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「一億総活躍社会」は誰のものか  (下)     2015/11/30


 「高齢者住宅が足りない」と有料老人ホームに変わって、国交省からの補助金を得て、爆発的に増加してきたのがサービス付き高齢者向け住宅である。しかし、現在のサ高住を見る限り、要介護高齢者や家族の要望に応えられる、長期安定した経営が継続できるような商品なのかと言えば首を傾げざるを得ない。「需要は高まる」「ニーズがある」「補助金がでる」といった過剰な期待の中で、高齢者住宅という事業の特性、サービス提供責任や事業リスクというビジネスの根幹の検討が全く行われないままに作られているからだ。
 高齢者住宅の事業特性から、現在のサ高住の商品の脆弱性とその未来について考える。

 高齢者住宅は、「高齢者を対象とした民間の住宅ビジネス」である。
 ここから3つの事業特性を導き出すことができる。
 一つは、住宅事業であるということ。
 住宅・住居は生活の根幹であり、何よりも居住の安定が求められる。特に、高齢者は適応能力が低下していることから何度も生活環境が変わることは好ましくない。「高齢者住宅=終の棲家」と言われるのはそのためだ。ビジネスモデルとしても、土地・建物などの初期投資が巨額になることから、大規模修繕を含めた30年40年という長期安定経営、事業計画が不可欠になる。
 二つ目は、「身体機能の加齢変化」「要介護状態」への対応が求められるということ。
 高齢者住宅は、介護が必要になっても、重度要介護状態になっても安心して暮らせるというのがニーズの根幹である。「健康型」という「介護が必要になれば契約解除、退居」の有料老人ホームがあるが、要介護状態になった時には生活できない、車いすになれば退居しなければならないということでは、その基本的な機能を満たさない。
 そしてもう一つは、制度との関わりが強いということ。
 介護ビジネス、高齢者住宅ビジネスは、「介護保険制度を収支の基礎とした営利事業」という他に類例のない特殊なものである。国が管理する公的な社会保険であり貸し倒れのリスクはないが、逆に制度変更、報酬改定にその経営・収支が大きく左右される。
 この3つの事業特性から見た場合、現在の多くのサ高住に見られる商品、事業計画は、高齢者住宅のビジネスモデルとしては、あまりにも脆弱だ。
 現在のサ高住に見られる商品設計上の3つの課題を上げる。

【早めの住み替えニーズ】
 「高齢者住宅が足りない」と一般的に言われているが、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅と、自立高齢者を対象とした高齢者住宅は、建物設備や介護システムか基本的に異なっている。
 「要介護高齢者専用」の場合は、要介護高齢者の特性に合わせて介護システムや生活動線、介護動線などを設計すれば良い。しかし、「早めの住み替えニーズ」に対応するには、自立高齢者から要介護高齢者まで幅広いニーズに対応しなければならない。
 それは可能だろうか。
 もちろん不可能だとは言わない。しかし、それは「要介護高齢者専用の住宅」を作るよりも数段難しく、多様なニーズに対応しなければならないためコストがかかる。少なくとも、今の大半のサ高住では100%不可能だといって良い。
 例えば、建物設備。多くのサ高住では、居室フロアーと食堂フロアーが分離しており、エレベーターも一台しかない。移動介助が必要な車いすの高齢者が増えてくれば、一日、三回、食堂へ移動するだけで、大変な時間と介護の労力が必要になる。
 それは、生活動線、介護動線だけではない。食堂は、車いすの高齢者が増えても自由に出入りできるように、十分な広さを備えなければならない。入浴設備も要介護高齢者に対応する特殊な機能が求められる。しかし、現在、作られているサ高住は、通常の個室アパートにバリアフリー機能を付加した程度のものが大半で、とても要介護高齢者の増加には対応できない。
 これは、介護システムも同じことが言える。
 「介護が必要になれば介護保険が使える」「訪問介護併設で安心」などと標榜しているサ高住は多いが、訪問介護や通所介護などのポイント介助だけでは要介護高齢者の生活を支えることはできない。高齢者住宅に求められる介護は、自宅で受ける介護とは基本的に違うからだ。
 特に、中度~重度要介護高齢者の生活を支えるためには、「入浴介助」「排泄介助」など定期介助だけでなく、臨時のケア、隙間のケアに加え、状態把握や見守り声かけなどの間接介助の他、コール対応や緊急対応などが重要になる。



