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特養ホーム 入居要件を厳格化 中・重度者に限定     2013/09/18

 厚生労働省は18日、厚労相の諮問機関、社会保障審議会介護保険部会に、特別養護老人ホーム(特養)の入居要件を厳しくする案を示した。現在の対象者は、要介護1以上だが、新たに入居できる人を「要介護3」以上の中・重度者に限定するとしている。
 このほか、通所介護(デイサービス)事業所が独自に提供している法定外の宿泊サービス「お泊りデイサービス」を届け出制とする案を提示している。
 来年の通常国会に介護保険法改正案を提出し、2015年度からの実施を目指している。
 『特養ホームの入居要件を厳格化するのでは・・』という情報は、以前から噂されていましたが、その内容が介護保険部会に提示されたものです。
 厚労省は、その理由として『要介護1~2』の人も全体の12%を占めるということ、入所者一人あたりに対する平均給付額は28万円となり、在宅で生活する高齢者(同10万円)と比較すると18万円以上の介護保険給付が必要となることを挙げています。全国老人福祉施設協議会(老施協)などから反対意見もでていますが、『何を厳格にすべきか』という方向性が根本的に間違っていると考えています。

 それは、老人福祉施設の役割・位置づけが、今以上に混乱するからです。
 本来、特別養護老人ホームは要介護高齢者の住居ではなく、介護保険制度だけでは対応できない、自宅で生活できない社会的弱者のための老人福祉施設です。自立高齢者を対象とした軽費老人ホーム、要支援程度の高齢者を対象とした養護老人ホームと同じように、介護が必要な高齢者の老人福祉施設が特別養護老人ホームです。そのために二重・三重の手厚い保護が行われており低価格で利用することができます。
 それがいつの間にか、『要介護高齢者の住居』としての位置づけが当たり前のようになってしまいました。ニュースや新聞でも、『入居要件』となっていますが、住居ではありませんから、その本来の役割を考えると『入所』というべきです。病院に入院するのを『入居』といわないのと同じです。
 歴史的に見ると、介護保険が始まるまでは、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅が整備されてなかったことから、自宅で生活できなければ特養ホームしかなかった・・という背景もあります。そのため、住居ではないけれど、長期の入所が一般的になっていたのです。
 しかし、介護保険制度以降、要介護高齢者を対象とした介護付有料老人ホームやサ高住の整備は進んでいます。示されているように在宅で生活する高齢者と比較すると、特別養護老人ホームの入所者には、毎月18万円、年間200万円以上の社会保障費が投入されています。加えて、社会福祉法人は様々な税制優遇や建設補助が行われていますから、現在の特養ホームと全く同じ基準で介護付有料老人ホームをつくると、その価格設定は月額30万円を超えるでしょう。
 運良く特養ホームに入所できた人は、10万円~13万円で利用できますが、順番が回ってくるまで待てない人は、同じサービスに30万円の費用を支払わなければならないというのが現実です。厚労省は、『要介護3以上』と厳格化するのであれば、『要介護3以上であれば、保険給付の差額が18万円以上でもよいのか・・』『特養ホームと民間の高齢者住宅の役割の違いは何か』という疑問に答える必要があります。
 現在の特養ホームは、民間の要介護高齢者を対象とした高齢者住宅の育成を阻害しているだけでなく、社会保障制度としてみても、あまりにも不公平・非効率なのです。

