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特養ホームのホテルコスト見直し の課題  ③      2013/12/16


前回から続く

 この特養ホームの課題は、介護保険と老人福祉の役割が混乱していることにあります。ここからは、現在の高齢者住宅や特養ホームを巡る、根本的な課題について考えます。

 まず一つは、それぞれの役割・目的が混乱しているということです。
 テレビや新聞などの報道を見ていると、『将来、介護が必要になればどこで生活したいか』というアンケートや討論が行われており、『自宅』『特養ホーム』『有料老人ホーム等の民間の高齢者住宅』の中から選ばせるようになっています。
 これは、特養ホームも要介護高齢者の住居だと認識されているからです。
 しかし、前回述べたように、現在のユニットケア型個室の特養ホームの入所者負担は、月額13万円程度ですが、その隣に立つ全く同じサービの介護付有料老人ホームでは月額30万円を超えます。お金はいくらでもあるので2LDKの部屋で、医師や看護師が24時間常駐しているような有料老人ホームに入りたい・・という一部の富裕層を除けば、誰もが『介護が必要になれば特養ホームに入りたい』と言うでしょう。『施設にはプライバシーや自由が少ない』などと言う人がいますが、それは単なる用語のイメージからくる素人発想でしかありません。特養ホームでも個別ケアの推進が進んでいますし、高齢者住宅でも事業者によってそのサービスの質・レベルは大きな差があります。『住宅だから、施設だから・・』というのは、全く全体像を理解していない人の意見です。

 同様に、『特養ホームは待機者が多く、有料老人ホームは高額なので、最近はサービス付き高齢者向け住宅が増えている』という視点でアプローチをしている報道も増えていますが、これも根本的に間違っています。要支援程度の自立度の高い高齢者と中度~重度要介護高齢者では、生活ニーズや必要なサービスが全く違います。低価格のサービス付き高齢者向け住宅の多くは、『介護が必要になっても安心』『介護が必要になれば介護保険が利用できます・・』と言っていますが、いまは自立度が高く安い入居費用であっても、重度要介護状態になって、特養ホームと同じレベルのサービスを受けようと思えば、30万円程度の費用が必要になります。特養ホームでも有料老人ホームでも、サ高住でも、サービス内容が同じであれば、その運営コストは同じです。有料老人ホームからサ高住へと名称が変わるだけで魔法のように運営コストや月額費用が安くなるはずがありません。
 特養ホームは、住居ではありません。自宅で生活できない要介護高齢者が一時的に身を寄せるための施設であり、自宅や高齢者住宅で生活できる人は、転居してもらう必要があります。それが本来の考え方です。今のように、特養ホームを有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅のように『高齢者の住宅の一つ』とするのであれば、それこそ社会保障費の使い方としてあまりにも不公平だということがわかるでしょう。

 二つ目の問題は、『特養ホームはセーフティネットなのか・・』ということです。
 述べたように、特養ホームは老人福祉法に規定された老人福祉施設であり、介護保険だけでは対応できない要介護高齢者のためのセーフティネットの役割を持つものです。日本の社会保障は、社会保険と社会福祉の二段階の共助・公助の制度となっており、仕事がなくなったり、病気になったり、介護が必要になった時のために保険料を支払っておく保険システムが中心です。そして、そこから漏れてしまう社会的弱者のために社会福祉制度があります。セーフティネットとは、様々な要因が重なり、生活水準が急激に悪化しても、それが一定水準以下(健康で文化的な生活)に陥らないように最終ラインに張る『防護ネット』をイメージした言葉であり、それを担っているのが社会福祉施策だと言って良いでしょう。
 しかし、ここで指摘したいのは、現在の特養ホームは、このセーフティネットとはかけ離れた水準に張られているということです。
 
 「要介護高齢者の住居」 「要介護高齢者への個別ケア」 という視点に立てば、ユニット型個室特養ホーム(新型特養ホーム)は非常に優れたものです。10人単位の小さなユニット、高齢者それぞれの生活リズム、ニーズを理解したスタッフによる手厚い個別ケア、要介護高齢者の住居としては、一つの理想だと言って良いでしょう。
 しかし、その理想を形にするには、指定基準【3:1配置】の二倍近い多くの介護スタッフと、それに見合った莫大な社会保障費が必要となります。
 『私は福祉施設のくせに贅沢だ』と言っているのではありません。セーフティネットの高さを挙げることに反対しているわけでもありません。社会保障の財源や、それを支える人材など社会資源にも十分に余裕があり、現在の特養ホームの価格程度(低所得者には減額措置)ですべての入所希望者・入所対象者が利用でき、『より広い部屋で生活したい』『24時間看護師が常駐してほしい』というより手厚いサービスを求める人は、民間の高齢者住宅を選択するというのが理想でしょう。



 しかし、実際はそうはなりません。今後、自宅で生活できない要介護高齢者は急増しますが、財源・人材ともに、配分可能なパイは限られています。希望者すべてが入所できるだけの特養ホームを低価格で作り続けることは100%不可能です。
 また、現在のユニット型個室特養ホームの実質的な運営基準、スタッフ配置は、大半の介護付有料老人ホームよりも手厚いものとなっていますから、このラインをセーフティネットだとするならば、現在の大半の介護付有料老人ホームは憲法違反だということになります。言い換えれば、介護保険法の指定基準そのものがセーフティネット以下に設定されているということです。
 それは莫大な公費を投入して、一戸あたり100㎡の豪華マンションタイプの公営住宅を作っているようなものです。その隣に民間のデベロッパーが同レベル賃貸マンションを作ると家賃は月額30万円になるけれど、公営住宅なので家賃10万円ということになれば、申込者が殺到するのは当然です。たまたま、その公営住宅の抽選に当たった人は、二十三重の手厚い保護を受けられ優雅な生活ができるけれど、大半の人はそのしわ寄せで高い税金・保険料を支払いながら、劣悪な環境の住居で生活していることになります。
 そう考えると、現在のユニット型個室の特養ホームは、社会保障、老人福祉施策の全体から見ると、突出して歪なものであるということがわかるでしょう。


課題④に続く