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特養ホーム入所待機者52万人、4年で10万人増     2014/03/26

 特養ホームへの入所を希望しながら入れない待機者が、昨年10月時点で、全国で52万人にのぼることが厚生労働省のまとめでわかった。平成21年の前回調査の約42万人より約10万人増えた。 全国の特養ホームは7865施設で、総定員は51万6000人。 要介護度別では要介護3以上が66%を占める。
 厚生労働省が、定期的に必ず発表する 「特養ホームが足りない」「施設整備が追い付いていない」というニュース。待機者42万人というのは、もうその10年くらい前から同じ数字だったのに、この4年で突如10万人増えたのか・・・また、以前、待機者情報をしっかりと管理しているいくつかの事業所を調査すると、待機者数の内、実質的にすぐに対応が必要な特養ホームの対象となるのは1割程度だった・・・という結果を公表していましたが、その話がどこに行ったのか・・・表面的なマスコミ報道だけではわからないことがたくさんあります。
 高齢化が進展しているために、特養ホームへの申し込みが増加しているのは事実であり、もちろん待機者数が増えていることは間違いありません。しかし、私は、待機者数がどうか・・というよりも、現行の制度で、ユニット型特養ホームを増やしてはいけないと考えています。
 高住経ネットやブログでも、その課題を述べていますが、一部繰り返しになりますが、現在の特養ホームの問題について、整理します。

① 高額な運営費用がかかる。

 ひとつは、その開設や運営に莫大な費用がかかるということです。
 現在、作られているユニット型個室特養ホームは重度要介護高齢者の住まいとしては、理想的なものだと言って良いのですが、その理想を維持するには、たくさんの人材とそれを支える高額な運営費がかかります。
 特養ホームの介護看護職員配置の指定基準は、入所者3名に対して介護看護職員1名という【3:1配置】であり、旧来の複数人部屋の特養ホームはその配置で運営されていました。しかし、最近の全室個室のユニット型個室特養ホームは、全室個室で1ユニット10名という居室配置を採っているため、1.8人のスタッフに対して、一人の介護看護スタッフ【1.8:1配置】が必要だとされており、それに応じて高い介護報酬が設定されています。建設補助など様々なものを勘案すると、在宅で生活する高齢者と比較して、ユニット型個室特養ホームの入所者には、一人当たり年間180万円もの社会保障費が多くかかると厚生労働省は公表しています。
 仮に、この52万人という数字が正しく、かつ定員数が現状のままと仮定すると、団塊の世代が後期高齢者になる10年後、15年後には、待機者は優に100万人を超えることになるでしょう。もし、この特養ホームの待機者数を減らすために、特養ホームを50万床、60万床つくるとすると、同時に、現在予測されている社会保障費の伸びに加え、年間、プラス1兆円以上の社会保障費が必要となります。

② 高齢者住宅との役割の混乱

 二点目は、高齢者住宅との役割の混乱です。
 厚生労働省は、特養ホームなどの介護保険施設は、「高齢者の住まいの役割をもつ」としています。
 『では、高齢者の住宅なのか?』と聞くと、『高齢者の住宅(住居)ではないが、高齢者の住まいである』という、何とも訳の分からない答えが返ってきます。そして、『高齢者個人の住まいであるから・・・』と、この10年程度は、新規開設にあたって、全室個室のユニット型個室特養ホームしか認めていません。
 一般的には、特養ホームよりも高いサービスを受けたい人は介護付有料老人ホームなどの民間の高齢者住宅へ入居すれば良いと考えるでしょう。しかし、現在主流のユニット型個室特養ホームには、介護付有料老人ホームよりも180万円もの高い社会保障費が投入されているのですから、ユニット型個室特養ホームと全く同じ基準で、介護付有料老人ホームをつくると、その月額支払費用は30万円を優に超えます。
 最近は、以前と比較すると、メッセージさんなど多くの企業で、月額20万円程度の低価格の介護付有料老人ホームが増えています。その多くは様々な経営努力のもとで月額費用が抑えられていますが、経営努力だけで、一人あたり年間180万円(月額15万円)もの支出カットができるはずがありません。そのため、介護看護スタッフなどの実質的な人員配置はユニット型特養ホームよりも低いのです。
 本来、特養ホームは、老人福祉施設であり、セーフティネットの役割を持つものであるからこそ、その運営は社会福祉法人に限定され、かつ高額な社会保障費が投入されているのであり、低価格で利用できるのです。
 言い換えれば、民間であれば30万円かかるサービスを、その半額以下で利用できるのですから、要介護高齢者が特養ホームに殺到するのは当然です。そのため、介護付有料老人ホームなどの高齢者住宅に入居していても、特養ホームへの申し込みをしている人はたくさんいます。
 現行制度のままで、財政的に特養ホームを作り続けることは不可能ですし、たまたま入所できた人だけは10数万円の月額費用で入所できるが、そこの入所できない人は、同じサービスを二倍以上の費用を支払わなければならないというのは、社会保障制度としてあまりにも不公平です。そして、もし特養ホームが高齢者の住まい(住宅?)なのであれば、民間の高齢者住宅は、それ以上の高いサービスを提供する、月額費用が40万円50万円という、一部の富裕層を対象としたものしか存在意義はなく、経営努力による低価格化は意味を失ってしまいます。当然、待機者ゼロになれば、現在の民間の高齢者住宅の大半は倒産します。

