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“老後の住まい”は今 ~急増 高齢者向け住宅~     2013/11/22

 高齢者が最期まで自由に安心して暮らせる住まいとは?
 ここ数年急速に戸数を増やしているのが賃貸や分譲の高齢者むけ住宅だ。
 24時間の見守りと生活相談サービスがつき、有料老人ホームのように生活を束縛されることなく、将来の介護の不安にも備えられる。一方、要介護度が重度になった場合の介護費用や突然入院した場合の家賃をどう賄うのか、課題も見えてきている。 高齢者の「終の棲家」となれるのか?可能性と課題を検証する。
【NHK かんさい熱視線】
 22日 NHKで報道された、かんさい熱視線という番組。
 関西圏以外に住まれている人は、ご覧になっていないと思いますが、番組のイメージ・構成は、『クローズアップ現代の関西版』とほとんど同じだと捉えていただければまず間違いありません。11月22に放送された、その番組の流れと概要について整理しておきます。

冒 頭 自宅での生活は、自由だが、介護の不安や家族の負担が大きい。施設に入所すると十分な介護が受けられるが、日々の生活を施設に管理され自由が少ない。そこで、プライバシーや自由が守られ、相談や24時間の見守りが受けられる生活支援サービス付の高齢者住宅が増えている・・という説明
VTR ① 自立度の高い高齢者の分譲型高齢者マンションの生活例(分譲4000万円)。他の入居者も自立度が高く、大浴槽やカラオケルームなど充実した設備で自由で快適に生活している様子。
VTR ② 自立度の高い高齢者のサービス付き高齢者向け住宅の生活例 (月額18万円)。施設ではなく、自由度の高い高齢者住宅を選んだということを力説。
VTR ③ 自立度の高い夫と要支援程度の妻の高齢者夫婦のサービス付き高齢者向け住宅の生活例。看取り(ターミナルケア)について家族や事業者と相談できることを選択の理由として挙げている。
解 説 ① 識者とアナウンサーとで、サービス付き高齢者向け住宅が増えてきた背景・理由などを解説。しかし、その一方で経営が安定しない事業者もあると伝え、後半VTRへ
VTR ④ 中度~重度要介護高齢者のサービス付き高齢者向け住宅の生活例。特養ホームから娘が近くにいるサ高住に移ってきたとのこと。ただし、生活全般に介護が必要となるため、すべて介護サービスを受けると介護保険の区分支給限度額を6万円超えてしまう。事業者は、入居者のことを考えその6万円を請求せずにいるが、重度要介護高齢者が増えてくると対応できない・・と訴える。
VTR ⑤ 要介護の生活保護受給者を対象としたサービス付き高齢者向け住宅の生活例(月額11万円)。行き場のない生活保護の要介護高齢者を自治体などから紹介され受け入れているが、高齢者が入院すると保護費が減るため未収金が発生する。家賃保証がされていないのが問題だと、事業者は訴えている。
解 説 ② 介護保険制度は家族がサポートすることが前提で、独居の重度要介護高齢者になると対応が難しい。定期巡回随時対応型訪問介護看護もあるが、収益性が低く、スタッフが集まらないなどの問題がある。重度要介護高齢者に対応できる施設を増やすべき・・・という結論で締めくくる。

 最近は介護や高齢者住宅に関するニュースや番組が増えてきました。しかし、残念ながら、正直に言えば、取材者の思い込みやイメージが強い反面、勉強不足や取材不足のものが多く、言葉の意味や制度の基礎も理解されていないのではないか、と感じる番組が少なくありません。
 残念ながら、それは意見の相違、立場の違いではありません。完全に論点に対するとらえ方が間違っています。
 前半部分でも、冒頭の『施設は自由度が少なく、高齢者住宅は自由度が高い』という一方的な決めつけは、間違いですし、終末期(看取り介護)への理解・対応など、事業者が悪いのか、報道の仕方が悪いのか、視聴者の誤解を招くと感じるところはたくさんあったのですが、この番組の中心となる論点・趣旨は、『高齢者住宅の経営が安定しない・・』と論じた後半にあります。
 この後半に絞って、その報道の論点の間違いについて整理します。

 確かに、サービス付き高齢者向け住宅(以下 サ高住)の中でも経営が悪化する事業者は増えており、大きな社会問題となることは間違いありません。しかし、その原因や責任が誰にあるのか・・を整理して考えなければなりません。

