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「お泊りデイ事故」の課題の本質  ②     2014/01/20


前回から続く

 ショートステイという介護サービスは、訪問介護や通所介護と少し違う視点から利用されるもので、本人の要介護状態や希望というよりも、『介護疲れ』『突発的な事情』など家族のニーズという側面が大きくなります。普段は家族が介護しているけれど、『一ヶ月に一週間程度は介護から離れたい・・』という定期的なニーズや、『子供が交通事故で入院したので孫の世話に駆けつけたい』『腰を痛めて一週間程度は介護できない』といった臨時的・緊急避難的なニーズの二つに大きく分かれます。

 しかし、このショートステイサービスは、全国的に絶対的に不足しています。
 その利用はどのような状況にあるのか説明します。
 多くのショートステイの事業所は、2ヶ月・3ヶ月前から利用の申し込みを受け付けているため、その受付日に、一気に地域のケアマネジャーからの申し込みが殺到します。当然利用できる部屋数(ベッド数)は決まっていますから、ショートステイ事業者は、この圧倒的な申込み数の中から、数か月後の利用者を選ぶことになります。
 その選択に当たって、まず誰が優先されるかと言えば、これまで利用実績があり『一ヶ月に一週間、二週間』と定期的に申し込んでいる『常連さん』です。事業者から見ても、利用実績があり、その利用者の要介護状態や家族の状況などがわかっていれば安心です。逆に、新規利用者は、希望通りに利用できることはほとんどなく、運よく常連さんの隙間に入り込むことができれば僥倖、もしくはその3ヶ月の間に、常連さんが入院したり、亡くなられた場合のキャンセル待ちからスタートするというのが現実です。キャンセル待ちで利用に問題がなければ、常連さんの仲間入りです。
 臨時的・緊急的なショートステイの利用は、『緊急ショート枠』というものを設定しているところもありますが、本当にイザというときに安心して使えるか・・と言えば、ほぼ不可能だと言って良いでしょう。

 では、なぜショートステイの事業所は増えないのか・・。
 このショートステイは、特養ホームのような福祉施設ではなく介護保険の在宅サービスの一つであり、民間の株式会社でも参入が可能です。需要が高いのであれば、どうして民間事業者が参入しないのかという疑問がでてきます。
 その理由は簡単で、ショートステイ単体のビジネスは、社会福祉法人のショートステイと運営コストや経営環境が違いすぎるからです。
 現在のショートステイは、特養ホームに併設されているものが主流です。本体となる特養ホームは社会福祉法人が運営していますから、税制面でも大きな優遇措置が受けられますし、建設補助金も受けられます。土地や建物の共用設備・躯体は共用ですから、ショートステイ部分の建設に係る費用は抑えられます。運営上も、特養ホームと一体でスタッフを確保することで、そのメリットは大きくなります。
 ユニット型特養ホームの併設のショートステイと比較すると、少なくとも一日当たりのホテルコストは3000円程度は高額になるでしょう。それでも『緊急避難的な利用』という一定のニーズはあるでしょうが、それは、社会福祉法人のショートステイを利用できなかった人の補完的な役割や緊急利用が中心となり、不安定な経営にさらされることになります。

 ここで、もう一つ課題として挙げておきたいのは、低所得者対策との関係です。
 ショートステイは、特養ホームと同じように低所得者に対する減額措置があります。(詳細は、特養ホームホテルコスト見直しの課題①



 この減額措置は、民間のショートステイでも同じですが、そもそも民間のショートステイは基準額以上にホテルコストを高く設定しなければ運営できませんから、第三段階までの低所得者を対象外です。低所得の利用者や家族も、最初から高額なホテルコストを支払うことができませんから、ショートステイの数が増えても申し込むことはできません。
 ここで更に問題となるのは、民間のショートステイ事業者だけでなく、社会福祉法人のショートステイも低所得者ではなく、富裕層の利用者を優先しているということです。



 福祉医療機構「ユニット型特養ホーム無の実態調査について」の資料を見てもわかるように、特養ホームに併設される社会福祉法人の運営するショートステイの利用者は、第四段階の高齢者(つまり高い収入のある人)が平均値でも中央値でも50%を超えています。
 つまり、「ショートステイは絶対的に不足している」ということは事実ですが、お金のある人は、社会福祉法人のものでも民間のものでも利用できるのです。逆に、減額対象となる収入の少ない人(年金が155万円未満の人)は、利用することが難しいということなのです。

 特養ホームが足りないという話はよく聞きますが、介護疲れをいやすための定期的なショートステイの利用や緊急時の利用がスムーズにできれば、自宅で生活できる人や自宅で介護をしたいと考える家族は多いはずです。介護保険制度の公平性や財政の効率運用を考えても、ショートステイを増やすべきなのですが、このような制度設計では、民間のショートステイがふえるはずがありません。

 前回述べたように、介護保険制度の基礎は、要介護高齢者の最低限の介護看護サービスを提供するものです。基礎的な介護サービスは介護保険制度内で利用できますが、それ以上の手厚いサービス、特別なサービスを求める高齢者・家族は、『自費』で上乗せしてサービスを受けるというものです。
 しかし、現状において、自費で「お泊りデイ」を利用している人の大半は、富裕層ではなく、特養ホームからもショートステイからもはじかれた低所得者です。家族や入居者は、生活するような環境ではないとわかっていても、それしか選択肢がないのです。これを介護保険制度の自由選択と位置付ける厚労省の感覚は、完全に麻痺しており、あまりにも不条理です。