 しかし、上表のように、特定施設入居者生活介護とは違い、区分支給限度額方式の訪問介護は、ほとんど算定対象外である。要介護状態になった時に、「サ高住は、自宅ですから、自宅の安心と同じです」「見守りも緊急対応もしません」というのであれば、サ高住に入居する意味は、まったくない。
 また、経営コンサルタントの中には、「要介護高齢者が増えれば、特定施設の指定を受ければ良い」などという人もいるが、それは収支的にも、サービス実務的にも不可能である。
 そもそも、特定施設入居者介護の指定基準程度のスタッフ配置では、中度~重度要介護高齢者の増加に対応できない。加えて、述べたようにサ高住は介護動線や生活動線が要介護高齢者専用になっていないため、介護の効率性は低く、余計に介護の手間がかかる。逆に「特定施設の指定を受け、指定基準以上の介護スタッフを配置するので月額費用を5万円値上げします」と言っても、入居者も家族も承諾しないだろう。運営している途中で介護報酬類型を変更することなど、できるはずがないのだ。
 この「早めの住み替えニーズ」への対応が難しいことは、すでに実証されている。
 現在のケアハウスは、要支援程度の高齢者が重度要介護状態になっても介護保険を使いながら生活できるようにと、平成元年にスタートした老人福祉施設である。この「早めの住み替えニーズ」のはしりだといって良い。人数は少ないものの夜勤の介護スタッフも常駐しておりサ高住とは比較にならないほどの機能や設備が整っている。しかし、それから25年以上が経っても、現在のケアハウスに中度・重度要介護高齢者は生活していない。要介護状態になれば、そこで生活することが難しいからだ。これが問題にならないのは、系列の法人で特養ホームが運営されており、そこに自動的、優先的に入所させているからだ。
 確かに、「要介護状態になってからではなく、元気なうちに住み替えて、介護が必要になる時になって生活環境が大きく変わらないようにしたい」というニーズはあるだろう。
 しかし、それは、「中度・重度要介護状態になった時にどうするのか」という課題が解決され、「重度要介護高齢者の住宅」が整備されて以降の話である。現在、計画されているサ高住の大半は要介護状態になれば、生活できなくなる高齢者住宅としては明らかな欠陥品である。
 実際、テレビのサ高住特集などを見ていても、そこに「安心です・快適です」と出演しているのは、自立度の高い高齢者ばかりである。
 「早めに住み替えた方が安心」と煽っているだけで、実際に加齢によって要介護状態になったときに、どのように対応するのかキチンと示したものは何一つない。
 今後、介護スタッフ不足はますます顕著になる。「元気なうちから住み替えて、介護が必要になっても住み慣れた環境で安心」などというのは空手形になることは間違いない。

【無理な低価格化・介護報酬の不正利用】
 二つ目の課題は、無理な低価格化である。
 前言を翻すようだが、サ高住でも、多くの要介護高齢者が生活しており、中にはその大半が中度・重度要介護高齢者であるところもある。
 しかし、その陰には介護報酬や医療保険の不正利用が隠されている。
 介護付有料老人ホームに適用されている特定施設入居者生活介護と、サ高住や住宅型有料老人ホームに適用される区分支給限度額方式の、介護報酬に含まれるサービスの違いを表にしたのが以下のものだ。