③ 社会福祉法人の混乱

 三点目は、社会福祉法人の役割の混乱です。
 政府の規制改革の中で、社会福祉法人の役割や特養ホームの運営の民間開放などが議論されています。
 特に、民間企業の経営団体からは、特養ホーム運営の民間開放の要望が強いようです。それは、今の特養ホームが、営利法人や経営者が垂涎の的とするほどに、利益が高いからです。
 特養ホームを運営している社会福祉法人あたりの余剰金は約3億円。全国で2兆円に上るとしています。
 私はコンサルタントとして何度も経験しましたが、社会福祉法人や特養ホームは、行政による認可事業ですから、地方議員が理事長を務めたり、行政の天下り先となっている社会福祉法人が圧倒的に有利に事業展開を進めることができます。中には、一つの社会福祉法人で30億、40億という余剰金を持っていたり、一部の理事が高額な報酬を受けていたり、理事長が運営している一般企業にその余剰金を横流しし、焦げ付くなどのトラブルも起きています。
 しかし、本来、社会福祉というのは、営利事業に向かないから公益事業として認可され、高い補助金が支出されているのです。一部の社会福祉法人は、優遇措置をたっぷりと受けた介護ビジネス法人として、高い利益をあげていますが、その一方で、本来の役割である介護虐待や介護拒否などの胃が痛くなるほどの困難ケースに寄り添い、社会的弱者に対して真摯に対応している社会福祉法人ほど、経済的に困窮しています。24時間365日、休日手当や残業手当もなく、困難ケースに取り組んでいる相談員を何人も知っています。
 「今の特養ホームは問題だ・・」というと、「現場のスタッフは頑張っている・・」と安易に反論される方がありますが、制度の根幹が間違っているために、必死で頑張っている介護職員や相談員の努力に報いることができないのです。

 ここまで、3つの問題を挙げました。
 現在のユニット型特養ホームは、財政運用やスタッフの介護動線や効率性を無視して、居住性の向上、理想だけを追い求めて作られたものです。そこには限りある財政や人材をどのように、公平に効率的に運用すべきか、超高齢社会の中で老人福祉施設はどうあるべきか・・という視点はありません。そして、莫大な社会保障費が投入される一方で、現場で働く職員には全く還元されず、天下りや一部の地方議員等の福祉利権となり、社会福祉法人は介護ビジネス法人となって、地域の老人福祉を衰退させています。

 問題はそれだけではありません。
 最大の問題は、現在の社会福祉法人の運営するユニット型特養ホームは、莫大な社会保障費が投入されセーフティネットとして整備されたものでありながら、お金のない人は入れないということです。

 特養ホームは、介護付有料老人ホーム等の民間の高齢者住宅と違い、年金程度で入れるように・・ということで、高額の社会保障費が投入されているため、月額利用料そのものが非常に安く設定されており、かつ、低所得者に対しては、独自の低所得者対策が行われています。
 それを一覧にしたものが、次の表です。



