HOME > ニュースを読む 本質を知る 情報を活かす

特養ホームのホテルコスト見直し の課題  ⑤      2013/12/18


前回から続く

 介護保険の世界では、『要介護』と言う言葉がありますが、介護保険で対応すべき『要介護』と老人福祉が対応すべき『要福祉』(これは私の造語です)の対象者は違います。怪我や病気で病院にかかる人すべてに福祉的サポートが必要でないのと同じです。
 以前、厚労省は、特養ホームの対象者を要介護3以上に限定しようとし、業界からの反対で断念したことがありますが、いかに制度設計が混乱しているかわかるでしょう。現在のユニット型個室特養ホームは要介護への対応だけが中心となっているため、本来の役割である『要福祉』への対応が疎かになりセーフティネットが崩壊しているのです。
 前回は、事業者サイドから見た現在の特養ホームのホテルコストの課題について述べましたが、今回は、入所希望者サイドからみた課題について整理します。

 今回の問題を考えるきっかけとなっているニュースは、特養ホームのホテルコストの見直しです。
 入所者の立場から、特養ホームに入所した場合の月額負担がどのようになるのかをまとめたものが下の表です。



 ここに含まれる金額は、居住費、食費、介護保険の一割負担(第一段階の生活保護は不要)です。実際には、要介護度や地域加算、事業者毎の加算項目などで変わってきますが、基準となる金額は、ユニット型個室で12.5~13万円程度、従来型の多床室で、7.5~8万円程度というところでしょうか。居住費や食費は、低所得者に対する減額制度がありますから、支払額は小さくなります。しかし、これだけで生活できるわけではありません。病院にかかるための医療費(第一段階は除く)やお小遣いなどが必要ですから、これ以外に2万円程度は余裕が必要になります。
 問題は、この金額設定から何が読み取れるか、どのような高齢者が入居しやすいかです。



 ユニット型個室の特養ホームがスタートした当初、第一段階(生活保護の受給者)は対象外とされていました。批判を受け、現在は一応対象に加えられていますが、ユニット型個室の特養ホームに第一段階の高齢者はほとんど入所していません。
 では第二段階はどうでしょう。第二段階のターゲットは、年金を含めた収入が80万円以下の高齢者です。国民年金の老齢基礎年金が満額で78.6万円ですから、国民年金のみの高齢者がイメージされていることがわかります。しかし、この国民年金を月額にすると月6.5万円程度ですから、家族からの支援やある程度の預貯金がないと、ユニット型個室に入所することはできません。
 『低所得者には多床室があるじゃないか・・』と言う人がいるかもしれません。営利事業として行われる民間の高齢者住宅であれば、支払可能額に合わせて選ぶということで良いでしょう。しかし、社会的弱者の特養ホームはセーフティネットとして莫大な社会保障費が投入されているものです。お金がないから『福祉の支援を受けられない』というのは、お金がないから公立小学校に入れない・・というのと同じレベルの話です。

 それでも、『多床室とユニット型個室と好きな方を選べばよい』という考えの人もいるでしょう。しかし問題は、現在、ユニット型個室の特養ホームしか建設されていないということです。
 一部の社会福祉法人からは、『この制度はおかしい』『地域ニーズに合わせて多床室も認めるべきだ・・』と何度も意見が出されています。『ユニット型個室』『多床室』の両方を運営する社会福祉法人の施設長によると、申込者はユニット型個室が2割、多床室が8割だと言います。しかし、それでも厚生労働省は頑としてユニット型個室の特養ホームしか認めない方針を貫いています。民主党政権時代の2009年に、16万床の特養ホームが開設されることになりましたが、すべてユニット型個室の特養ホームです。
 この歪は、現実の運用において拡大しています。
 待機者が増えている一方で、「個室の新型特養ホームしか入所しない」「新しい施設にしか申し込みをしていない」という高齢者・家族も増えています。また、『個室の特養ホームが空くまで、民間の有料老人ホームに入っている』と言う人もいます。
 彼らに共通するのは「緊急性がない」かつ「一定の支払い能力がある」ということです。介護虐待や孤独死の問題を見ると、現代社会においては『富裕層は社会的弱者でない』という訳ではありませんが、緊急的なサポートが必要なく、待つという余裕があるのですから、彼らは公費・税金で対応すべき、福祉施設の入所対象となる社会的弱者には当てはまりません。
 毎月13万円、15万円という費用を死ぬまで余裕で支払続けることのできる高齢者・家族は、高額な預貯金を持っていて家族も生活が安定している人、または公務員や大企業に勤務していた高齢者で、収入が300万円を超えるような人に限られるでしょう。つまり、本来のセーフティネットの対象者である行き場のない低資産・低所得の高齢者は特養ホームに入るためには何年も待たなければならないけれど、高額な年金をもらっている高齢者は短期間で、申し込めばすぐに特養ホームに入所できるという社会になるのです。
 現在の特養ホームは、「行き場のない高齢者」「社会的弱者」が最低限の生活を維持するための福祉施設・セーフティネットではなく、税金や社会保障をふんだんに使って作られた、低価格で高い、手厚いサービスが受けられる「中間層以上のためのケア付住宅」となっているのです。
 それは、金銭的にも精神的にも余裕のある高齢者・家族のために、福祉施策という名目で高額の社会保障費が支出されているということでもあります。そして、その皺寄せが、待機者を増大させ、「低所得者」「老老介護」など、本当に福祉サポートを必要としている高齢者・家族に届かないという歪を拡大させているのです。
課題⑥に続く