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「お泊りデイ事故」の課題の本質 ①     2014/01/19

 全国の政令市と県庁所在地、東京特別区の計74市区にある宿泊サービス付きの通所介護事業所「お泊りデイ」で宿泊時間に起きた転倒や誤飲などの事故は、2010年度以降少なくとも296件あり、26人が死亡していたことが読売新聞の調査でわかった。
 この宿泊サービスは介護保険の適用外のため、施設側に事故の報告義務はなく、自主的な報告を求めている市区は3割にとどまる。実際の事故はさらに多いとみられ、全国に広がる実際を把握できていな実態が浮き彫りとなった。
読売新聞1月19日
 読売新聞が昨年12月に行った調査は、20の政令都市、政令市を除く県庁所在地31市、東京23区にアンケートを送付して実施されたものです。その結果死亡事故は、この2010年4月以降の約4年間で、転倒や骨折、誤飲などの事故は296件、うち死亡事故は26件に上るとしています。
 この「お泊りデイ」というのは、通所介護(デイサービス)を行っている事業者が、その通所介護に付随して行っている宿泊サービスです。一般のデイサービスは、朝10時頃に迎えに行って、日中を入浴や食事、レクレーションなどで過ごしてもらい、午後4時頃に自宅に送るという通所(通い)のサービスですが、この午後4時から翌日の朝10時まで、デイサービスに泊まってもらおう・・というものです。この時間帯は介護保険対象外のサービス外になりますから、それぞれの事業者で一泊2000円など、各事業所で宿泊代を設定しています。
 このお泊りデイサービスの基礎となる通所介護(デイサービス)は、介護保険上のサービスであり、その時間帯に発生した骨折や死亡などの重大事故については、介護保険法に基づいて行政への届け出が求められています。
 しかし、この宿泊サービスの部分は介護保険適用外のために報告義務はなく、行政側も報告を求めているのは、東京特別区、神奈川、大阪市などの22市区にとどまり、求めていないところも52市区、お泊りデイの数さえ把握していないところも19市区に上るといいます。政令指定都市や中核都市でさえそのような状況ですから、全国的には全く把握されていないと言えるでしょう。この現状に対して、厚労省は15年度から、「お泊りデイ」を届け出制として、事故についても報告させるなど実態把握を進めるとしています。

 読売新聞さんは、社会保障の問題についてしっかり取り組んでおられますし、今回の調査も素晴らしいものだと思います。
 しかし、この「死亡事故が多い」「実態が把握されていない」というは、この「お泊りデイ」の抱える問題の中では、水面上にでてきた「氷山の一角」でしかありません。問題の本質は、何故このような「お泊りデイ」が増えているのかです。

 需要の側面から見れば、特養ホームやショートステイが少なく、行き場所のない高齢者がふえているから・・『やむなし・・』と考える人がいるかもしれません。
 しかし、そこには介護保険制度に対する根本的な誤解があります。
 介護保険制度の基礎は、要介護高齢者の最低限の介護看護サービスを提供するものです。基礎的な介護サービスは介護保険制度内で利用できますが、それ以上の手厚いサービス、特別なサービスを求める人は、『自費』で上乗せしてサービスを受けるというものです。
 しかし、この『お泊りデイ』は、介護保険以上の手厚い介護ニーズ、特殊な介護ニーズを持つ高齢者への独自のサービスとして発展しているのではありません。ショートステイ(短期入所)が一杯で、利用することができない高齢者・家族がやむなく利用しているにすぎません。高齢者は介護保険料を払っているのですから、自宅で生活できない要介護高齢者が増えているのであれば、行政はそれに対応するサービスを提供する義務があります。つまり、この問題は、都市部を中心に『保険あってサービスなし』という事態に陥っていることを示しているのです。厚労省が届け出制にして認めるということは、『最低限度のサービスを提供する』という介護保険制度の根幹を無視・放棄したということにほかなりません。
 また、その責任も曖昧で、「届け出」というボールを投げられた地方行政は大変です。そもそも、『デイサービス』ですから、介護保険施設や高齢者住宅、ショートステイのように、建物設備そのものが日常生活や寝泊りできる環境として作られているわけではありません。
 実際、介護事故や死亡事故が多発しているだけでなく、お泊りデイの中で虐待事件も発生しています。また、夜間のスタッフ配置はどうするのか、自然災害や火災などへの対応はどうするのか、消防法上はどのような位置づけになるのか課題は少なくありません。必ず、『静養ホーム たまゆら』のような大惨事が発生するでしょう。
 東京特別区、神奈川、大阪市などの22市区は、実体を把握するためにやむなく報告を求めているのでしょうが、『法的にはどのように位置づけですか?』『東京ではお泊りデイを認めているのですか?』と問われれば答えられないのです。

 このお泊りデイというのは、制度の歪に存在するいわば「脱法施設」です。こんなことが届け出制度として認められるのであれば、有料老人ホームの届け出もサ付住宅の登録も意味がなく、デイサービスを併設すれば複数部屋でも雑魚寝でも何でもあり・・ということになります。
 『ご利用者のために・・』『ご家族に頼まれてやむなく・・』という事業者もいるでしょうし、劣悪な事業者ばかりではないでしょう。しかし、宿泊に適した建物基準もなく、消防法上の対策も弱く、人員配置もなく、かつ日中のデイサービスを連続的に毎日利用してもらうのですから、一定の利用者数を確保し、上手く運営すれば莫大な利益を得ることができます。そこには、介護保険制度の本質であるケアマネジメントの正当性さえありません。行き場のない低所得者を対象として、介護保険料を搾取するような貧後ビジネスを認めることになるのです。

 ただ、これは事業者サイドの問題ではなく、制度設計上の課題です。
 このお泊りデイの本質的な問題は、ショートステイや特養ホームの整備や運用上の課題にあります。前回まで特養ホームの課題について述べましたので、次回、ショートステイの整備にかかる課題について整理します。


次回に続く