では、実際に、年金額だけで入れるのでしょうか。
 第一段階の高齢者は、生活保護の受給者。制度的にはユニット型個室特養ホームにも入居可能ですが、実質的に対象外と言って良いでしょう。
 第二段階というのは、収入が80万円未満の高齢者です。今年度の国民年金の老齢基礎年金額は、78.6万円ですから、その想定で検討されています。この第二段階の高齢者には、ホテルコストや食費だけでなく、介護保険の一割負担も上限額が決まっていますから、低価格で利用することができます。
 しかし、実際に計算すると、預貯金がない場合や家族等からの支援がない場合は、基礎年金だけで、ユニット型特養ホームに入所するのは難しいことがわかります。
 上記の表のように、収入が80万円の第二段階の高齢者がホームに支払うのは5.2万円ですが、それだけでなく介護保険料や健康保険料の他、病院にかかった場合、医療費も必要となります。日常生活の上でのおやつ代やお小遣い、洋服などの購入なども、生活していく上では必要でしょう。その費用が毎月1.5万円(かなり少なく見積もって)とすると、一ヶ月に必要な費用は6.7万円、年間で80万円を超えてしまいます。つまり、国民年金の基礎年金だけしかない高齢者は、入居できません。

 第三段階の高齢者も同様に計算してみます。
 収入金額が80万円~155万円、月額費用が8.5万円となります。ただし、保険料等も上がるので、その他生活費が2万円と仮定すると、月額の生活費は、少なく見積もっても10.5万円。年金収入のみでその年額が126万円以下の高齢者は入所できないということになります。
 最後の、第四段階、合計収入が155万円以上の第四段階の高齢者はどうでしょう。
 特養ホームへの支払いは13万円程度で、その他生活費は2.5万円と仮定すると、月額の生活費は15.5万円。年間では186万円となり、31万円のマイナスとなります。
 更に、現在、開設されているユニット型個室特養ホームは、老人福祉施設でありながら、家賃相当にあたりホテルコストを各施設で自由に設定することができます。表にあるように居住費の基準額は1970円ですが、この数年、開設される特養ホームのホテルコストの平均は2500円程度です。更に食費も自由に設定でき、高くなっていますから、第四段階の高齢者の負担は、13万円ではなく、15万円程度になっています。これに、その他生活費2.5万円を加えると、月額17.5万円、年間で210万円となります。
 厚生労働省は、モデル年金額を198万円(国民年金78.6万円+厚生年金119.9万円)としていますが、他に預貯金がなければ、モデルとしている200万円の年金収入のある高齢者も、一定額以上の預貯金がなければ、ユニット型特養ホームには入れないのです。



 高齢者の生活は年金だけでは難しく、ある程度預貯金が必要になるというのは事実です。
 また、特養ホームは老人福祉施設であるが、要介護状態になってから何度も転居することは高齢者の生活の安定上好ましくないため、一時的利用ではなく、居住性を高めなければならないということはわかります。
 しかし、特養ホームは、その役割以前に、要介護高齢者の最後の砦、最低限の生活を営むためのセーフティネットとして整備されてきたものです。その役割のために、莫大な社会保障費が投入されているのです。福祉や初等教育というのは、憲法に関わる国の義務であり、お金がない人は福祉施設に入れないというのは、貧乏人は公立小学校に行けない・・というのと同じです。

