 高齢者住宅事業は、今後どこに向かうのか・・そのポイントは大きく二つに分かれます。
 ひとつは、制度の集約です。
 本来、高齢者住宅で暮らす要介護高齢者が増えると、移動の時間が必要ないため効率的に介護サービスを提供することが可能であり、それは介護保険財政・社会保障財政の効率的な運用につながるはずです。しかし、現在、高齢者住宅に適用される介護保険適用の方法は4種類あり、類型によって受けられる介護サービスは違い、同じ介護サービスでも適用される類型によって受け取る介護報酬が違ってくるという制度の根幹にかかわる矛盾が生じています。そのため、逆に高齢者住宅が増えると、介護保険財政が悪化するという本末転倒の事態となっています。
 高齢者住宅関連制度も混乱しています。高齢者住宅の制度は、本来一本化すべきものですが、厚労省の有料老人ホーム、国交省の高専賃・サ高住と制度が次々と変わる中で、入居者保護制度が崩壊し、社会保障費を搾取する貧困ビジネスのような劣悪な高齢者住宅や無届施設が激増しています。
 しかし、このような混乱がいつまでも続くわけではありません。高齢者住宅の健全育成のためには、制度の安定が不可欠であり、それは社会保障財政の効率的、公平公正な運用と一体的なものです。必ず、制度は一定の方向に集約されていきます。合わせて、現在、高齢者住宅の育成を阻害している老人福祉施設との役割の混乱も、解消されていくことになるでしょう。

 もう一つは、商品性の集約・安定です。
 福祉施設のような画一したサービス・機能ではなく、『多様化する高齢者の住宅ニーズに対応する』というのは、高齢者住宅産業全体としても、事業個別のセールスポイントとしても重要な視点です。しかし、現在の状況は、よく言えば多様化ですが、客観的に見れば、あれもこれも全て『安心・快適』という美辞麗句に覆われて混沌としているにすぎません。
 高齢者住宅事業は、民間の営利目的の事業ですから、どのようなサービス・価格の高齢者住宅が求められているのか、どうすれば事業の特殊性に起因する特殊なリスクをヘッジできるかを、事業計画・商品設計において追求していくことになります。サ高住だ、有料老人ホームだという制度選択ではなく、長期安定経営が可能な『強い商品』に集約されていくのです。

【変化・混乱の先を見据えた事業計画を】

 このトラブル・倒産ホームの増加、大規模な制度改訂の中で、高齢者住宅業界は、混乱することは間違いありません。しかし、それは、リスクであると同時に、大きなチャンスでもあります。
 高住経ネットが見ているのは、混乱の後に来る、長期安定的な高齢者住宅の未来です。

 これまで、高齢者住宅の未来に向けて、様々な角度から検証・検討を進めてきました。
 多くの成功ケース・失敗ケースから、長期安定経営を阻害するリスクどこにあるのかは、わかっていますし、現在、入居率が高く、利益が出ているように見える事業者でも、数年後には経営が悪化するだろう・・ということも診断できるようになってきました。
 高齢者住宅の需要が高まることは間違いなく、事業計画の中で、『強い商品性』と『経営管理・サービス管理ノウハウ』を構築することができれば、地域社会の役に立ち、かつ営利事業として成功する可能性は高いと考えています。

 しかし、その一方で、誰彼を問わず、『高齢者住宅は、需要が高いですよ。これからの事業ですよ。参入してはどうですか・・』 というものではありません。高齢者住宅は、民間の営利目的の事業ですが、同時に公的な介護保険制度を利用する公益性・社会性の高い事業です。また、大きな初期投資がかかる住宅事業ですから、万一、事業が失敗すれば、数億円という負債を抱えることになりますし、高齢者住宅事業だけを切り離して清算できるわけではありません。更に、事業者の金銭的な負担だけでなく、信頼して入居された高齢者、その家族の生活をも根底から崩壊させることになり、その影響は、高齢者住宅に関係のない地域の介護福祉ネットワークにまで及びます。
 高齢者住宅の安定経営には、技術的なノウハウだけではなく、理念や高いコンプライアンスの意識が不可欠です。『儲かりそうだから』と、安易な気持ちで参入されては困るのです。

 私たちが考える高齢者住宅の未来は、『リスクマネジメント』『ケアマネジメント』『ディスクロージャー』という3つのキーワードに集約されていきます。この3つのポイントを兼ね備えた商品性・経営ノウハウをもつ高齢者住宅こそが、これからの超高齢社会に求められる未来の高齢者住宅なのです。
 このコラムは、2010年に発売され、完売となりました拙著 『有料老人ホームと高齢者住宅 開設と運営のポイント100』 を、この3つの視点から、大幅に加筆・修正したものです。
 私たちの高住経ネットの知識・ノウハウが、これから高齢者住宅に参入したいと真剣に考えている方、地域のために役に立ちたいと考えている経営者の参考になれば幸いです。


2013年1月
高住経ネット   濱田 孝一

※サ高住の数字は、平成25年1月現在のものですが、この中には、一部有料老人ホームも含まれます。