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「レストヴィラ赤塚」での入浴死亡事故について     2016/2/26


 2012年日2月に発生した『レストヴィラ赤塚』での死亡事故で、警視庁は、当時の施設長やケアマネジャーなど職員4名を業務上過失致死で書類送検する方針を固めた。
 この事故は非常によく覚えている。またこれは、介護事故の事業者責任、リスクマネジメントを考える上で、大きな転換点となるものである。
 今回の事故は何が問題なのか、そこから何を考えなければならないのか、  
  ≪①高齢者住宅のサービス管理のポイント≫
  ≪②どの点が問題だったのか≫
  ≪③今回の書類送検の意味するところ≫
 の三点について整理する。

入浴事故の概要・ポイント
 ① 女性入居者(パーキンソン病 要介護2) 転倒多い
 ② 2時15分頃に入浴、80分後に浴室でうつぶせ状態で発見。
 ③ 80分の間、見守りもケアも全く行っていなかった。
 ④ 当初、家族に「10分間目を話した隙に病死」と虚偽の説明
 ⑤ 事件発覚後、警察に対しては、「手が回らなかった」と説明

≪① 高齢者住宅のサービス管理のポイント≫
 高齢者住宅のレベル・良し悪しはどこで判断するのか、これからの高齢者住宅経営のサービス管理のポイントとなるキーワードは3つあると考えている。
 ひとつは、リスクマネジメント。
 高齢者住宅の対象は身体機能の低下した高齢者が対象であり、転倒・転落、誤嚥・窒息、溺水、火傷などの様々な事故が発生する。小さなミスが骨折や死亡などの重大事故に直結するリスクも高い。また、ノロウイルスやインフルエンザなどの集団感染の可能性は高く、重篤な状態になりやすいのがその特徴だ。万一、火災や災害が発生すれば、自分で逃げ出すことはできないため、多くの高齢者が死亡する大参事となる。高齢者住宅の特殊性に起因するこれらのリスクを正確に理解し、実務的な削減・予防・対応のノウハウを備えているのかは、高齢者住宅の資質・レベルをはかる重要なチェックポイントだ。
 二つ目は、ケアマネジメント。
 多くの人が勘違いしているが、ケアマネジメントは、介護・看護サービスの提供計画ではない。それぞれの高齢者の生活ニーズ・生活環境から、どうすれば安全に生活できるか、生活の質(QOL)を向上させられるか、その人らしい人生をおくることができるのかを真剣に考え、それぞれの高齢者に合わせて介護サービスなど様々な社会資源を結び付けていくそのプロセスの総称を差す。
 アセスメントからモニタリング、ケアカンファレンスを通じて、それぞれの生活ニーズやリスクに合わせて適切な介護看護サービスを提供しなければならない。
 もうひとつは、ディスクロージャー。
 高齢者住宅は、介護看護スタッフや入居者が決まった閉鎖的な空間であり、一度入居してしまえば、入居者・家族が弱い立場に立たされやすいという特性も持っている。問題が露見しにくいため介護虐待や隠ぺいが発生する土壌が揃っていると言えるだろう。入居者が安心して生活し、家族からの信頼を勝ち得るためには、徹底した情報の開示が必要となる。入居時説明、家族面談、ケアカンファレンスなどを通じて、家族・入居者からの意見を積極的に聞き、丁寧に説明するという仕組み・ノウハウが求められる。

≪② 何が問題だったのか≫
 この3つのチェックポイントに照らし合わせると、残念ながら当該事業者のレベル、法人の経営体質に対して、かなり厳しい評価をせざるを得ない。

