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コラム1 今から始める高齢者住宅 事業計画の基礎知識
【ポイント38】建物・設備検討③
~居室空間の検討~

要介護高齢者を対象とした住宅の居住空間はどうあるべきか

 高専賃は言うまでもなく、新型特別養護老人ホームや介護有料老人ホームなど、要介護高齢者を対象とした高齢者施設・高齢者住宅は個室が基本となっています。居室配置については、ユニットケアなど、一定の考え方が示されていますが、居室内のあり方については、これまであまり検討・整理されていません。
 老人ホームや高齢者住宅は、これまでの複数人部屋の福祉施設のイメージが強く、現在は、まだ個室化への移行期にあるため、『個人の使い慣れた家具』『好きな色のカーテン』など、個室のメリットが中心に語られることが強いようです。ただ、これからの高齢者住宅には、機能的な側面から『要介護高齢者を対象とした住宅の居室空間はどうあるべきか』といった検討が必要です。

居室の広さ・居室内設備

   現在の有料老人ホーム・高専賃の居室の基準は次のようになっています。制度基準を整理しておくと、高専賃として登録する場合、原則として、住戸(つまり居室)内に台所、便所、収納・洗面・水洗トイレが必要です。
 ただし、共用設備として、食堂、台所、浴室、収納が十分な場合は、居室内の広さは18㎡以上で、居室内設備は水洗トイレと洗面があればOKだということになっています。逆に、有料老人ホームの介護居室は面積基準(13㎡)だけで、設備の規定はありません。



 それぞれの制度基準に沿っていれば十分というものではなく、快適に生活するためには、居室は広い方が良い、設備は整っている方が良いということになりますが、ここでは、要介護高齢者が生活するために、最低限必要な設備・広さについて考えます。
 まず、居室内設備ですが、一般的には『台所・便所・収納・洗面・浴室』があれば、日常生活を送る機能・設備が揃っているといえます。ただ、要介護高齢者の生活を考えると、浴室は『要介護高齢者が入浴できるような浴室は大きなスペースが必要となる』『要介護度の変化によって入浴設備は変わる』『一人で入浴することは危険で、見守りを含めた介助が必要となる』等の理由から、各居室に浴室を設置するのではなく、共用設備として充実させる方が良いと考えています。
 また、台所は一般家庭のような本格的な台所は不要ですが、家族が来た時にコーヒーを飲んだり、フルーツを切ったりする程度のミニキッチンはある方が良いでしょう。その他の『水洗トイレ・収納・洗面』は、要介護高齢者が生活する場合でも必要です。
 次に広さですが、有料老人ホームの場合、最低基準は13㎡以上ですが、トイレを自走車椅子対応とすると、広いトイレスペースが必要となることから、全体で13㎡となると実際の居住空間はかなり狭くなります。トイレや洗面、キッチン等を考えて設計すると、少なくとも、18㎡程度は必要となるでしょう。
 そのため、有料老人ホーム、一定水準の高専賃、どちらを選択するにしても、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅の居室空間としては、18㎡(キッチン・洗面・トイレ・収納付)、少し余裕をもった居室居住空間を求める場合は25㎡(キッチン・洗面・トイレ・収納付)が一つの基準になると考えています。


安全性・可変性・汎用性の高い居室設計

   高齢者住宅・老人ホームは安全なものだと考えられていますが、居室内での転倒や転落による骨折は毎日のように発生しています。入居者の居室内での生活動線を工夫することによって、より安全に、より安心して生活できる空間作りは大切です。
 この安全性には、可変性・汎用性も大きく関係してきます。
 居室検討で必要となる可変性は、自立歩行⇒自走車椅子⇒介助車椅子といった、個別の状態変化への対応力です。また、それは多様化する高齢者ニーズに対応できる汎用性にも繋がっていきます。入居者にとって、居室は、最も多くの時間を過ごすプライベート空間であり、生活の基礎となる場所です。そのためには、多くの高齢者が自分の生活に合わせてできるだけ、暮らしやすいようにカスタマイズできるような工夫が必要となります。
 当初は、可変性・汎用性を高めるために、広さや仕様の違う、いくつかのタイプの居室を設定することも検討したのですが、特に要介護高齢者の入居期間は限られており、かつ入居中に変化することを考えると、建物構造やハードまでをカスタマイズして作りこむのではなく、一定の基本仕様をベースにとして、その中で可変性・汎用性が高くなる工夫を検討すべきだという結論になりました。
 建物はハードですから、一人ひとりの身体状況に合わせて、一つ一つリフォームすることはできません。ただ、居室内トイレのあり方、手すり位置、建築資材の検討によって、できることはたくさんあります。
 有料老人ホームや高専賃の基準は制度上の最低基準であって、高齢者、要介護高齢者に相応しい居室モデルして設定されている訳ではありません。またその機能について、十分に議論さているものでもありません。『居室のあり方』も『居室内設備のあり方』も、まだ入り口に差し掛かったばかりです。
 建物設備設計は、介護・看護・食事等の同様に、大切なサービスの一つであり、同時に大きなセールスポイントとなりうるものです。入居希望者、見学希望者に対して『私たちはここまで入居者の生活環境を考えている』というアピールできる居室を検討しなければならないのです。