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特養ホームのホテルコスト見直し の課題  ④      2013/12/17


前回から続く

 現在の特養ホームの抱える最大の問題は、二重三重もの手厚い公的支援を受けて開設・運営されているにも関わらず、本来のセーフティネット、老人福祉施設としての目的や役割を、完全に見失っているということです。
 まずは、事業者サイドから、その課題を整理します。

 問題の一つは、ホテルコストの設定が事業者に任されていることです。
 本来、老人福祉施設は、自宅で生活することが困難な地域の社会的弱者に対するセーフティネットの役割をもつものですから、その基準、利用方法、費用は国や地方自治体の責任で決められるべきものです。しかし、現在の特養ホームの居住費や食費は、建設費や食事原価等を勘案して、それぞれの施設が自由に決めて良いことになっています。
 独立行政法人福祉医療機構が毎年発表している『ユニット型特別養護老人ホームの実態調査について』を見ると、ホテルコストの金額が見えてきます。平成25年5月発表(平成21年度分)、平成24年5月発表(平成20年度開設分)から、ユニット型特養ホームのホテルコスト(居住費)をピックアップしたものが次の表です。



前々回で述べたように、ユニット型個室特養ホームの居住費の基準額は、一日1970円です。しかし、平成21年度に開設されたユニット型個室特養ホームの実際の居住費の平均は一日2334円、平成20年度は2422円となっています。最大値は、それぞれ4860円、4780円です。社会的弱者に対するセーフティネットとして同じ基準で作られたはずの福祉施設でも施設間で居住費に差があり、その設定金額は基準額の二倍以上になっています。
これが、事業者にとってどういう意味をもつのでしょうか。
この示されたホテルコストは、減額措置のない第四段階の高齢者を対象としたものです。第一段階~第三段階の高齢者は、それぞれ減額措置によって支払上限額が設定されています。
減額を行う際の基礎となる居住費の基準費用額は1970円です。ホテルコストが1970円の特養ホームが、上記表の第三段階の高齢者(非課税世帯)を入所させた場合、負担限度額は1310円ですから、基準費用額との差額660円(1970円-1310円)は介護保険から支出されます。



 一方、基準費用額以上の一日2500円のホテルコストを設定している特養ホームが、第三段階の高齢者(非課税世帯)を入所させた場合、本人負担限度額は制度で決められていますから同じく1640円です。基準費用額との差額660円(1970円-1310円)は介護保険が支出されます。しかし、基準額を超えた部分の530円(2500円-1970円)は基準額以上となりますから、介護保険からも支出されませんし、入所者からももらえません。施設が負担(減額)しなければなりません。
 一人一日530円ですから、50名の減額対象者がいると、1年間で1000万円近くの収入減となります。ホテルコスト4500円の特養ホームだと、その差は一人一日2530円、50人で年間4600万円を超えるのです。他の収支は変わりませんので、そのまま余剰金(民間企業で言えば、最終利益)が減ることになります。
 特養ホーム、社会福祉施設は営利事業ではありませんから、この高額なホテルコストの算定は利益を挙げるためのものではなく、建設費から算定して、この金額でないと運営が成り立たないということが前提です。2500円、4500円にしなくても経営が成り立つのであれば、その金額設定自体に問題があることになります。そう考えると基準額以上のホテルコストを設定している特養ホームは、社会的弱者の福祉施設として、最初から完全に矛盾しているのです。

 問題は、これが入所者選定に直結するということです。
 介護保険制度以前は、特養ホームなどの福祉施設の入所の申し込みは市町村に行い、行政措置によって入所する施設が決められていました。そのため、自分の入所する特養ホームを選ぶことはできませんでした。
 しかし、介護保険制度の発足以降、入所者と特養ホーム・ケアハウスとの個別契約となっています。その入所者選定にあたっては、「重度要介護優先」「独居高齢者優先」など、一定の基準が示されているものの、各老人ホームへの申し込みとなっているため、最終的にその入所の順番は、それぞれの老人ホームで選ぶことになります。
 基準以上のホテルコストを設定している特養ホームは、減額対象となる低所得者を入所させると収支が悪化するのですから、特養ホームの中には減額の必要のない第四段階の高齢者が100%と、低所得者を実質的に対象外としているところもあります。
 営利目的の事業であれば、市場原理・競争原理が働きますから、各事業者がその責任において価格を設定し入居者を選べば良いのですが、高額の補助金を受け社会的弱者のセーフティネットの役割をもつ福祉施設が各施設で居住費を決め、入所者を選ぶというのは、どう考えても本来の目的から離れています。
 つまり、老人福祉施設・セーフティネットとして手厚い社会保障を受けているにもかかわらず、収入の多い富裕層のみを対象とした特養ホームという、本末転倒の福祉施設が生まれているのです。


課題⑤に続く