 ひとつは、入浴介助の方法。
 当初、事業者は、家族に対して、
 『10分間、目を離した間に心肺停止になった。病死だ』と説明している。
 事業者はこれで問題がなかったと判断しているのかもしれないが、真実そうであったも、この入浴介助の方法は適切なものではない。入浴は、高齢者にとって身体的な負担が大きく、血圧の急激な上下を伴うことから心筋梗塞や脳出血、溺水などの可能性は高くなる。要介護高齢者であれば、入浴中は付き添う・目を離さないというのが基本だ。特に、当該入居者は、パーキンソン病で1年半ほどの間に46回の転倒事故を起こしているという。事故の発生を十分に予見できるため、10分ではなく1分の間に溺死したケースでも、民事裁判になれば確実に負けるだろう。
 事業者の責任にならない類似ケースを挙げろというのであれば、
 『入居者本人から10分は一人でゆっくり入浴したいので付き添うな・・』と言われ、
 『スタッフが付き添わないと危険だ・・』と何度説得しても聞き入れられず、
 家族も本人もリスクを理解し、納得の上で、異常があれば緊急コールを押してもらうなど十分に説明して、一人で入浴していただいていた・・という事例だけだ。本当に、『入浴中10分間、目を離した間に心肺停止となった』ケースだとして、だから『事業者には責任ない。介助ミスではない』というのは、高齢者介護の事業者責任・リスクマネジメントの考え方が根本的に間違っている。
 問題が発生したのは日中であり、80分もの間、入浴させていて他のスタッフも誰も気が付かないというのは異常である。この法人では、『入居者によっては、入浴中いつも10分くらいは目を離している(浴室を離れている)』ということが常態化していたということだろうか。

 二つ目は、隠ぺい。
 当時の報道によれば、当初、家族に対して、『10分間、目を離した間に心肺停止になった。病死だ』と説明していたという。しかし、実際は、80分もの間、全く見守りやケアをしていなかったことが分かっている。
 人間、不利益な事象が発生すると人に知られたくない、隠したくなるという心理が働くことは事実。ただ、隠ぺいがなぜいけないのか・・と言えば、『隠すのは悪いことだから』という倫理的なことではなく、確実に問題が悪化するからだ。
 もし、当初の虚偽の説明で家族が納得したとしても、本当は何が起こっていたのか、家族に虚偽の説明をしたことをしたことを、当事者だけでなく、全てのスタッフが知っている。事業者・管理者みずからが、不都合なことは隠してよい、ミスしてもわからなければ良いということを示しているのと同じだ。
 結果、スタッフもその社風に倣うことになる。介助ミスやヒヤリハット報告など全く上がってこず、サービスの管理などとてもできない。今回の死亡事故は、単なる介助ミスではなく、重過失に相当する事例だ。そのまま、何事もなかったように、『今度から気を付けてね・・』という程度で、済ませる予定だったのだろうか。
 今回の対応は、ディスクロージャーというよりも、基本的なコンプライアンスの意識が欠如していたと言わざるを得ない。『事故や急変を隠ぺいする事業者』『事業者の言うことは信頼できない』というイメージがつけば、『適切なサービスにおける避けられない事故』であったとしても、事故対応・トラブル対応は相当難しくなる。スタッフ募集、入居者募集に与える影響も計り知れない。
 三点目は、『他の入居者対応で忙しかった』という言い訳。
 確かに、介護付有料老人ホームと言っても、24時間一人のスタッフが一人の高齢者に付き添えるわけではなく、歩行中の転倒や誤嚥など、すべての介護事故を100%ゼロにすることは不可能だと言える。
 しかし、考えなければならないのは、介護事故に対する介護付有料老人ホームの安全配慮義務、事業者責任は、スタッフ配置に関わらず同じレベルのものを求められるということ。つまり【3:1配置】で低価格の介護付有料老人ホームだから、転倒しても仕方ない、目を離していてもやむを得ない・・ということにはならない。『忙しかったから・・』『他の入居者の対応していた』というのは、実務的にはイメージできるが、法的には通らない。
 最近は、低価格の高齢者住宅が増えているが、その大半はスタッフがぎりぎりの状態で運営が行われている。『転倒リスクの高い高齢者に対して、入浴介助が適切にできない』という介護システムは、基本的な事業者責任が負えない、つまり商品として瑕疵があると言えるだろう。

