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介護虐待の現実について 2015/5/21


 2015年に入ってから、無届施設における高齢者への虐待報道が続いている。
 2月、東京都北区にある医療法人の運営するシニアマンションでは、入居者に対して日常的に身体拘束が行われていた。報道によると入居する160人の内、その8割以上の130人(区が認定したのは内95名)もの高齢者が、紐や拘束具などでベッド柵につながれていたという。このシニアマンションを運営する医療法人は、「生命、身体を保護するために医師の指示によってやむなく行ったもので、身体拘束や虐待ではない」と反論している。
 翌3月には、名古屋の無届施設では、三人の介護スタッフが逮捕された。
 93歳の認知症の高齢者に対して、暴行を加えている様子を自らスマートホンで撮影、その動画をLINEで共有していたという。鼻の中に指を入れて上に持ち上げる、口の中に手を入れて上下に動かすなどの暴行を行い、その映像には、被害にあった93歳の女性高齢者の「いやいや・・」「やめて・・」という悲鳴や、暴行を行う介護スタッフの笑い声が記録されており、70歳男性の衣類を脱がして撮影した画像も含まれているという。当施設の女性社長は、「悪ふざけしたのだと思う」と答えている。
 同様の問題は、無届施設だけでなく、特養ホームなどでも起こっている。

 このような老人ホームや介護施設、無届施設と呼ばれる場所で介護スタッフによって行われる虐待事件はこれまでもニュース等で報道されることがあったのだが、この数年で、その様相は大きく変化している。
 これまで多かったのは、スタッフ個人による暴力や虐待だ。
 介護スタッフが食事介助中に、認知症の高齢者に「こんなまずいもの食えるか」と顔に向けて食事を吐き出され、思わず頬をたたいてしまったというケース。筆者も20年以上前になるが、ある老人病院で介護スタッフを始めた頃、同じ経験をしたことがある。さすがに叩くことはなかったけれど、認知症の高齢者だとわかっていても、夜勤明けなどで疲れていれば、瞬間的にムッとなることはある。
 また、通常、介護は一対一で行われるため、夜勤など人の少ないときに、他のスタッフに隠れて入居者の腿を抓ったり、叩いたりするというケースも報告されている。重度の認知症高齢者は自分で被害を訴えることができないことや、本人も管理者や他のスタッフに見つからないように虐待しているため、その発見、発覚が遅れてしまう。老人ホームの介護職だけでなく、大学病院で、看護師が入院患者に対して虐待や暴行を行っていたという事例もある。
 大学教授など識者や専門家とよばれる人達が、介護虐待の原因について、「介護労働は、責任の重い仕事であり、加えて夜勤などもあり、身体的、精神的なストレスも大きいため」と解説することがあるが、それが一つの理由であることは間違いない。
 一時的、瞬間的に感情的になったスタッフも、普段は一生懸命に熱意をもって働いている人が多く、その行為に対して強い後悔、反省をしている。また、隠れて故意の虐待を行ったのは一人のスタッフであり、それ以外は、適切な介助介護を行っている。もちろん、どちらも高齢者介護のプロとして許される行為ではないが、行った個別のスタッフに反省を促し、再教育を行うなり、その個人のスタッフを特定し、厳しく懲戒すれば虐待はなくなる。

 しかし、近年目立つのが、このような個人的なものではなく、組織的な虐待と呼ばれるものである。
 上記二つの事例は、専門職種でなくても、第三者から見れば明らかに異常な状態であるが、それが表面化しても、「虐待ではない」「悪ふざけ」と認識が甘く、その重大性に気が付いていない。転倒すると危ないからと安易にベッドに括りつけたり、入居者をバカにしたり、暴行を加えたり、それを映像にとってみんなで笑ったりすることが、その法人では日常的に行われており、他のスタッフに見られても困らない、その事業者にとっては、見慣れた「通常の行為」であったということだ。
 これは、「介護労働のストレス」や「給与や待遇の低さ」とは何の関係もない。
 当該、逮捕されたスタッフを退職させたり、一変通りのスタッフ教育や研修を行うだけでは、正常な状態には戻らない。事業者、経営者だけでなく、そこで働く多くのスタッフが、「これは異常な状態だ」「ひどい虐待だ」と認識していないからだ。経営者や働くスタッフの、医療人、介護に携わる専門職としての認識が根本的に狂っており、このような組織的な虐待は、経営者やスタッフをすべて入れ替えない限り、改善することはできない。

 このようなニュースになったものだけでなく、無届施設での虐待と呼ばれる行為に対して、そこで働くスタッフからいくつもの相談が寄せられ、またマスコミなどからの相談や意見を求められることも増えてきた。複数の映像や音声、写真のほか、ケアプランと呼ばれる内部書類も目にしてきた。
 仕切りのカーテンもないような部屋に複数のベッドが置かれ、その上で、暴れても外れないように両手、両足がうっ血するほどきつくベッド柵に縛られている複数の高齢者。目はうつろで時折、奇声をあげている。「痛い、痛い、ほどいてぇ~」という悲鳴や、「何のために生きとんねん」「早く死ねジジイ」という暴言と、それを取り巻く複数人の笑い声も聞こえる。
 括られているために、トイレにも行けず、尿も便も垂れ流し。そのままの状態で三時間も四時間も放っておかれる。施設内は、清掃の行き届かない動物園のように常に排泄物の匂いが充満しているという。寝返りや手足を伸ばすことさえできず、あっという間に筋力は低下し、関節は拘縮、数週間のうちに歩けなくなってしまう。精神的に耐えられず、認知症の症状が急速に悪化する高齢者。
 不愉快や怒りというものではなく、人間として、ここまでひどいことができるのかと背筋が凍る。
 そのような日々、虐待を受けている高齢者について、自分の両親や自分自身の身に置きかえて、少し深く考えてみてほしい。このような無届施設に入所しているような要介護高齢者は、自宅でも生活できず、特養ホームにも入れないために行き場がない。人間として最低限の人格、人権さえ認められずにベッドに転がされたまま手足を括られ、身体的暴力や言葉による暴力、虐待が、継続的に24時間365日、死ぬまで続くことになる。自由の利かない体で、逃げ場所がない要介護高齢者にとって、それは、「安心、快適」などとは程遠い、「健康で、文化的な最低限度の生活」とは程遠い、まさに地獄だ。

 特養ホームに入れない、行き場のない、お金のない超高齢社会の一つの現実である。
 国も自治体も、責任になるのが嫌で、何も手を打とうとしないため、このような劣悪な事業者は増え続け、今後、ますます拡大していくことになる。