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介護施設利用者に暴行  経営者ら逮捕 ~広島県福山市~      2013/11/26

 広島県福山市の2か所のデイサービス施設で利用者を殴るなどしたとして、広島県警福山東署は26日、両施設を経営する同市明神町の介護福祉会社「縁(ゆかり)」の社長で介護士の孫衛容疑者(42)(福山市北本庄)と、両施設で勤務する他の介護士2人を暴行容疑で逮捕した。3人は調べに対し、いずれも容疑を否認しているが、同署は施設関係者の複数の目撃証言から刑事責任の追及に踏み切った。証言では、今回の被害者2人以外の利用者も被害に遭っていたといい、同署は、運営実態を詳しく調べる。他に逮捕されたのは、介護士・赤井千景(48)(同市南蔵王町)、その長女で同居の同・亜季(27)両容疑者。

 今回虐待が発生したのは、通常のデイサービス(通所介護)ではなく、夜間は自費で泊まらせて介護を行うという『お泊りデイサービス』と呼ばれる事業所です。デイサービスの利用に引き続き、翌日のデイサービスまで自費で宿泊するというシステムのもので、ショートステイの代替利用のものから、一部は特養ホームに入所できない低所得者の要介護高齢者の住処となっています。劣悪な環境のものも多く、指導監査の眼が行き届かないため、防災面での不安や今回のような虐待事件が起こることは、当初から危惧されていました。
 介護施設・高齢者住宅で繰り返される入居者・入所者への虐待。ここでは、この介護虐待をどのようにとらえるのか、何故、虐待が発生するのか・・・その責任はどこにあるのか・・について考えます。

介護事業所で発生する介護虐待は二種類

 介護施設や高齢者住宅内での介護虐待は、その悪質性・根の深さという視点でみると二つに分かれます。
 ひとつは個人の性格や資質、ストレス等による個人による虐待です。
 夜勤帯はスタッフがフロアーに一人ということが多くなりますから、隠れて患者や入居者を抓ったり、怪我をさせるという人がいるのも事実です。大学病院に勤務する看護師が入院患者に虐待を行ったというケースもあります。
 これは個人の隠れた犯罪ですから、管理者として、すぐに100%気づくことができるかと言えば、難しいところもあります。犯罪行為が明らかになっても、『まさか、あの人が・・』ということもあります。もちろん、事業者の管理責任は免れませんし、ニュースになれば、『ひどい施設だ』というイメージは避けられませんが、逆に言えば、『あの人の夜勤のあとには入所者の体に痣がある』ということに、他のスタッフが早期に気づいたということです。この個人を取り除けば、虐待はなくなります。

 もう一つは、この事業所に見られるような組織的な虐待です。すべてのスタッフが直接的に暴言や暴行などの虐待を行っているとは思いませんが、他の入居者やスタッフの前で、高齢者をバカにしたり、大声で罵ったり・・ということが許されるのは、その行為がその事業所では異常なものではないから、つまり、その施設全体で虐待行為が蔓延しているからです。
 さらに、恐ろしいのは、自分たちが虐待をしているということに気が付いていないということです。報道の内容を見れば、介護虐待というよりも、動けない要介護高齢者に対する暴行であることは明らかであり、介護というよりも人として許されることではありません。
 しかし、このような事業所では、気に入らないからと利用者を怒鳴りつけたり、頭を叩いたりするような行為が虐待だと思っておらず、それがこの事業所の通常のレベルなのです。施設や高齢者住宅内の介護虐待で最も怖いのは、このようにスタッフの感覚が麻痺してしまうことです。

介護虐待を誘発する事業特性

 もちろん、大半の介護保険施設、高齢者住宅では、適切なサービスが提供されており、このような虐待が蔓延しているような事業者はごく一部であることは間違いありません。しかし、同時に表面化するのは氷山の一角であることも事実です。そこには、介護保険施設や高齢者住宅の二つの『事業特性』が大きく関係しています。

 ひとつは、入居者や家族の立場が弱いということです。
 高齢者介護が、福祉施策から介護保険に変化し、民間営利事業の参入も伴って、要介護高齢者は『社会的弱者』から『お客様』になりました。しかし、一般サービスと同じように、入居者・家族と事業者は対等な立場にあるのか、また、家族は事業者やスタッフや事業者に対して言いたいことが言えるか・・と考えれば、そうではありません。
 要介護高齢者は自宅で生活できないから、家族は同居して介護できないから、福祉施設や高齢者住宅に入所・入居しています。また、特養ホームはどこでも満杯ですから、『この施設は嫌なので、他に移る』ということができるわけではありません。
 家族と話をすると、サービスに対して疑問や不満があっても『お世話になっている』『不満を言って退所させられると困る』『本人が嫌な思いをするのではないか』と、言い出せないという意見が大多数を占めます。また、家族がいない高齢者の権利は、誰も守ってくれません。