≪③ 今回の書類送検が意味するところ≫
 今回の書類送検は、高齢者住宅や介護ビジネスの介護事故やリスクマネジメントを考える上で、非常に大きな意味を持っている。
 一つは、個人が刑事責任を問われているということ。
 この介護事故に対する法的責任は、大きく分けて「刑事・民事・行政」の3つの責任がある。これまでも、転落・転倒・誤嚥窒息などでの死亡介護事故の裁判はたくさんあったが、そのほとんどは「民事責任」、つまり金銭的な損害賠償請求である。その請求対象は、基本的に個人ではなく、法人である。
 しかし、今回は、刑事事件である「業務上過失致死」である。今後、検察が起訴すれば、最悪の場合、それぞの職員が禁錮刑、つまり刑務所に入ることになる。損害賠償請求とは、全く意味合いが違うことがわかるだろう。
 二つ目は、ケアマネジャーや管理者までもが、書類送検されたということ。
 実は、件数は少ないまでも、これまでも重大な介助ミス(移乗介助中に落としたなど)で、入居者が亡くなった場合、当該、介護スタッフが業務上過失致死に問われることはあった。しかし、今回は、そこで直接介助を行っていなかったケアマネジャーや施設長までもが、書類送検されている。恐らくこれまで、一度もなかったことだ。
 どう言うことかと言えば、事故を直接発生させた当事者でなくても、「ケアマネジメントの重大な不備」「サービス管理上の重大な過失」に対して、ケアマネジャー・管理者が個人責任を問われる時代に入ったということだ。介護事故を考える上で、とても重要な事案であると言った意味がおわかりいただけるだろう。

 もしかすると、今回の報道を受けて、「ケアマネにそこまで責任を負わせるのか」「給与が安いのに・・大変な仕事なのに・・」と反発する人もいるかもしれない。
 ただ、私は、当然のことだと思っている。
 言うまでもなく、サービス管理者(施設長)は、その施設・事業所の責任者である。その入居者が安全に生活できるよう高い「安全配慮義務」が課せられている。法的に言えば、「予見可能性」と「結果回避義務」。「入浴は死亡事故が多い」「転倒するリスクが高い入居者」に対して、80分もの間、誰も気が付かないような入浴介助システムを放置していたのであれば、死亡に対して重大な過失があると問われても仕方ない。
 また、ケアマネジャーは一定の経験や知識を有する有資格者、プロである。
 同様に、入居者が安全に生活できるようにケアプランを策定するのがその役割だ。事故報告や入浴介助に対して、基本的なアセスメントやモニタリングが行われていなかったのではないかと推察される。
 もちろん、その内容や詳細、責任の有無について、十分な議論が必要であることは言うまでもない。ただ、「ケアマネにそこまで責任を負わせるのか」「ケアマネは大変だ」ではなく、「ケアマネジャーは重大な責務を負う仕事であるからこそ、その専門性を報酬単価で高く評価すべき」という議論をすべきだろう。

 ただ、一方で施設長を含め、この4人の職員を厳しく弾劾する気持ちにはならない。どちらかと言えば、非常に気の毒だと思っている。このような介護システム、ケアマネジメントに対して、誰も疑問を感じないような社風だったのだろう。外部から見れば信じられない事故だけれど、たまたま担当ケアマネジャーで、運悪くその日の入浴介助の担当でしかなく、誰ひとり書類送検されるなどと、思ってもみなかったろう。
 「業務上過失致死」に該当するか否かは別として、最大の責任者は、当時経営していた法人の経営者であることは言うまでもない。いい加減な気持ちで、儲かりそうだからと介護ビジネスや高齢者住宅を始めたために、信頼して入居した高齢者の生命を奪い、働いている職員の人生も大きく誤らせてしまったということだ。

 前回述べた、殺人事件の「メッセージ」、そして今回の入浴事故が発生した「ワタミの介護」は全く違うものだけれど、その背景は同じだ。どちらも事故やトラブルに対して、対応できるサービス管理者が育っておらず、その上にある本部のガバナンスがあまりにも脆弱であるということだ。

 ご存じの通り、この二つの企業は売却され、経営者が変わった。
 高齢者住宅の未来のためにも、大きく変わることを期待したい。