 最近は、さらに信じられないことが起きています。
 特養ホームはホテルコストや食費が自由に設定できるため、基準額と比較すると一日5000円以上の差がある高級特養ホームもあります。そうなると特養ホームに支払う月額費用だけで30万円に近くなります。その特養ホームでは、入所者全員が第四段階で、月額30万円の費用を負担できる人だけが入所しているのです。
 民間の介護付有料老人ホームであれば、45万円、50万円の価格設定となる高級老人ホームを、老人福祉施設の特養ホームとして建設し、30万円で提供し、富裕層ばかりが入所しています。それは福祉施設なのでしょぅか。これはあくまでも一例ですが、お金のない人は特養ホームに入りにくくなっているということは事実です。富裕層が豪華な生活をするために、特養ホームがあるわけではありません。事業者も信じられませんが、そのような施設を認可した厚労省も地方自治体も何を考えているのかわかりません。
 厚労省は、このユニット型個室しか認めていないために、平成24年度では特養ホームの個室率は2/3を超えています。しかし、テレビに出演されていた特養ホームの施設長の話を聞くと、個室への申し込みが2割、入所費用が安い共用部屋への申し込みが8割だと言います。
 そのため、特養ホームは足りない、52万人待ちだ・・・という一方で、ユニット型個室特養ホームに入れるだけのお金を持っている人は申し込みから数ヶ月で入所できます。しかし、年金や預貯金の少ない人、財政的に支援する家族のいない8割の人は、1/3の特養ホームに殺到し、2年待ち3年待ちはザラ・・という状況になっているのです。
 お金があれば、介護虐待などの福祉的課題は発生しないというわけではありませんが、金銭的な困窮と、福祉課題の発生は、当然リンクします。更に、自宅で生活できない、特養ホームにも入れない低所得の要介護高齢者は、必要の介護サービスや医療行為を押し付け、その報酬を搾取し、人権を無視したようなケアが行われている無届施設や一部の劣悪なサ高住に流れていくため、ここでも莫大な金額の社会保障費が無駄に使われています。すべて、特養ホームというセーフティネットが崩壊しているからです。

 このような状況を厚労省はどのように把握、判断しているのでしょうか。
 このようなニュースがでると、『特養ホームが足りない』『待機者は40万人、50万人だ・・』と、厚労省はじめ、一部の厚労族や、大衆迎合主義の国会議員や利権目的の地方議員が騒ぎ出すでしょう。
 しかし、その実態は、老人福祉の向上とは正反対の、300万円400万円の年金をもらえる公務員や数千万円の預貯金がある人が優先的に入所できる、「高齢者住宅ではないが高齢者の住まいの役割的なもの」です。こんな、一定以上のお金のある人を優先した福祉施設など、世界どこにもありません。それをこれからも老人福祉の名のもとに莫大な費用を使って作りつづけるつもりなのでしょうか。
 更に問題は複雑化しています。
 今後、財政悪化の深刻度は、急速に増していきますから、現在の一割負担は、二割負担三割負担となるでしょうし、低所得者対策には限界がありますから、全体として負担額は増えます。そうすると、一部の旧来の複数人部屋の特養ホームへの待機者が激増する一方で、莫大な費用を作って作られたユニット型特養ホームは空所のところがでてくるでしょう。一部では、もうすでにその状況に入っています。
 財政、人材ともに、絶対的に不足していることは明らかなのですから、その中で、最大限、公平で効率的な制度が構築できるように、智慧をしぼらなければなりません。「高齢者住宅ではないが高齢者の住まい」といった、ごまかしはやめて、高齢者・要介護高齢者の住まいの確保は高齢者住宅施策で推進し、優良な高齢者住宅には家賃補助などの低所得者対策を行うと同時に、これまでの特養ホームもその役割を福祉施策などの緊急対応に限定し、かつ現在のユニット型特養ホームは、絶対的に不足しているショートステイなどに開放するなど、政策を抜本的に見直さなければなりません。

 マスコミを含め、多くの人はセーフティネットの根本的な意味やその役割を理解していないように感じます。社会保障制度すべてがセーフティネットの役割を果たしているのではなく、全国民を対象とした皆保険皆年金と言う社会保険制度で、医療・介護・年金といった保険事故に対する予防線を張り、その予防線で対応できない人に対して社会福祉という最終ライン、セーフティネットを張っているのです。
 この予防線を高く張っても、そのあおりでセーフテネットが崩壊すれば、全体の社会保障制度としてみれば、穴が開いた状態になりますから、どれだけお金を投入しても、ざるの中に水を入れるようなものです。

「52万人の待機者がいる」「特養ホームが足りない」「特に東京などの都心部で不足している」というのであれば、特養ホームへの申込者が殺到している一方で、東京都の足立区では新しく開設されたユニット型特養ホームには待機者がなく、定員が埋まらないという状況を、厚労省はどのように説明するのでしょうか。