 もう一つは、閉鎖的な生活環境です。
 介護保険施設・高齢者住宅は、その性格上、入居者・入所者やスタッフが固定されます。特に、このような『お泊りデイサービス』のような事業では、少ない利用者に対して決まったスタッフが介護・看護サービスを提供します。また、要介護高齢者になると、擦り傷や痣ができていても、どこで怪我をしたのか、どこで打撲したのか、わからないことが多く、認知症になると、自分の意見も言えず状況も上手く説明できません。それが『妄想ではないか』『自分で転んだのでは・・』と、真剣に訴えを聞かない、不誠実な対応の言い訳に使われることもあります。
 家族は、いつも一緒にいるわけではないため、疑問があっても『毎日見てくれている介護の専門スタッフがそう言っているのなら・・』と引き下がるしかありません。サービス管理体制や各スタッフの職務に対する倫理観が乏しい場合、『誰も見ていない』『わからなければ良い』と、驚くべきスピードでサービスの質は低下し、ストレスを言い訳にした『手抜きの介護』『ひどい言葉遣い』が当たり前になってくるのです。

 この『立場の弱い入居者・家族』『閉鎖的な環境』という二つの事業特性が、介護スタッフによる虐待を誘発し、同時に発覚しにくい要因なのです。このような高齢者住宅や介護保険施設で虐待が発覚するのは、退職したスタッフによる告発か、または、家族が隠しカメラを設置して虐待の決定的な証拠を握るか、どちらかしかありません。
 発覚するのは氷山の一角であるという意味が、お分かりいただけるかと思います。

後退する監査指導体制

 介護施設・高齢者住宅でこのような虐待が何故なくならないのか、最大の問題はこの閉鎖的で、入居者・家族が弱い立場に立たされやすいという事業特性を前提とした、入居者保護の対策がとられていないことにあります。
 介護施設・高齢者住宅事業は、訪問介護や通所介護のように、利用するサービスではなく、24時間365日、高齢者の生活の基礎となる住宅事業です。劣悪なサービスが提供されると、その生活レベルものものが崩壊することになります。その事業特性を考えれば、入居者の人権や生活を守るために、強制力をもった第三者による指導・監査システム、また入居者・家族からの相談、調整機関の整備は不可欠なのですが、残念ながら、介護保険制度以降、民間の高齢者住宅や介護保険施設の急増に反して、入居者保護の体制は大きく後退しています。
 例えば、民間の高齢者住宅の場合、厚労省の有料老人ホームと、国交省のサービス付高齢者向け住宅という二つの制度の歪の中で、実務を行う地方自治体の各高齢者住宅の監査・指導体制は、ほとんど機能していません。以前、神戸市の有料老人ホームで虐待事件が発生したケースでも、市の高齢福祉課は「職員が少なくて手が回らない」と、指針で定められた定期的な立入検査を一度も行っていませんでした。サービス付き高齢者向け住宅にいたっては、法律はあるものの、誰が監査・指導するのか、その体制さえ整ってきません。
 更に問題は、行政が全く管理しない無届施設や、虐待が発生した『お泊りデイサービス』のような制度の歪をついたものが激増していることです。群馬県の『たまゆら』で、無届施設が火災となり多くの入居者が亡くなりましたが、『のど元過ぎればなんとやら・・』 で、指導・監査体制は全く構築されず、その後も制度は混乱し、劣悪な住居とも施設とも呼べないものが増加しつづけているのが現実です。

 一般的な商品・サービスの場合、劣悪なサービスの場合、利用をやめれば良いのですが、介護保険施設や高齢者住宅の場合、実質的にその選択肢は与えられていません。『ひどい言葉遣いだ』『虐待されているのではないか』と家族が考えても、相談するところさえありません。
 事業者や管理者に直接相談するだけの信頼関係があれば、このような問題は発生しないでしょう。事業者に対する不信感の一方で、相談すれば退居・退所させられるのではないか、余計に苛められるのではないかという危惧がある中で、不安だけが高まっていくことになります。

 介護保険施設や高齢者住宅で行われる介護虐待は、非常に罪の重いものです。自由の利かない体で、逃げ場所がない要介護高齢者が『終の棲家』として選んだ場所で、虐待が継続的に死ぬまで続くことになるのです。そこは、『安心・快適』などではなく、まさに地獄です。
 基本的な制度設計や指導体制が整わないまま、補助金ありきで量的拡大だけを求め、無届施設など劣悪な事業者を野放しにしてきた結果がここにあります。それが私たち日本の超高齢社会の現実だともいえます。
 この虐待事件は、各事業者だけの問題ではなく、制度設計上の重大な瑕疵です。介護虐待事件が何度繰り返されても、それを各事業者の問題として、放置してきた行政の責任は決して小さくありません。