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社会福祉法人改革 優遇見直しの議論について     2014/02/06

 政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)は4日の会合で、介護や保育分野で、企業などの参入を促進する規制緩和策の原案を提示した。特別養護老人ホームの運営を企業にも参入可能とすることや、社会福祉法人への補助金や非課税措置など優遇策を見直し、企業などとの競争条件を対等にすることが柱。6月にまとめる規制改革会議の答申に向け、さらに議論を進める。
産経新聞 2月5日
 以前から行われている社会福祉法人のあり方や福祉施策に対する一般企業参入についての議論。社会福祉法人が提供する介護サービスが、民間企業の参入を妨げているのではないか・・という議論は、これまでも制度上の課題になっていました。

 例えば、通所介護。社会福祉法人の運営するデイサービスは、建設時に高額の建設補助や車の貸与などを受けていますし、その土地や建物にかかる固定資産税も法人税も事業税も非課税です。
 民間の事業者は家賃(または返済)や車のリース料で毎月50万円が必要だとすると、年間で600万円の経費がかかります。またそれらを差し引いた経常収支が400万円の黒字だったとしても、その400万円から固定資産税や事業税などを支払うことになるため、実際に手元に残る当期利益は半分程度になります。しかし、その地域で同じ利用者数・人件費で運営している社会福祉法人のデイサービスは1100万円(500万円+600万円)の余剰金がそのまま残ることになります。
 社会福祉法人の行っている通所介護が、民間の事業者とは違う福祉事業として特殊な役割を担っているというのであればわからなくもありませんが、全く同じ事業をしているのですから、誰が考えてもおかしいと感じるでしょう。

 また、この法人間の制度の歪、補助制度の違いは、介護サービス不足の原因、民間企業の参入の障壁にもなっています。
 今、全国的に最も不足している介護サービスはショートステイです。
 ショートステイは、特養ホームのような第一種社会福祉事業ではありませんから、株式会社でも運営することができます。しかし、社会福祉法人が運営するショートステイには、特養ホームの併設事業として多額の補助金が支出され、税制優遇などが行われているため、民間企業が全く同じ建物設備、スタッフ数でショートステイを作ろうとすると、ホテルコストは、社会福祉法人のものよりも3000円程度は高くなってしまいます。このように事業・ビジネスとしての土台が違うため民間企業は事業に参入できないのです。それが、ショートステイが足りないと言われながら、全国的に全く整備が進まない最大・唯一の理由です。(詳細は、『お泊りデイ事故』の課題の本質 ②)

 厚生労働省は、『社会福祉法人に優遇に見合った貢献を義務付ける』としていますが、傍目に聞いているとブラックジョークのように感じます。それは、本来役割や目的の違う、『老人福祉』と『介護保険』を意図的に混乱させ、目先の補助金を確保するために数字を捏造し、非効率で不公平な制度を作り出してきた張本人が厚生労働省だからです。
 その最たるものが、厚生労働者が聖域としている『特別養護老人ホーム』です。

 現在、核家族が中心の団塊の世代が後期高齢期に入っており、自宅で生活できない、行き場のない独居の要介護高齢者が爆発的に増加しています。それでも、まだ超高齢社会の入り口に立ったところですから、今後、ますます厳しい状況になることは間違いありません。
 要介護状態になり自宅で生活できないない人は特養ホームへ、お金のある人は介護付有料老人ホームへ・・と考えている人が多いようですが、現状は全く違います。現在のユニット型特養ホームは、スタッフ配置も建物設備基準も民間の高齢者住宅とは比較にならないほど高い基準で作られています。それ全く同じ基準で介護付有料老人ホームを作ると月額費用は30万円を超えます。特養ホームは13万円程度ですから、その差額は介護保険や建設補助金などの莫大な社会保障費で賄っているということになります。
 更に、現在の特養ホームは、本来の福祉施設・セーフティネットの理念とかけ離れたところにあります。現在作られている特養ホームは、これまでの複数人部屋ではなく、全室個室のユニット型特養ホームと呼ばれるものだけですが、この個室の特養ホームは、高額な老齢年金やある程度の金融資産(貯金)がなければ、月額費用を支払うことができません。 ある市町村で、『視覚障碍者のための特養ホーム』が計画されていますが、現行の制度では、預貯金も少なく、国民年金の障害年金しか収入のない視覚障害者は、障害者のために作られた個室の特養ホームには入れないのです。

 この背景には、厚労省の行ってきた作為的な政策誘導があります。
 『42万人の待機者がいるから・・』『特養ホームをふやすべき・・』と考える人も多いでしょうが、この42万人という数字は、『待機者数』ではなく、『申込者総数』であることがわかっています。措置の時代と違い、一人の高齢者が複数の特養ホームを申し込んでいますし、他の特養ホームに入所できた人、入院中の人、死亡した人、様々な人が含まれています。その申し込みの総数が42万人であり、実際の待機者とはかけ離れた数字なのです。この42万人というのは、もう6年以上前の数字であり、それ以降、全く調査されていないことを見ると、いかにいい加減な数字だったのかわかるでしょう。
 今では、実際に特養ホームの入所対象となる人は、その一割程度であることを厚労省も認めています。その数字も複数申込みが省かれていませんから、実際はもっと少なくなるでしょう。『待機者42万人だ・・・』と虚偽の情報を流し、選挙目的の国会議員を煽り立て、莫大な補助金でユニット型個室の特養ホームを16万床つくると決まってから、『調べてみると・・・』といったあまりにも、あまりにも作為的、詐欺的です。