 特定施設入居者生活介護には、介護看護サービスだけでなく、施設長などのサービス管理の費用、生活相談員、ケアマネジャーなどの費用が含まれている。もちろんこれらは、高齢者住宅の介護関連サービスとしては必要・不可欠なものである。一方の区分支給限度額方式に含まれるのは、介護看護サービスだけである。加えて、述べたように、区分支給限度額方式の介護報酬に含まれるのは、定期介助だけであり、間接介助や緊急対応などは、基本的に介護報酬の算定対象外である。
 区分支給限度額方式のサ高住では、「サービス管理」「生活相談」「見守りなどの間接介護」「緊急対応」などは、介護保険が利用できないため、全額自己負担となる。つまり、本来、特定施設入居者生活介護の指定を受けた「介護付有料老人ホーム」よりも、サ高住の方が利用料は高くならないとおかしいのだ。
 しかし、ご存じの通り、「介護付有料老人ホームは高い」「サ高住は安い」というのが現在の状況である。
 何故、こんなことになっているのかと言えば、「一億総活躍社会」は誰のものか (中)で述べたように、家賃や食費をダンピングすることで入居者を集め、その代わりに介護保険や医療保険を押し売りしているからだ。
 もう少し、詳しく見てみよう。
 この特定施設入居者生活介護と区分支給限度額方式は、介護報酬の算定の考え方が基本的に違う。前者は包括算定であり、「Aさんの介護時間」が厳格に定められているわけではない。排泄介助、食事準備、食事介助、入浴介助、見守り、緊急対応など、介護スタッフは、臨機応変に動くことが可能だ。
 これに対して、区分支給限度額方式、「Aさんの介護報酬を使って行われる専属の介護時間」である。「30分の排泄介助」がケアプランで指定されていれば、ホームヘルパーは30分間そこに常駐しなければならない。10分程度でオムツ交換が終わり、他の入居者からのコールが鳴っていても、その場から動くことはできない。そう考えると、特定施設入居者生活介護の介護スタッフ配置よりも、より多くのホームヘルパーが必要になる。
 しかし、価格を抑えるためには要介護高齢者の多いサ高住でも、実際に働いているホームヘルパーの数は非常に少ない。つまり、適切に介護サービスが提供されておらず、サ高住の月額費用は安いが、そのコストは介護報酬の不正利用で賄っているにすぎないのだ。実際、通常の訪問介護と比較すると、このサ高住併設の「囲い込み型」の訪問介護は、非常に高い利益を上げている。
 問題は、このような不正を基礎としたビジネスモデルは続かないということだ。
 社会保障財政は悪化する一方であり、このような不正は誰が考えてもおかしいと思うだろう。「利用料が安いから良い」「入居者も家族も喜んでいる」というレベルの話ではない。これらの不正が許されるのであれば、特定施設入居者生活介護の指定を受け、介護保険制度に基づいて指定基準以上の介護看護スタッフを雇用し、法律を守って運営している事業者はバカを見ることになる。
 「適切に運用してください」「不正請求はやめてください」と言われるだけで、このような「囲い込み型」のサ高住の運営はできなくなる。そうなれば5万円~10万円の値上げを迫られるか、倒産するしか未来はないのだ。

