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『有料老人ホームの大倒産時代を回避せよ』の出版にあたって・・

高齢者住宅事業の特徴は、営利目的の事業でありながら、行政の制度・報酬変更に経営が大きく左右されるという点にあります。立場的に言えば、『介護報酬は上がるのが好ましい』『規制は少ない方がありがたい』のですが、残念ながら現在の制度・報酬体系がこのまま続くことはないと考えています。

 その理由は二つあります。
 一つは、現在の制度設計・報酬設計には問題や無駄が多いということです。
 厚労省と国交省の綱引き・縄張り争いの中で生まれた『有料老人ホーム』と『高齢者専用賃貸住宅』の二つの制度は、入居者保護施策を有名無実化し、その歪みが社会保障費を搾取する劣悪な無届施設等の低所得者ビジネスを増加させる原因となっています。
 また、軽度要介護高齢者に厚く、重度要介護高齢者に薄い特定施設入居者生活介護の報酬単価や、方向性の見えない一方的な総量規制は、どちらも数百億円単位の非効率な財政運用の温床となっています。その結果、同じような高齢者住宅事業を行っても基礎となる法律や規制が違っており、介護報酬の適用方法の選択によって、受け取る報酬が変わってくるという制度の根幹に関わる問題が発生しています。

 もう一つの問題は、末期的とも言うべき日本の財政状況です。
 成立した2010年度予算92兆円の内、当初の国債発行残高だけで過去最高の44兆円を突破、2011年度末の国の借金(国債残高・政府保証債務)は970兆円と、1000兆円に近づく莫大なものとなっています。この借金を返す見込みは全く立っておらず、逆に団塊の世代の高齢化によって社会保障費は右肩上がりで増えていきます。年金、医療、介護等の社会保障関係費は、2007年の91兆円から、2015年には、150~160兆になるとの見通しです。

 介護サービス事業、高齢者住宅事業は、この社会保障の財源問題を避けて通ることはできません。景気浮揚の兆しはほとんど見えず、その対策も行われていませんから、2011年度の予算は、更に厳しいものとなることは確実です。莫大な借金を抱えながら、子供にも手当を支給し、お年寄りにも手厚い対策を行い、かつ借金は増やさないということができるはずがありません。国家財政、地方自治体の破綻が目前に迫る中で、社会保障費だけが右肩上がりで増えていくというシナリオは、100%ないのです。
 私は、消費税の大幅アップ、地方自治体の財政破綻が続けば、社会保障にもパラダイムシフトが起こる可能性は高く、その変遷の過程で、大きな混乱は避けられないと考えています。

 本書は、『有料老人ホームがあぶない ~崩壊する高齢者住宅~』の続編とも言うべきものです。前著で述べた課題に対して、どのような対策を取るべきかを中心に述べていますが、残念ながら高齢者住宅事業の崩壊を完全に回避することはできないと考えています。
 ただし、21世紀日本が直面する高齢者への『介護対策、住宅対策、低所得者対策』を一体的に、かつ効果的・効率的に推進していくためには、高齢者住宅が大きな役割を果たし、その安定供給が不可欠だということも事実です。
 本書では、『基本ルール設定』『監査指導体制の強化』『介護と福祉の分離』『地方行政のマネジメント力の強化』を中心に論を展開しています。量的な観点から大きな政府に逆戻りさせるのではなく、必要なことは民間に委託し、限られた財源を効率的に運用するためには、行政の管理機能、チェック体制の強化は必要だと考えるからです。
 これまで福祉施策に限定されていた介護サービス事業に民間活力を導入するためにこそ、その土台作りを国の責任で担わなければなりません。途中で土台がぐらぐらと揺らいでは、産業としての健全な育成・発展など、できるはずがないのです。
 積極的な議論、前向きな批判は大歓迎です。本書がこれからの『高齢者の住まい』がどうあるべきかという方向性の一つとして活発に議論され、早急に対策がとられることを願ってやみません。

~はじめに~  より抜粋