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社会福祉法人への天下りはなぜいけないのか  2014/10/04

 朝日新聞が、特養ホームや保育園を運営する社会福祉法人に、昨年度だけで少なくとも239人の幹部職員が再就職しているというニュースを配信しています。調べたのは47都道府県と20の政令指定都市の67自治体でその内5自治体は公表していないということですから、ひとつの自治体から毎年、4人程度がその地域の社会福祉法人に天下りしていることになります。
 それ以外の市町村については調査されていないために、実数はその数倍になるでしょうし、一般の公務員だけでなく、社会福祉法人の設立や補助金に、地元の県議や市議といった特別公務員が群がっているというのは、この業界ではよく知られた話です。社会福祉法人の設立や新規特養ホームの建設には補助金や認可が必要となりますから、天下り法人や議員が理事長や理事を務める法人が有利であることは言うまでもありません。一部の社会福祉法人や老人福祉は、完全に利権化しており、明らかに公務員の天下り先や議員のお財布として使われているのです。

 社会福祉という社会的弱者に対する事業・サービスが一般の株式会社のサービスと一線を画して行われてきたかといえば、効率性や営利を追求する民間のサービスでは対応できない特殊なものだから、言い換えれば、本来、利益がでるような事業ではないからです。
 マスコミや大手新聞社等でも、「介護」と「福祉」という言葉を明らかに混同して使う人が多いのですが、高齢者介護は、老人福祉や社会福祉法人の本来の役割ではありません。老人福祉はすべての高齢者のセーフティネットであり、近年では高齢者虐待、介護拒否(ネグレクト)、介護を拒む独居認知症高齢者への対応といった、訪問介護や通所介護などの介護サービスだけでは解決しない複雑な福祉的な課題への対応が求められています。一人ひとり、一つひとつのケースが違い、答えのない難しい課題について、何度も訪問し、時間をかけて話を聞きながら解決策を見出していく必要があります。もちろん、それが解決したからと言って利益や利潤が得られるわけでもありません。そのようなことは、営利法人では、とてもできません。
 長い間、高齢者介護が老人福祉の中で行われてきたのも、従来の大家族制度の「介護は家族が行うもの・・」という時代では、非常に特殊なものだったからです。「福祉」に関する法律ができたのは戦後のことであり、それまでは老人福祉に関わらず、児童福祉、母子福祉など福祉施策の基礎は、一部の篤志家が地域の社会的弱者のために資産を投げ打って、ボランティアで行ってきたのです。

 しかし、現在の社会福祉は全く変わってしまいました。
 福祉施策の充実のためには、国や地方自治体が全面に出なければいけないのですが、大きな予算が付くようになったために、新たに発生してきた問題が自治体や一部議員による「福祉の利権化」です。
 介護保険制度が発足したものの、老人福祉と介護保険との分離ができていないため、本来の老人福祉の役割は揺らいでいます。一部は、社会的弱者のための社会福祉法人ではなく介護サービス法人となっています。最近の特養ホームは高級リゾートホテルと見紛うほどの豪華さであり、お金のない人や認知症や手のかかる複合的な福祉課題のある人を排除しているところもあります。その一方で、巨額の税金、社会保障費が投入され、固定資産税や事業税などもすべて非課税で運営されているため、莫大な利益を挙げています。今や、その金額は一法人あたり3億円、中には30億、40億の余剰金があるところもあり、全国では二兆円を超えるとされています。それは福祉のためにほとんど使われず、これに自治体や一部議員が群がっているのです。

 この社会福祉法人に対する天下りが、どれほど日本の社会保障政策をゆがめているのか、二つの視点から簡単に述べておきます。

 一つは、指導監査が全く機能しないということ。
 社会福祉法人は、株式会社などの営利目的の一般法人ではなく、日本の社会福祉の増進のために設立された公益法人です。莫大な税金や社会保障費が投入され、非課税で運営されている事業ですから、適正に福祉事業が行われているのか、不正が行われていないか、行政による指導や監査が行われなければなりません。
 しかし、幹部職員の天下りや地方議員による運営が行われているため、その種の法人には全くチェック機能が働きません。
 例えば、ある政令指定都市にある社会福祉法人では、30億円を超える余剰金(それだけでもすごいが)を理事長が勝手に運用し、数億円という莫大な損失を発生させています。本来、社会福祉法人の資産運用は、銀行の定期預金や国債など損失が発生しないリスクのない運用に限られていますし、毎年、残高証明や証書などの原本の提示が求められます。もちろん法律上も理事長が勝手に資産運用することは許されません。私は社会福祉法人で働いていたのでわかりますが、この財政の安定は「いの一番」にチェックされる項目です。しかし、その行政機関の社会保障分野の元トップだったその天下り理事長には、莫大な損失が発生するまで全く指導が行われず、長い間、やりたい放題が許されていました。本来、制度を逸脱して、社会福祉法人に対して損出を与えた理事長は、その損失を個人で負担させるべきですが、退任しただけで何のお咎めもありません。どのような流れでその不正が行われたのか、資産の一部を私物化していなかったのか、その後どうなったのかという調査も行われていません。
 また、天下りのポストが足りなくなると、天下りの温床となっている社会福祉法人が、政令指定都市の元局長に何の規定も作らないままに顧問料として毎月数十万円を払っていたという事例もありますし、地方議員が自分の親族を理事にして何も仕事をしないのに給与を払っていたり、その資金を自分の関連会社に流していたり、関連会社から高額物品を購入させたりと、勝手し放題となっています。それは、このような財政上の不正だけでなく、職員による虐待なども、全く指摘もされないため、ほとんど表にでてきませんし、書面に残すと後々問題となるので、改善もされません。
 老人福祉は介護保険との歪が意図的に作り出され、完全に利権化し、公益な資産が不正に搾取されても誰も責任を取らない仕組みになっているのです。

