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老人ホーム 運営転々でサービス低下 突然の値上げも 2013/10/7


 有料老人ホームの運営会社が転々と変わる中、サービス低下や値上げなどを巡って、運営会社と入居者・家族との間でトラブルが発生している。
 『生活科学運営』が経営する伊豆市の住宅型有料老人ホーム『ライフハウス 友だち村』と、『ワタミの介護』が運営する 神奈川県内の有料老人ホーム 『レストヴィラあざみ野(前 ネクステージあざみ野)』のトラブル例について、紹介している。

 有料老人ホームの運営会社が転々と変わるというケースは少なくありません。
 有料老人ホームは、『高齢者住宅の時代だ』と、過剰な期待の中で事業の特殊性や事業リスクを理解しないまま参入した新規参入業者は多く、開設後に『こんなはずではなかった』と後悔し、経営が手を引きたい、売却したいという相談が寄せられています。
 しかし、運営会社が転々とするというのは、次々とその買い手が見つかるということです。M&Aはどのビジネスでもあることですが、バブル期であればまだしも、普通に考えると事業者が転々と変わる、すぐに買い手が見つかるというのは、とても珍しいことだと言えるでしょう。
 その現象を引き起こしている最大の原因は、『入居一時金経営の特殊性』です。この二つの有料老人ホームをはじめ、その多くは入居一時金という価格設定方法を採っています。この入居一時金方式は、事業者・利用者ともにメリットもあるのですが、その経営状態が決算書に現れないという特性があります。
 例えば、入居率が5割程度の有料老人ホームでも、決算書を見ると、開設以降、黒字経営が続いており、キャッシュフローが潤沢であれば、『入居率が7割、8割になれば、更に高い利益がでるだろう、将来性は高い』と考えるでしょう。しかし、この入居一時金はそう単純なものではなく、入居率が9割を超えても、償却期間を超えて長期入居となる高齢者が増えれば、赤字に転落する可能性があります。


 どのビジネスでも同じですが、M&Aで事業買収をしようとすれば、その事業に対して、前事業者よりも高い知識や能力を持つことが必要です。しかし、同様に『過剰な期待』でM&Aに参入してくる人は、前経営者以上にノウハウがありません。
 更に、ここで登場してくるのが『投資ファンド』と呼ばれる人たちです。彼らは、有料老人ホームの特殊性やリスクを理解せずに、決算書からのみ、その事業内容を理解しようとします。そのため、見た目は利益がでているけれど、プロが見れば、『三年後には確実に赤字に転落する』とわかるような有料老人ホームを、『成長性が高く、利益率も高い』と勘違いをして、高い値段で買ってしまうのです。
 このような有料老人ホームの大半は、事業計画・商品設計の段階で間違っているため、最初の数年間は大きな利益をあげても、そのままのサービス・価格で経営することはできません。購入後に『こんなはずではなかった・・』と気づき『困った・・』と思っていると、未だ『高齢者住宅の将来性は高い』『高い利益がでてきるのは素晴らしい』と言ってくれる、ありがたい新購入者がでてきます。つまり、彼らのマネーゲームは、居住者を無視したトランプの『ババ抜き』のようなものであり、手札が少なくなって、敗者が決まり始めたことから、その歪が入居者に転嫁され、このようなトラブルになっているのです。

 発生しているトラブルについて、二つの課題を指摘しておきます。

 一つは、入居者保護施策の不備です。
 民間の営利目的の事業である以上、経営が悪化し倒産するリスクはあります。事業閉鎖となり、すべてのサービスがストップしてしまうよりは、事業者が変更になる方がダメージは少なく済みます。入居者・家族にも、一定の選択責任がありますから、倒産を回避するために、サービスをカットしたり、値上げをするなど、利用者にも負担をお願いすることやむを得ないことだといえるでしょう。
 しかし、その責任を、まず負担すべきは経営者と出資者です。『生活科学運営』のケースの詳細はわかりませんが、経営責任も問われず、銀行やファンド等がダメージを受けないのに、一番弱い立場の入居者・家族だけが、その負担を負わされるというのは、納得できないでしょう。特に、自宅を売って高額の入居一時金を支払っている場合、いきなり値上げになり、月々の支払ができなければ、退居をもとめられるというのはあまりにも理不尽です。
 今後、必ず同じような事例はたくさんでてきます。
 消費者物価指数などの変動による緩やかな値上げではなく、経営悪化による一方的な値上げの場合は、入居者保護の立場から、その正当性について、行政がしっかりと監査・指導する体制をつくる必要があります。

 もう一つは、入居者・家族への対応のまずさです。
 朝日新聞の記事は、事業者が悪い印象で書かれていますが、『ワタミの介護』のケースでは、新しい事業者が老人ホームの経営を引き継がなければ、倒産してしまう可能性もあります。そうなれば、介護看護、食事などのサービスはすべてストップしますから、入居者は生活することができなくなります。その意味では、入居者・家族にとっても、『ホワイトナイト』という側面もあるのです。
 ただ、有料老人ホームなどの高齢者住宅事業は、経営者のものではなく信頼関係を基礎に、入居者・家族、そしてスタッフと一緒に作り上げていくものです。一方的な値上げやサービスカットを、事業者の権利として当たり前のように押し付けるようなやり方は、新事業者に対する反発しか生みません。記事にあるように、入居者・家族が恫喝のように感じたというのであれば、論外です。
 事業者・入居者・家族・スタッフの間に信頼関係のない老人ホームは継続できません。その反発は、転倒や骨折などの介護事故が発生した場合、民事裁判などに直結するため、事業者にとっても大きなマイナスです。また、このような記事がでてしまうと、一つの有料老人ホーム事業所だけの問題だけでなく、企業イメージ・企業価値そのものが大きく毀損されることになります。お客様である入居者・家族と対立するような事業買収は、高齢者介護や高齢者住宅事業の経営感覚として、根本的に間違っています。
 新たな負担やサービスカットを求められる入居者・家族から苦情が出るのは当然です。それでも、新事業者は経営上のメリットがあって参入するのですから、理解が得られるように、信頼関係を築くことができるように、より丁寧な対応がが必要です。入居者・家族を集めて一方的に通告するようなやり方ではなく、入居者・家族個別に丁寧に説明し、個別のケースに配慮する方法をとれば、ここまでトラブルにはならないはずです。高齢者介護は、民間企業であっても、何よりも『ホスピタリティ』や『信用』が求められる事業であり、そのイメージはお金では買えないのです。

 今後、入居一時金の長期入居リスクの顕在化によって、経営が急速に悪化する有料老人ホームが増加します。しかし、高齢者住宅事業は将来的にニーズが高まる事業であることは間違いなく、すべてだとは言いませんが、一定の時間をかければ、その大半は再生が可能だと考えています。上手く再生することができれば、事業者にとっても大きな利益をもたらします。
 高齢者住宅の事業再生の可否は、そこで暮らす入居者やその家族だけでなく、その有料老人ホームを抱える自治体にとっても、大きな課題なのです。



※ この問題とその解決の指針については、
拙著 『有料老人ホーム 大倒産時代を回避せよ』 (花伝社) (2010年)
で詳しく述べています。宜しければ、ご覧ください。

※このコラムは、あくまでも、現在(2013年10月7日)の報道をもとにして書いています。事実が違う場合、また新しい事実が明らかになった場合、変更若しくは削除する可能性があります。