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「イリーゼ浦和大門」の入浴死亡事故について(2)     2017/1/12


 「イリーゼ浦和大門」の入浴事故について(1)」について、数人の方から、考えられない事故だけれど、複数の高齢者に対する訪問介護費として算定していたのではないか、介護保険法違反や不正請求にはあたらないのではないかというメールをいただきました。

確かに、「複数の高齢者に対する訪問介護費」という考え方について、厚労省は一定の指針を出しています。本来は、自宅で暮らす要介護状態の高齢者夫婦を対象として考えられたものですが、詳細な事例や禁止事項がないため、これをたてにして「複数で分割算定OK」と事業者が多いというのが実態です。
しかし、今回の事故は二つの面で非常に奥の深い、介護保険制の根幹に関わる大問題なのです。

① 責任は誰にあるのか
一つは、仮に「複数介助は何でも報酬算定OK」だとしても、それはケアマネジャーがこのような危険な入浴の複数介助を訪問介護員に指示したことが前提になるということです。
多くの人が、経営者の責任だと言っていますが、法的にはそうではありません。
住宅型有料老人ホームですから、同一法人であっても、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所は別の事業所であり、そのサービス提供責任はそれぞれにあります。損害賠償など民事的な問題であれば法人・経営者(同一法人だと仮定して)が対象になりますが、業務上過失致死の刑事罰の対象者は、「要介護5の特浴の高齢者を一人にして、他の入浴介助をしてもかまわない」と指示したケアマネシャーということになります。
ケアマネジャーは、介護資格、実務経験を基礎として試験に合格した専門職種です。
その高い専門性、職業倫理を元に、このような入浴介助を指示したのですから、その責任は重大です。

② ケアマネジメントの根幹に関わる問題
介護保険課は「規則などには違反したわけではないが、同ホームも職員数が少ないという認識はしていた」とコメントしていますが、そのコメントがいかに制度を理解していないか、頓珍漢なことか、さいたま市はわかっていません。
述べたように、サービス提供責任はそれぞれバラバラですから、今回の事故と当該有料老人ホームのスタッフ配置とは何の関係もありません。法的にみれば、「ケアプランの過失か(①のケース)」「訪問介護員の過失か(ケアプランはきちんとつくられたが、守っていない)」であって、介護事故に対して事業体としての有料老人ホームには何の責任もありません。
にわかには信じられないことですが、もし、そのようなコメントをさいたま市の介護保険課がしているのならば、「訪問介護員」の配置に沿って、有料老人ホームの管理者や経営者の指示に沿ってケアプラン、ケアマネジメントをしていることを、行政も認めているということになります。
「程度はともあれ、多く住宅型やサ高住でやっている」と思うかもしれませんが、このケアマネジメントに第三者が関与することが、またケアマネジャーがその指示に従うことが、どれほど重大な法律違反になるのかがわかっていません。
それは、医師が、医療のことを何もしらない第三者の指示に従って疾病の診断、病状の度合い、治療方針を変更するというのと全く同じことだからです。
「軽度の胃潰瘍だけれど、胃がんの恐れが高いということにしろ」
「本人にあった薬ではなく、一番利益率の高い薬を処方しろ」
「投薬で十分に治癒が可能だけれど、保険点数の高い開腹手術をしろ」
「胃がんのステージⅠだけれど、ステージⅢということにしろ」
と医師ではない第三者に言われて、それに従う医師がいるとすれば、それは明らかな医師法違反です。もしそれが発覚すれば、保険医の指定は取り消されることになります。
同様にケアプランの作成は、その専門性に基づいて、ケアマネジャーの有資格者のみに許された専門性の高い業務独占の仕事です。その専門性に対して、介護保険制度から介護報酬が支出されています。
「程度はともかく…」「好ましくはない」というレベルの不正ではないのです。
経営者がケアマネジメントの中身に口を出したり、その意向を受けてケアマネジャーがケアプランを改竄しているとすれば、それは制度の根幹に関わる重大な介護保険法の違反です。もし、そのような利益誘導のための不正利用が認められるのならば、介護保険制度そのものが崩壊します。

繰り返しますが、ニュースの記事が正しいとすれば、明らかな不正請求、重大な介護保険法違反です。さいたま市のように、こんなことが「規則違反ではない・・・」などというのであれば、ケアマネジメントもサービス管理も全く意味をなさないのです。

とはいえ、確かにこんな事業所で働いている介護スタッフもケアマネジャーも本当に気の毒です。ただ、あえて厳しい言い方をすれば、「介護の専門性を評価してほしい」「介護報酬を上げてほしい」と言いながら、このような不正に唯々諾々と従う認識の甘い、プロ意識に欠けるケアマネジャーや介護労働者がいるから、社会的に介護労働者の価値が上がらないのです。

経営者が、ケアマネジャーにケアマネジメントの不正を強要し、介護スタッフにに危険な入浴介助を命じ、刑事罰を問われるような仕事をさせていたとすれば最悪です。
ただ、これも経営者の責任だけかと言えば、そうではないと思っています。
このような大事故が発生し、不正が行われていたことが明らかになっても「制度的には問題ない」と握りつぶそうとするさいたま市、ひいては、このような不正が全国で行われているにもかかわらず、「複数の介護」「事業者の独自の判断」と黙認していた厚生労働省も、今回の死亡事故について真剣に考えるべきではないだろうか

「イリーゼ浦和大門」の入浴事故について(1)」