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「外国人技能実習制度」の介護労働参入について (下)     2017/1/15


 このような混乱した介護業界の中で「外国人技能実習制度」が介護労働に適用されると、どうなるのでしょうか。
介護職員の確保に困っている事業者は増えていますし、自国で働くよりも給与水準が高い日本に出稼ぎに来たいという東南アジアの若者もたくさんいます。景気動向に大きく左右される建設業や製造業などと違い、公的な介護保険が担保する安定した介護業界で働きたいという人は多いでしょう。
ベトナムなど東南アジアの若者と話をすると、「日本で働きたい」と優しい笑顔と、キラキラとした目で応えてくれます。
しかし、介護は、単なる対人サービスというだけでなく、非常に専門性の高い仕事です。
様々な身体状況、疾病、ニーズを持つ要介護高齢者、認知症高齢者が安全に、快適に生活できるよう支援するためには、介護だけでなく食事や医療など生活全般に関わる深い知識と高い技術、ノウハウが必要です。その要介護高齢者ですから、一瞬のミス、小さなスキが転倒や溺水、熱傷などの死亡事故につながるリスクの高い仕事でもあります
新しい介護職員に対しては、事故やトラブルが起きないように、適切に指導、教育を行っていかなければなりません。転倒、転落や誤嚥、窒息などの生活上の事故リスクの予防、発生時の対応力も重要です。火災や地震、感染症、食中毒などの知識、対策、訓練も必要になります

日本人であっても、介護の経験や、介護福祉士や介護職員初任者研修(ホームヘルパー)などの資格がない場合、最初の半年、一年程度は、実務よりも教育が中心となりますから、とても一人前の労働力としてカウントすることはできません。
特に、受け入れる外国人労働者は、無資格、未経験というだけでなく、読み書き、コミュニケーションが不十分です。また、サービスの対象は判断力やコミュニケーション能力が低下した要介護高齢者、認知症高齢者ですし、風習や考え方も基本的に違います。「本人が大丈夫と言ったから、大丈夫だろう」ではありません。安全に介助する方法を教育、指導するだけで、ベテランスタッフが付き切りで教育するなど、相当の手間と時間がかります。
「やる気が一番大事」という人がいますが、やる気だけでプロの介護はできません。
「外国人技能実習制度」を全面的に否定・反対しているのではありません。
ただ、本来の目的である、「高い知識・技術を得てもらう実習制度」なのであれば、受け入れ側にその準備と覚悟が必要です。「国際貢献」の理念を掲げ、かつ介護力に相当のチカラがある優良事業所しか手を上げられないはずです。
しかし、現状、それほどの余裕がある事業所はそう多くはありません。
通常の経営者・管理者の視点で考えれば、介護労働者不足であっても、初めから数年程度しか働くことのできない人に、そこまで研修や教育の手間をかけることはできません。逆に、このような制度に飛びついて利用するのは、主に介護の現場をしらない素人経営者、目先の介護労働者不足に喘いでいる事業者ということになるでしょう。
その結果、外国人介護労働者は、介護の基礎研修や介護事故に対する教育が十分に行われないまま、一人分の介護職員として、介護の現場で働かされることになるのです。

そうなると、間違いなく介護事故やトラブルが激増します。
それは本人の労務災害だけにとどまらず、高齢者の生命に危険を及ぼすということです。
現在でも、全国で、頭部打撲による脳出血、入浴中の溺水、熱傷などによる死亡事故が発生しています。
利用する要介護高齢者だけでなく、外国人介護労働者にとっても、そのリスクは小さくありません。民事裁判では数千万円という高額の損害賠償が認められています。また、死亡事故の場合、その介護職員は業務上過失致死で書類送検されることもあります。
もちろん、安全な介護は、それを専門職とするプロに求められる責務です。しかし、介護の専門性やその事故リスクや対策を全く教えられずに、「研修だ」と介護を始めた外国人労働者が、何が過失なのかわからないまま、刑事罰に問われる事態になるのです。
制度を主導している厚労省は、「それは受け入れた事業者責任」「本来の制度の理念に基づき教育の充実を」というでしょう。日本人の介護スタッフの労働環境の整備や最低限のリスクマネジメントができていない現状で、「受け入れ側の体制整備が必要だ」という言葉がいかに虚ろなものかわかるでしょう。
全くのご都合主義、二枚舌だと言わざるを得ません。
更に、事故リスクは、当該外国人介護職員だけではなく、一緒に働く日本人の介護職員にも及びます。特に、夜勤帯に慣れない外国人介護職員とペアを組んで仕事をするとなると、コミュニケーション不足、連携不足によって事故が発生する可能性は高く、業務負担は重くなるからです。最悪の場合、一緒に仕事をしていた介護職員だけでなく、ケアマネジャー、サービス管理者まで刑事罰を問われることになるのです。

「外国人技能実習制度」は、介護労働者不足に拍車をかけることになります。
それだけでなく、このままでは、日本にあこがれ、日本で働きたい、介護の勉強をしたいとやってくる人たちに、大変な迷惑がかかることになります。
「とりあえず介護労働者の頭数だけ増やせばいい」
「日本人だけで無理なら、日本で働きたい短期滞在の外国人を増やせばいい」
「そうすれば、人件費も安く抑えられるだろう」
という、その専門性を無視した量的確保だけを求めるような場当たり的な発想、施策では、意欲や熱意をもって、介護の仕事をしようという優秀な人材が集まるはずがないのです。

「外国人技能実習制度」の介護労働参入について(上)