【曖昧な事業責任・サービス管理者の不在】
 もう一つの問題は、「事業者不在」のサ高住が増えているということ。
 現在、補助金がもらえるということで、民間のデベロッパーはこぞって土地の遊休利用策としてサ高住の推進を行っている。一般の賃貸住宅には適さない場所であっても、「補助金がでますよ」「これからはサ高住の時代だ」と言えば、地主は話を聞いてくれるという。
 しかし、彼らは、単なる遊休土地の活用・不動産投資であって、「サ高住を運営する」という認識もなければ、経営やサービス管理のノウハウもない。時折、「この事業計画どう思いますか?」「この通り収益はでますか」という相談をいただくが、その収支計画以前に、「そのリスクや事業性を理解していますか?」と聞くと、「私は単なる家主ですから…」「事業性や責任と言われても…」と困惑したような応えが返ってくる。
 サ高住には、生活相談や安否確認などのサービスが義務付けられているが、それを提供するのは、デベロッパーが連れてきた「囲い込み型」の訪問介護事業者である。入居者募集から入居説明、生活相談まで、すべてその訪問介護事業者がやってくれるし、食事はテナントのレストランが供給するため、サ高住の制度さえ知らず、何の責任もないと思っている人が増えているのだ。
 これは、事業者だけが甘いのではない。
 そもそも、サ高住とはそういう制度なのだ。
 「サ高住は住宅だから、食事も介護も相談も個別契約が基本」というのが基本スタンスである。その結果、それぞれのサービスが適切に提供されているか、緊急時が発生した時にどうするのか、誰も管理する人がいない。つまり「安心、快適」と標榜していても、誰がそれを言っているのか、誰が担保してくれるのか事業者不在なのだ。併設のレストランが倒産すれば食事はどうするのか、「囲い込み型」の訪問介護が不正請求で指定解除されればどうなるのか、火災や食中毒が発生すればどうするのか、国も自治体も事業者も、誰も考えていないのだ。

 以上、現在のサ高住の商品上の3つの課題を挙げた。
 介護離職ゼロなどと言っているが、その実、「高齢者住宅が足りないから特養ホームやサ高住をたくさんつくろう」という安直な発想でしかない。それは、「大きな大学が移転してくるので、学生マンションをたくさん作ろう」と考えと同じだ。その事業性やリスクに関しては、「それは事業者の考えることで私たちには関係ない」という立場である。
 高齢者住宅の事業特性や一般の住宅との違いなど考えたこともなく、要介護状態になっても適切なサービスが受けられるのか、介護保険や医療保険財政にどのような影響を与えるのか、倒産事業者が増えればどうなるのか、なども思考の対象外である。厚労省は国交省は、たくさん補助金が出せれば「あとは野となれ山となれ」なのだろうか。それは、「高齢者住宅儲かりますよ」と言ってセールスしているデベロッパーとなんら変わりはない。
 現在でも、半数以上のサ高住は入居者不足で赤字だと言われている。儲かっているのは、行き場のない、特養ホームにも入れない独居の生活保護受給者を入れて、不正な貧困ビジネスを展開している事業者ばかりだ。

 ここまで、三回に渡って、高齢者住宅の問題を見てきたが、ここまでの課題を整理すると次のようなものになる。



 本来、高齢者住宅が超高齢社会に不可欠な理由は、需要の増加だけではない。要介護高齢者が集まって生活すれば、移動の時間が必要なく臨機応変に対応できるため、人材面でも財政面から見ても、効率的、効果的に運用が可能になるはずだ。
 限られた財源や人材を、公平に効率的、効果的に運用できる「要介護高齢者住宅」の整備が必要だったのだか、これを老人福祉施設の特養ホームで代替したために、民間の介護付有料老人ホームは経営が成り立たなくなっている。サ高住は、事業者不在、責任者不在で、一部は貧困ビジネス化し、その残りは入居者不足で経営が悪化している。高齢者住宅は他の用途に転用できないため、大半は廃墟になるだろう。
 5年後、10年後には、今よりも確実に介護スタッフは少なくなり、財政は悪化する。
 それでも目先の補助金を目的に、財政的にも不公平で非効率なユニット型特養ホームをつくり続け、制度も商品も不安定なサ高住をつくり続けるという。

 NHKの「日曜討論」で担当大臣が出席し、この問題が議論されていたが、出席者からは、押しなべて「施設の充実」「介護施設の増加」「介護報酬のアップ」という意見のみ。
 国も地方も財源や人材は限られており、それを増やせば解決するという意見は、あまりにも現実性の乏しく、チープだ。現在の課題を明確にしなければ、いくら、施設や住宅をつくろうと、有料老人ホームもサ高住も特養ホームも、すべてが崩壊していくことになる。