 もう一つは、介護スタッフなどの職員のやる気や士気への影響です。
 現在、介護スタッフ不足が多くの事業所で深刻になっている。私は、「高齢者介護という仕事の未来について考える」で述べているように、高齢者介護は安定性も将来性も高い仕事だと考えていますが 、これを阻害している大きな要因の一つが、この天下りです。
 この天下りをする幹部職員が介護スタッフとして働くわけではなく、その大半は施設長です。ご存じの通り、頑張って働いている現場の介護スタッフの給与はそれほど高くありませんが、仕事もしない理事長や施設長の給与は600万円~1000万円、それ以上ものです。すべての介護スタッフが施設長になりたいわけではないでしょうが、高齢者介護に携わる者の一つのゴールであることは間違いありません。
 本来、特養ホームの施設長という仕事はそう簡単なものではありません。介護事故や入所者のトラブル対応、サービスの質の向上など、たくさんの課題に取り組まなければなりません。虐待や暴力など、緊急性を伴う難しい福祉的な課題には、警察や行政機関とも連携して、施設長が率先して動かなければならないこともあるでしょう。加えて、人事や財務といったマネジメント能力も求められます。施設長には、高い技術、知識と大きな責任が伴うために高い待遇が示されているのです。
 施設長には、社会福祉士や介護福祉士などの介護・福祉関連資格に加え、在宅や施設での介護や福祉の様々な課題にあたってきた経験豊富でその知識や技術のある人が付くべきですが、お役所仕事で天下ってきた人は、何の能力も知識も、そしてやる気もありません。仕事が増えたり、自分の責任になるのが嫌で、難しいケースは避けて、部下まかせということになってしまいます。また、働くスタッフに対して適切な指導ができませんから、サービスの質はどんどん下がっていきます。困難ケースは見捨てられ、その地域の福祉力は低下し、セーフティネットの穴は、どんどん大きく深くなっていくのです。

 社会福祉法人に問題があるのではないかと指摘すると、「現場のスタッフは頑張っている」「介護スタッフが足りない」などと条件反射のように反論する人がいますが、現場を全く知らない、福祉や介護とはまった関係のない管理能力もトラブル対応力もない、天下り施設長がやってきて、高い給与をもらって、新聞読んだり、はんこを押したりするような事業所で、意欲を持って働き続けるスタッフがいるでしょうか。現場で、必死に介護を頑張っている介護スタッフの給与や待遇が上がらないのは、誰の責任でしょうか。彼等を使い捨てにして、その未来を潰しているのは誰でしょうか。
 「全体の一部だ」という人もいますが、一年間に数百人(恐らく全国では1000人を超えるでしょう)もの天下りがあるのであれば、「ごく一部」だとは言えませんし、なぜ業界団体として、「それはおかしいのではないか」「老人福祉を歪めているのではないか」と襟を正すことをしないのでしょうか。「多くはちゃんとやっている」ということは事実ですが、同じ穴のムジナだと老人福祉全体が不正の温床だとみられることになります。それが老人福祉の未来を閉ざすということを真剣に怒り、憂うべきではないでしょうか。

 介護スタッフが足りない、社会保障費が足りない・・というきびしい時代の中で、それでも自治体はこの天下りを辞めようとしませんし、またその親玉である厚労省もそれを止めようとしません。表の顔では「介護スタッフが足りない」「社会保障費が足りない」「増税、負担増やむなし」と叫んでいる人達が、その陰でどんな利権を得て、どんな不正なことをしているのかを見れば、この老人福祉を隠れ蓑にした闇が見えてくるでしょう。
 厚生労働省は、「社会福祉法人は莫大な余剰金を福祉のために使いましょう」と、いまさら首をかしげるような意味不明の指導していますが、今でも、自治体と社会福祉法人の癒着の中で、様々な不正が行われ隠ぺいされていますから、掛け声だけで、そんなことができるはずがありません。批判を避けるための単なるパフォーマンスにすぎないことは厚労省が一番わかっているはずです。本当に社会福祉法人を見直すのであれば、その基礎を歪めている社会福祉法人への天下りや地方議員への優遇をやめ、厳しい罰則を含めて、一つ一つの法人をしっかり指導、監査する方がよほど効果的です。

 独居高齢者が増え、自宅で生活できない行き場のない高齢者が激増する中で、介護サービスだけでは対応できない高齢者は激増し、老人福祉の役割はますます重要になっていきます。政財官の癒着ならぬ、『政福官』の癒着によって、その基礎を食い荒らそうとしているシロアリを退治しなければ、日本の超高齢社会に未来はありません。