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2015年 介護報酬改定についての所感 2015/01/13

 
2015年度の介護報酬の改定について、意見を求められることが多い。NHK、民放各社で、ニュースやワイドショーで報道をしているということは、国民的な注目が高いのだろう。
 ただ、「どうですか?」「経営に対する影響をどう評価しますか?」と言われても、評価のしようがない。現在の介護保険制度は、消費税を10%にしようが、15%にしようが、このままでは早晩、財政的に持たなくなることは明らかで、本来必要であるはずの抜本的な改正を、グズグズと先送りしただけのものだからだ。この程度の改定で、「経営に~」「収支が~」なんて真剣に言っているのであれば、事業者も早い目に店じまいを考えた方が良いだろう。

 もちろん、今回の改定は、茶番であることは間違いない。
 財務省は、「中小企業の利益率が3%程度なのに対して、介護サービス事業は8%だから、報酬の下げもやむなし」なんて言っているが、物事の本質が全く見えていない。
 例えば、「通所介護は利益率が高い」なんて言われているが、同じデイサービスでも、社会福祉法人は土地も建物も一部は車両でさえも補助されており、おまけにすべて非課税、一方の株式会社は全部経費は自前で、かつ利益の40%も税金で持って行かれる。となり同士、全く同じ規模・経営状態のデイサービスがあるとして、株式会社に3%の利益があれば、間違いなく社会福祉法人のものは、その数倍以上の利益がでている。この二つを平均することに何の意味があるというのだろう。
 これは、特定施設(介護付有料老人ホーム)の利益率も同様だ。
 今回の「利益率が高い」と言われたのは、介護付有料老人ホームやグループホームだが、これは家賃や食費なども含めてアメニティや上乗せサービスで利益が出ているわけで、介護付有料老人ホームなどは、介護報酬は一番安いのだから、人件費/介護報酬にするとトントンかほぼ赤字。 本来、「介護保険を核に、アメニティや上乗せサービスで利益を出してください」という視点が重要なのに、「ほら、全体として利益が出ているから報酬下げます」と言うのは、制度の理念を揺るがすものだ。
 更に有料老人ホームは、年度末には入居一時金の問題も抱えており、今後、長期入居リスクで収支が悪化して、この数年で倒産する事業者が一気に増えるだろう。

 もちろん、厚労省はその矛盾に気が付いているが、これを表面化することはしない。
 それは、自分達の福祉利権に直結する問題だからだ。
 現在の介護保険制度の根本的な問題は、「社会福祉と社会保険の役割の混乱」にあり、それは、「老人福祉と介護保険の役割の混乱」、言い換えれば「社会福祉法人と民間企業の役割の混乱」にある。
 先のデイサービスの例だけではない。
 特養ホームが足りないと言われているが、現在のユニット型個室の特養ホームには在宅と比較して年間、一人当たり180万円の社会保障費が多く投入されており、全く同じ基準で介護付有料老人ホームを作れば、その価格設定は30万円をゆうに超える。全く同じ建物設備、全く同じサービス内容で、13万円と30万円、あなたはどちらに申し込むだろうか。
 これは特養ホームだけではない。ショートステイが足りないと言われながら、民間企業の運営するショートステイが増えないのは、同じサービスであっても、特養ホーム併設のものと比較すると一週間の利用で、数万円高く利用料を設定しないといけないからだ。この老人福祉と介護保険の役割の混乱が、現在の社会保障制度の公正性、高齢者介護産業の健全な育成、介護ビジネスの公平な競争を大きく歪めていることは、間違いない。
 しかし、それは今回も議論にさえならなかった。「福祉の充実」と言えば、厳しい指摘もなく、みなさんもろ手を挙げていくらでもお金を出してくれるため、この利権や社会福祉法人を死守したい厚労省は、長期的視点も制度の課題を議論することもなく、全体のパーセンテージを下げるという手法を飲んだに過ぎない。
 私は老人福祉が不要だと言っているのではない。今後、介護虐待や介護拒否、周辺症状のある認知症高齢者など、介護保険だけでは対応できない、「要福祉」の「要介護」高齢者は激増する。ただ、老人福祉というのは、本来、すべての高齢者のセーフティネットである。莫大な社会保障費を投入して、それを利用できた人だけラッキー、利用できない人はアンラッキーなどというのは、福祉でも何でもない。
 さらに、以前述べたように、以前も述べたように、莫大な社会保障費を投入しているにも関わらず、現在の個室の特養ホームには、その月額13万円を払えないお金のない人は極端に入りにくく、お金持ちは選びやすく入りやすいという、致命的な欠陥がある。また、現在の老人福祉の一部は、莫大な余剰金を生み、一部の地方議員や地方自治体の天下り先となり利権化している。現在の老人福祉や介護保険は、制度としてはどうしようもないところにきているのだ

 ただ、団塊の世代が後期高齢者になるのはこれからで、こんな茶番がいつまでも続けられるはずがない。そう考えると、今回の改定で数%上がった・下がったなんてことはどうでも良いということがわかるだろう。

 今後のことを話をする。
 大きな方向性としては、次のようなものになると考えている。

  ① 第二種社会福祉事業に対する税制等の統一
  ② 個室型特養ホームは、住まいではなく緊急避難・ショート・中間施設へ
  ③ 旧型特養ホームは、認知症高齢者などの対策強化へ
  ④ 老健施設の役割の見直し(一部特養化へ)
  ⑤ 原則、二割負担(収入だけでなく、資産も含めた減額制度)
  ⑥ 報酬全体のリバランス(重度化配分が進む)
  ⑦ 高齢者住宅に対する報酬の一本化(区分支給限度額の引き下げ)
  ⑧ 不正請求に対する厳罰化

  
 その他、ケアマネジメントの独立性への支援(独立ケアマネを増やすということではない)も重要な視点となる。
 異論もあるだろうし、すべてが必ずその通りになるとも言わない。ただ、今回のような、どうでもいいような数%の改定を針小棒大にヤンヤヤンヤと大騒ぎするのではなく、もっと本質的な議論や、現在の制度の課題、長期的な視点、将来的な改定の方向性など、公平、公正、効率的な制度の在り方について、真剣に話をするべきだろう。
 もう、本当に時間もお金もないのだ。