 VTR④の事業者のケースは、二つの誤解があります。
 一つは、『限度額を超えた6万円を請求しないのは誰の責任か・・』という点。介護保険制度は、医療の健康保険制度とは違い混合介護が原則です。必要な介護の基礎を担う制度であり、より手厚いサービスを求めるのであれば、その利用者がその超過分を全額自己負担しなければなりません。ですから、今回のサ高住の入居者ように区分支給限度額を超えてサービスを提供しているのであれば、それは入居者・家族に請求するというのが基本です。なぜ請求できないか・・と言えば、それは制度の責任ではなく、入居者やその家族に、入居時やケアカンファレンスを通じてきちんと説明できていないからです。
 もう一つは、区分支給限度額に適用される介護報酬の高さです。この区分支給限度額は自宅で生活する高齢者を対象としたもので、離れた各戸を回るという効率性の悪さ(移動時間や手待ち時間等)を勘案して高く設定されています。要介護3~5の中度~重度要介護高齢者で、この事業者のように限度額まで利用したと仮定すると、介護付有料老人ホームに適用される一般型特定施設と比較すると5万円~10万円高く、ユニット型特養ホームと比較しても、3万円~7万円ほど高くなっています。
 また、特養ホームや介護付有料老人ホームには、介護看護スタッフ配置が厳格に決められていますし、施設長(管理者)、相談員、ケアマネジャーなどの配置も義務付けられています。すべてその報酬内でまかなわなければなりませんから、介護看護サービスに対する報酬格差は更に大きくなります。報酬算定の方法が出来高か包括かという違いはあるものの、サ高住は、これら特養ホームや介護付有料老人ホームと同じように要介護高齢者が集まって生活していますから、その効率性は同じです。つまり、現在の制度では、サ高住の方がより高い介護報酬を得ることができ、介護サービスに対する利益率は高いのです。
 同じサービスを提供しても、介護報酬の算定方法によって得られる報酬が違うということが問題であり、現行の制度ではサ高住の事業者に大きなメリット・利益であるにもかかわらず、この制度の課題を理解しないまま、事業者の言うがまま『経営が悪化する』『事業者は我慢している』というのは、全く正確性を欠く報道だと言わざるを得ません。

 VTR⑤の事業者のケースも、同じことが言えますが、更に疑問なのは、その価格設定やサービスの設計は誰がしたのか・・誰の責任でそのサ高住は開設・運営されているのか・・という経営責任が考えられていないということです。
 例えば、周囲には貧乏学生さんが多いからと『破格の300円ランチ』を提供する大衆食堂があるとしましょう。しかし、食材費が高騰してその金額では損をするとしても、そのオヤジさんは『国が悪い、食材の単価を保証せよ・・』というでしょうか。
 レストランと高齢者住宅を比較するな・・と言われるかもしれませんが、どちらも営利目的の事業です。誰をターゲットとして、どのようなサービスを提供し、どのような価格設定にするのかは事業者が決めればよいことです。制度が途中で変わったわけでもないのに、上手く行っている時は事業者の利益で、収入が減るから家賃保証せよ・・というのは、まさに本末転倒です。
 事業者は、社会的弱者のために・・という理念や強い思いから訴えられたのだと思いますが、介護報酬の違いや、区分支給限度額方式を採る事業者のメリットや介護サービスにかかる高い利益率、事業者の役割や経営責任を理解せず、その意見をそのまま鵜呑みにし、『制度が悪い・・』『重度要介護高齢者になると対応できない・・』といった短絡的な報道は間違っているのです。

 ただ、これはNHKの問題だけではありません。
 大手新聞社や雑誌社、民放各局から取材の依頼を受けますが、共通して言えるのは基本的な制度や課題を理解せずに、自分の目に映ったことや社会の風潮、イメージだけで、『結論ありき』で取材をすることです。今でも、『高額な有料老人ホームから低価格のサ高住へ・・という論点で一言お願いします』 『サ高住が高齢者の住まいを変える・・というタイトルで番組を作っています』 という一方的な視点でコメントを求められることは少なくありません。番組を埋めるために、都合のよいコメントを求めたいのだと思いますが、常識的に考えて、サービス内容が同じであれば、そのサービスにかかるコストは同じです。有料老人ホームからサ高住へと制度名称が変わるだけで、魔法のように費用が安くなると本当に思っているのでしょうか。施設と住宅の違い、介護と福祉という基本的な言葉の違いさえわからないのに、高齢者住宅や介護問題が報道できるはずがありません。
 この高住経ネットで再三指摘しているように、高齢者住宅や老人福祉施設にかかる課題は、小さくありません。今後、倒産する事業者は確実に増えるでしょうし、介護虐待や介護事故などのサービスを巡ってのトラブルが激増するでしょう。社会保障制度の公平性・安定性という側面から見ても、課題は山積しています。複合的な課題が一気に噴出し、この数年の内に大きな社会問題となることは間違いありません。しかし、このような、老人福祉施設と高齢者住宅の役割の違い、介護保険適用の違いといった根本的な制度理解がないまま流されるニュース・報道は、逆にその課題の根幹を覆い隠してしまい、間違った方向に世論を誘導し、傷口を広げることにしかなりません。

 逼迫する財政の中で、社会保障制度を安定させ、高齢者・要介護高齢者の住まいをどのように確保すべきか・・というのは、これからの日本の大きな課題です。同時に、厳しい財政状況の中で、どうすれば公平・効率的な制度が構築できるかを考えなければなりません。
 わかったような、わからないようなあやふやな話、万民受けのする聞き心地の良い話、特に、一般的なイメージとして語られる話は『本当にそうだろうか』と自分の頭で批判的にチェックする必要があります。耳の痛い話の中にこそ、問題の本質が含まれていると考えるべきです。

厳しいようですが、公共放送さんには、もう少ししっかりしてほしいものです。