 それでも、『いまでも特養ホームは足りないのは事実だ』という人もいるでしょう。しかし、それは『なかなか特養ホームに入れない・・』という人と、『思ったよりもすぐに入れた』という人に分かれているからです。
 ユニット型個室、従来型の特養ホームの二つの種類の特養ホームをもつ施設長に聞くと、従来型への申し込みが8割、ユニット型個室への申し込みが2割だと言います。つまり、ユニット型個室に申し込むことのできる高額な老齢年金をもらっている高齢者や、支払能力の高い金融資産をもつ人は、申込から数か月で入所できるのですが、老齢年金や障害年金のみで、預貯金の少ない人は従来の複数人部屋の特養ホームに殺到しているため、いつまでも入所できないのです。  つまり、要介護状態になり自宅で生活できないない人は特養ホームへ、お金のある人は介護付有料老人ホームへ・・と言う本来あるべき姿とは全く逆で、厚労省は目先の補助金や利権を目的に、莫大な社会保障費を使って、中間層以上の余裕のある人のための手厚いサービスが低価格で受けられる要介護高齢者住宅を作ってきたのです。


 これは社会福祉法人の課題と一体的なものです。
 一部の社会福祉法人は不公平や不適切というレベルの話ではありません。民間事業者とは比較にならないほど、ありとあらゆる優遇施策を受け運営される社会福祉法人の一法人あたりの余剰金は平均3億円、全国で2兆円に上ります。『福祉のドル箱』と称されるユニット型特養ホームの運営受託には、地方議員が暗躍し、理事長や理事に座って高額の役員報酬を受け取っています。また、その一部は行政の天下り先の温床となり、施設長や理事は福祉とは全く関係ない人が占めています。
 本来、特養ホームや老人福祉を担う社会福祉法人の役割は、介護サービスだけでは対応できない社会的弱者への対応です。しかし、厚生労働省は、数字を改ざんし、莫大な社会保障費を投入する一方で、本来の役割である社会的弱者を切り捨て、社会福祉法人を介護ビジネス法人として莫大な利権を育ててきたのです。
 介護保険財政の悪化、介護スタッフの人件費の低さなどが社会的課題として挙げられますが、そのお金がどこに流れているか、いかに無駄につかれているかわかるでしょう。自宅で生活する高齢者と比較すると、特養ホームの入所者には一人当たり年間180万円~200万円の社会保障費が投入されています。新しく作られたユニット型特養ホームは16万床とすると年間3000億円です。財政が極度にひっ迫し、行き場のない高齢者が町にあふれる中で、厚生労働省と地方自治体や一部の政治家が結託し、老人福祉や介護保険をクイモノにするという現状は、とても許されるものではありません。


 しかし、『規制改革委員』の意見に全面的に賛成するかと言えばそうではありません。
この問題は『規制を緩めて民間に開放すべき・・・・』といった視点から規制改革として議論すべきものではありません。規制改革側の意見は、『公平な競争を妨げる』『特養ホーム等を民間に開放すべきだ・・』と主張していますが、それは、厚生労働省と同様に『老人福祉』と『介護保険』の役割が混乱している人の意見です。
 医療と福祉の役割が違うように、介護保険と老人福祉の役割は、根本的に違うのです。
 介護保険は、純粋な介護サービスの提供を目的とした制度です。しかし、老人福祉は介護保険だけでは対応できない、介護虐待や介護拒否など複合的な福祉的な課題を持つ高齢者・要介護高齢者への対応を目的とした制度です。
 介護サービスは、民間企業の持つ効率性や営利性を追求するビジネスモデルに適応することはできますが、社会的弱者に対する福祉的な課題は効率性や営利性では解決できません。介護虐待や児童虐待などの困難な事例を営利事業として効率的に解決することなどできないでしょう。悲惨な生活をする社会的弱者の答えのない特殊なケースを、時間をかけて解きほぐし、何度も何度も訪問し、時には、人権や生命を守るために一定の強制力を持って対応するための福祉施策であり、それは営利を確保が目的となる民間企業ではできないから非営利団体として社会福祉法人があるのです。

 先ほど、社会福祉法人の一法人あたりの余剰金は平均3億円、全国で2兆円だ・・と言いましたが、それは一部の社会福祉法人が突出しているからです。実際30億円、40億円の余剰金を抱える社会福祉法人もあります。その一方で、胃が痛くなるほどの困難ケースに寄り添い、社会的弱者に対して真摯に対応している社会福祉法人ほど、経済的に困窮しています。24時間365日、休日手当や残業手当もなく、困難ケースに取り組んでいる相談員を何人も知っています。 
 それら本来の社会福祉事業に真摯に取り組んでいる社会福祉法人を切り捨て、真の福祉人を使い捨てにし、目先の補助金・福祉利権優先で老人福祉を崩壊させてきた厚生労働省のこれまでの施策を見れば、今更『社会福祉法人に優遇に見合った貢献を義務付ける』など、本気でやる気もできるはずもないのです。

 これからの超高齢社会に必要となるのは介護だけではありません。介護保険だけでは対応できない、独居認知症への対応、介護虐待などの難しい困難ケースがますます増えていきます。社会福祉法人の改革は不可欠だと考えていますが、それは、社会福祉法人を介護ビジネス法人として民間に開放することではなく、財政の効率運用、制度の公平性と言う視点からも、本来のセーフティネットとしての社会福祉法人にもどすべき、本来の老人福祉を取り戻す方向で検討しなければならないのです。