 更に問題は、要介護度で入所者を限定することによって、本来の役割である老人福祉施設の機能が低下するということです。福祉施策・福祉施設は、介護保険で対応できない福祉的サポートが必要な高齢者・家族の最後の砦です。養護老人ホームでは要介護高齢者を受け入れることはできませんから、特養ホームを要介護3以上ということにすると、要介護1・要介護2の要介護高齢者を対象とした老人福祉施設がなくなってしまいます。
 そもそも、福祉的サポートの必要性と要介護度は直接的にリンクしません。要介護認定は介護の必要性のみを判断するものであり、その高齢者の生活環境や家族との関係、個別の事情や困窮の度合などは加味されないからです。
 軽度要介護高齢者でも、緊急避難的な対応、福祉的な視点からのサポートが必要な高齢者はたくさんいます。いまでも、介護虐待や介護拒否が増えていますが、それが表面化するのは氷山の一角です。それは、とりもなおさず介護保険制度との関係・役割が混乱する中で、老人福祉の役割が劣化しているからです。
 今後は、介護虐待や介護拒否だけでなく、独居認知症高齢者など、申請主義の介護保険だけでは対応できない福祉的なサポートが必要な高齢者は爆発的に増えていきます。『軽度要介護高齢者でも緊急避難的対応が必要な高齢者は除く』というのであれば、現行の制度と何もかわりません。
 厳格化するのであれは、安易に要介護度を指針とするのではなく『入所判定にあたって、本来の老人福祉施設の役割・機能に合致しているか否か・・』という指導を強化すべきです。厚労省は、本当に『要介護度 = 福祉的ケアの必要性』だと考えているのでしょうか。社会保障制度改革国民会議の提言におもねるだけの、意味のない厳格化は、本来の目的である老人福祉の役割を更に混乱させ、セーフティネットの穴を広げるだけです。

 今回の介護保険部会に示された案で、もう一つ指摘しておきたいのは、『お泊りデイサービスの届け出制』です。
 『お泊りデイサービス』は、そのニーズを持つ高齢者への独自のサービスとして発展しているのではありません。ショートステイ(短期入所)が一杯で、利用することができない高齢者・家族がやむなく利用しているにすぎません。そこには、ケアマネジメントの正当性・妥当性さえありません。
 また、届け出制にするということは、その届け出内容を行政が認めるということですが、その責任はどうするのでしょうか。そもそも、『デイサービス』ですから、入所施設やショートステイのように、建物設備そのものが寝泊りできる環境として作られているわけではありません。夜間のスタッフ配置はどうするのか、自然災害や火災などへの対応はどうするのか、消防法上はどのような位置づけになるのか、疑問や課題は少なくありません。
 私は、制度の歪の中で発生した『お泊りデイサービス』は、基本的に禁止するべきだと考えています。『自費だから、介護保険使わないから良いでしょう・・』というのであれば、『保険あってサービスなし』と、その自治体の介護保険制度の根幹が揺らぐことになります。

 この『特養ホームの入居(入所)要件を厳格化』と『お泊りデイサービスの届け出制』という問題はリンクしています。セーフティネットともいえない、運営に莫大な社会保障費が必要となるユニット型特養ホームは、『介護保険』と『老人福祉』の混乱の象徴ですが、ここまで広がってしまえば、それをなくすわけにはいきません。
 ただ、申込者42万人というのは数字のトリックであり、緊急な対応が必要な高齢者は、特養ホームに申し込んでいる人の一割程度です。また、大半の申込者は、一つだけでなく複数施設を申し込んでいますから、その実数は、更に減るでしょう。
 今、増やさなければならないのは、特養ホームではなくショートステイです。
 定期的にショートステイが活用できれば、家族の事情や介護疲れの時に、緊急ショートがいつでも利用できれば、在宅で生活できる高齢者はもっと増えるはずです。今は必要ないけれど、将来の不安のためにとりあえず申し込むという人も減るでしょう。ユニット型特養ホームの一部をショートステイやミドルステイとして転用し、より多くの人が利用できるようにすれば、現在の制度の不公平感を和らげることもできます。そうすれば、『お泊りデイサービス』などという、制度の歪によって生まれたサービスは解消されるはずです。

 超高齢社会の本丸である、団塊の世代が後期高齢者になるのはこれからです。楽観的な成長プランでも描けないほど、社会保障財源確保・人材確保ともに厳しい状況にあります。
 制度を維持していくためには、保険料の値上げ、介護保険の個人負担の引き上げなどの財政改善策は必要ですが、その前提して、老人福祉と介護保険の役割の混乱を見直し、老人福祉の立て直しとともに、公平で効率的な制度を目指さなければ、社会保障制度に対する信頼そのものが崩れてしまうことになります。厚労省には、目先の課題の修正ではなく、長期的視点に立った制度設計をお願いしたいものです。