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認知症入居者に過剰診療か 家族了解なく毎日訪問 2013/10/7

 岐阜県各務原市でケアハウスを運営する社会福祉法人が、入所中の認知症の高齢者に対して、同一法人が運営する診療所から毎日のように訪問診療を行うなど、過剰ともみられる治療を受けさせていたことがわかった。一部には、架空診療の疑いもあるという。
 各地の施設でも、過剰診療に歯止めがかかっていない可能性があることから、厚生労働省は調査する方針としている。
【朝日新聞 10月6日より】

 高齢者の多くは、加齢による身体機能の低下だけでなく、高血圧、糖尿病などの生活習慣病などの慢性疾患を抱えており、介護同様、医療は日常的に必要なサービスです。そのため、老人福祉施設や高齢者住宅のパンフレットには、『協力病院があるので安心』『診療所併設で安心』などと書かれています。特に、ターミナルケアを行うためには、急変時にいつでも駆けつけてくれる、地域の診療所との連携は不可欠です。
 そのメリットは、入居者や事業者だけではありません。
 都市部では、通常の診療ではなく、診療報酬の高い訪問診療に力を入れている診療所が増えてきました。医療機関にとっては、数十人のまとまった患者が確保できることや、移動の必要がなく効率的に診療ができること、更に介護スタッフや相談スタッフが常駐していることからトラブルになる可能性も低いという、とてもありがたいお客さんです。
 また、医療保険財政から見ても、終末期の高齢者が入院をして、延命のための様々な高額な医療行為が行われるよりも、本人が入院を希望しないのであれば、在宅でそのままおだやかに終末期を迎える方が、支出の抑制を図ることができます。終末期を『入院から在宅へ』という掛け声のもとで、訪問診療に高い報酬が設定されている理由はそこにあります。

 このように、診療所や病院と連携し、医療依存度の高い高齢者にも対応できる介護保険施設や高齢者住宅が増えることは、入居者、事業者、医療機関、社会保険財政(つまり負担者)の四者ともにメリットがあることです。事業者・医療機関が同一法人、または同一グループ内であれば、そのメリットは二倍以上のものになるでしょう。
 しかし、それは当然、必要なサービスを適切に提供するということが前提です。本人が認知症で判断能力が低下していることを良いことに、必要のない訪問診療を行ったり、実際に行っていない架空診療を行うなど言語道断であり、まぎれもなく詐欺行為です。
 ただ、残念ながら、これは当該社会福祉法人だけの問題ではありません。架空診療を行っているか否かは別にして、過剰診療ではないかと疑念をもたれるようなケースは、ここだけではありません。
 訪問診療を行う診療所にとっては、数十人単位のかかりつけの患者が増えることになりますから、大きなメリットです。今でも、『サ高住を紹介してほしい』という依頼や、バックマージン的なものを示す医師、それを診療所に求める高齢者住宅もあると聞きます。
 また、医療機関や診療所に対して、『高齢者住宅と連携して訪問診療で儲けよう』と持ちかける開発業者や訪問介護事業者もあります。そうなってしまうと、『その入居者に医療行為がどの程度必要か・・・』という根本が失われてしまうことになります。

 しかし、これは医療の問題だけではありません。
 より根深い問題が、介護保険制度にも存在しています。
 サ高住や住宅型有料老人ホームでは、区分支給限度額を上限に、訪問介護、訪問看護、通所介護などの必要な介護看護サービスを組み合わせによって介護看護サービスが提供されています。当然、その基礎となるのは入居者それぞれの個別ニーズ・生活ニーズを基礎としたケアマネジメントです。しかし、同一法人が運営する訪問介護や通所介護を併設している高齢者住宅では、その根本理念を無視して、『同一法人のサービスを限度額まで利用させる・・・』という方法が、半ば日常化しています。
 先ほどの訪問診療の過剰診療は、それを行っている医師も不正行為だとわかっていますが、サ高住や訪問介護サービス事業者は、その方法に問題があることさえ認識していない人が大半です。サ高住の事業計画には、入居者の半数の高齢者に併設する訪問・通所サービスを利用してもらうことが前提となっているものが多く、『限度額まで利用してもらうことを前提にしている』『限度額まで利用することと念書を採ることは可能か・・』といった、にわかに信じられないような相談もあります。

 その歪に悩んでいるのが、そのような行為が不正だと認識している専門職種のケアマネジャーです。ケアマネジャーからは、『私達はこんなことをしていて逮捕されないでしょうか』『資格停止にならないでしょぅか・・』といった悲壮な相談が寄せられています。
 当然、区分支給限度額方式を限度額まで利用することが悪いわけではありません。ケアマネジャーが専門職種として、そのサービスがその利用者にとってベストなケアプランであると説明でき、またそのサービスが正しく提供されていることを把握しているのであれば問題ありません。ただ、それを問うと、大半のケアマネジャーは下を向いてしまいます。経営者から指示されていてどうしようもない・・というのです。
 しかし、その責任は軽いものではありません。
 そのような不正が発覚すれば、それを指示していた事業者も指定取り消しなどの行政罰の対象となりますが、それはケアマネジャーやホームヘルパーにも及びます。『適正にサービスを提供することを指示していた』『不正までは指示していない』と経営者が抗弁されれば、ケアマネジャーやホームヘルパーが専門職種としてその責任を個人として負うことになりますし、最悪の場合、資格取り消しなどの行政罰だけでなく、詐欺罪として刑事罰、さらに『不正行為によって企業に損害を与えた』と、事業者からケアマネジャーが訴えられることさえあります。『個別ニーズを無視して併設サービスで限度額まで使い切る』『書類上だけで、実際は適切にサービスが提供されていない』というのは、まぎれもなく法律に違反する行為であり、そのような事業所で働くことは、法的な資格をもった専門職種が、その専門性に与えられた信用を悪用して、詐欺行為に加担していることなのです。

 社会保障財政の財政悪化をくいとめるために、消費税が上がることが決まりました。このような社会保障の搾取や無駄遣いに対して厳しい目が注がれていますから、『これくらいは大丈夫だろう』『どこでもやっていることだ』と安易に考えていると、ある日突然、想像していなかったような厳しい社会的批判・制裁を受けることになります。

 介護医療連携によって、入居者・家族、そして社会にメリットを還元できることが重要で、それを隠れ蓑に社会保障を搾取するようなことがあってはなりません。事業者だけでなく、医療従事者、介護関連職種は、その社会的役割や責任をしっかり理解し、プロとして高い倫理観をもって仕事をしないと、その仕事だけでなく社会人として信頼を失う可能性があるということを、一人ひとりが、もっと真剣に考えなければならないのです。